第百二十八話 断末魔
こんばんわ、なぜか連投をします
万年氷結ともいえる、場所でひび割れるようにある一角が崩れ落ちた。
中からは声が聞こえる。
「……何とかなったみたいだね」
ライは一息ついて……と言いたいところだが、実は気軽に言うことはできない。
「ライ、あなた大丈夫なの?」
「何のこと?」
「何のことって、わざとらしく言ってるけど本当はわかっているでしょう?」
エスティアは責めるとも、心配するとも取れるような口調でライに質問してくる。
その言葉に、ライは後ろにいる数名、リエルと騎士の長、偶然後ろにいた数名の騎士の部下がいた。
だが、何も言わずにライは正面に視線を向ける。
「……少なくとも用事が済むまでは持たせるよ。リエルにも手伝ってもらうし大丈夫だよ」
「ライ、最後にもう一度聞くわ。あなたには今、二つの道が用意されてる。ひとつはこのまま引き返して暴走が収まるのを待つか、もうひとつは確率の低い賭けにでるか」
「聞くまでもないと思うけど……ただ、やっぱりエスティアでも確率は低いと思う?」
エスティアは即答で答えた。
「ええ、低いわ。私は昔数回見たことがあるわ。というか、あなたも一度だけ見たことがあるはず。水帝の宝玉と対峙したときに暴走した魔法を」
確かにと内心ライは思う。そういえばあの時は、濁流に飲まれるがごとく津波に襲われもし何かが違っていれば全滅していたほどだ。ただ限界を超えた魔法を使用した本人グリム伯爵は、精神力の限界を超えてしまい廃人と化してしまった。
エスティアはそのまま、言葉を続ける。
「あなたの目的は、マリーという子を助けること。でも暴走状態になっているのであればマリーという子は精神を大幅に削ることになる。仮に奇跡で救い出したとしても後遺症が出るかもしれない。いいえ、後遺症ですめばいいわね。最悪死ぬかもしれないわよ?それでも行くというの?」
「ああ、行くよ」
「……どうしても?あなたには待っている子達がたくさんいるのよ?その人たちを悲しませることになったとしても?」
「それでもだよ。夢とはいえ約束したからね。それにエミル達を悲しませることはしない。死ぬつもりはないから」
しばらく二人の視線はぶつかり合い、動かなかった。が
「……はぁ、わかったわ。好きにしなさい。あーあ、まったく。本当に頑固なご主人様の精霊になってしまったわ」
「今更でしょ?」
「ふふ、そうね。今更ね。ならライ、その調子でちゃっちゃと済ませましょう。案はあるんでしょう?」
「あるよ。でもそれにはリエルにも手伝ってもらわないといけない。リエルいいかな?」
「わかった」
リエルの名前を呼ぶと、返事はすぐ隣から聞こえてきた。その返事にライは驚きつつ
「いや、リエル。まだ俺は何も言ってないけど」
「でも、やらないと、いけないのでしょ?なら、やる。ライのこと手伝う」
きっぱりというリエルに、自然とライは内側から湧き上がる暖かい心地よさを感じながら、リエルの頭に手を載せてなでる。それをリエルは気持ちよさそうに抵抗もなく受け入れていた。
そのまま、ライは説明を始めた。
「なら、リエル。君にやってほしいことは」
それから、これからやることについて話していくのであった。
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とある場所、とある時間、とある空間、とある夢。
言葉によっていくつもの表し方がある。
そんな場所に氷の巫女、マリーはいた。
あたりを見渡せばすべてが銀色の世界、生き物など住めない極寒の地。
自分がなぜこんなところにいるのか。判らない。
マリーは思考してみる。
確か、自分は馬車の中にいたはず。でも途中で外が騒がしくなってある兵士が大臣により、何かを私にしようとしていたことはわかっていた。ただ、何のためにかは判らなかった。
その後、決裂でもしたのか戦いが始まりそうになったとき一度静かになった。でもすぐに、空気がチリチリと突き刺すようなものに変化したのはわかった。
そして、その後。
「……確か、騎士の人に腕輪を填められたんですよね」
それからだ、自分が自分でなくなるような感覚を覚えたのは。
腕輪を填めたと単に激痛が走り絶叫を上げた、でもそのときマリーの感覚では無言でいたはずなのだ。それを内側から第三者のように見つめる自分がいるように、誰かが叫んでいる様子を見ていた。
もし、鏡で自分の姿を見ていなかったら絶叫を上げている人物が自分などとわからなかっただろう。でも、確かに絶叫を挙げていたのは自分であった。
それから景色が真っ白になって、自分の意識も一度暗くなり次に気がついたら先日の夢のような景色の場所にいたのだ。
「やっぱり、どう考えても分からないな」
どうしてここにいるのかもやはり分からない。
でも、やがて自分が無くなるのだろうというのはなんとなく分かっていた。
理由は、マリーが見ている景色の変化である。
以前の夢とは違う変化が訪れているのだ。
夢ではひたすら荒れる吹雪の中一人泣いていた。誰もいない孤独の中、もう魔法を使いたくない、誰かにいてほしいと願っていた。ただそれだけで景色が変化することは無かった。
でも、今は違う。
景色が徐々に変化している。遠くに見える景色が山が森が空が雪が地面が。
徐々に黒く絵の具でも塗っているかのように塗りつぶされていく。
あの黒い絵の具が自分まで及んだとき、自分という存在が消えるのではないかという予感があった。でも半ばそれでもいいと感じていたのも事実。だからこそ、ここにいても冷静でいられる。
私は数年前までは一般家庭で普通の暮らしをしていた。両親も心優しい兄も友達もみんな大好きだった。決して裕福ではなくても普通ではあった生活がとても幸せだった。でも幸せは突如途切れてしまうことになる。私が氷の宝玉を手にすることによって。
とある調査だとか言われガラス玉を手にしたとき、ガラス玉は反応したのだ。淡く光を放ち冷たい冷気を放った。
それから、私は偉い人が集まる王城へと呼ばれそこで自分が氷の巫女になることを命令され、とある一室を与えられた。最初は拒否していたが両親や兄にしっかりといわれ最終的には納得し、私は氷の巫女になった。自分が我慢することで家族が幸せになるのならと。
でも数年後、兄がやってきて自分が人質をとられている事実を知る。確かにお金などを両親や兄に送りはしたがただそれだけで、自分に会おうと近寄ったとき袋だたきにされたらしい。
その話を聞いて、激怒しそうになったが、兄であるイプスは言ってくれた。いつか私を助け出してくれると。イプスの言葉は内に渦巻いていた感情を霧散させてくれると同時に、自分が兄の足かせになるのではないかと罪悪感も生まれた。だけど、自分のためにやってくれるならと自分にできることは笑顔を絶やさないことだと言い聞かせ、つらいことがあっても兄の前では笑みを絶やさないようにした。
……しかし、今はもう笑みを浮かべられる自信が無い。正直自分が持っている宝玉の力が怖い。なにより、自分が死んでしまえばイプスは自分という足かせを外し自由に生きられるのではないかと思う。
「それも、いいのかな」
自嘲気味に空を見上げると降り積もる雪も徐々に色を黒く染め上げる。周りを見渡すといつの間にか黒い何かが浸食を続け、広間の空間ぐらいしか無事なところは無かった。
ついに終わりが近づいているんだなと、恐怖が飛来したとき頭の中にとある男の人を思い出す。
(そういえば、夢の中で私が泣いていたときあの人が私の頭を撫でてくれたよね)
そこのことを思い出すと、少しだけ恐怖が和らいだ。不思議だなと思う。一度も会っていない人物なのに、私が勝手に創造した相手かもしれないのになぜか安心できたのだ。
黒い影がもう目の前にやってきた、ああ自分はもう無くなるんだなと。
目を閉じ最後を待つ。意味も無く閉じたわけではない。目を閉じれば恐怖を感じるだけよりも、あの人のことを思い出せるかと思ったからだ。もしかしたら笑っているかもしれない。
そして
「……」
そして何も起こらなかった。
目を閉じ覚悟を決めていたマリーは不思議に思う。あの速度で進めばすでに黒い何かに浸食されてもおかしくないはずなのだ。でも、なんとも無い。
そう思い、目を開けるとそこには
「何とか、間に合ったのかな」
あの人が目の前にいた。夢の中で出会ったことが無かったあの人が。
「え、え?」
信じられないという思いと、どうしてここにという思い。様々な感情が入り乱れる。
「ん、あ、もしかして俺のこと忘れちゃったかな?」
でも幻でもなくはっきりとした言葉で伝えてくるあの人に首を横に振り言葉をだす。
「たしか、ライさん、でしたよね?」
「あ、覚えててくれたんだ。君は確かマリーだったよね?」
「は、はい」
安心させるためかライは一度微笑むが、突如空中から現れた少女によって、マリーは驚きの声を上げた。
「あら、驚かせてしまったかしら。ごめんなさい。でもあまり時間が無いから、ライも判ってるわね。リエルの魔法と私の干渉も長くは持たないわ。すぐに戻らないとこの子の精神は止められたみたいだけど、肉体が持たない」
「わかってる。ということだから、マリー信じられないかも知れないけどちゃんと聞いてほしい」
真剣な表情でライはマリーの瞳を除き、マリーは頷いた。それを確認してライは話し始める。
「まず、君をもう少しで飲み込もうとしたのは精神力を損耗する原因と思って。それで、あれに自分自身を飲み込まれたら自我が壊れてしまう。そして魔法を使えば使うほど自我は飲み込まれやすくなるんだ」
一度ライは言葉をきってから再び話し出す。
「でも、飲み込まれにくくすることはできる。方法は魔法の使用者が意思をしっかりと持つこと。精神力を強固にすればそれだけ対抗できる。もう薄々わかっているだろうけど、ここはマリー、君の精神内。心の中なんだ。今エスティアの力でこれているけど、すぐに出ていなかいといけない。だから」
ライはマリーに力強く言った。
「最後まで諦めないでくれ。俺が絶対に助ける。外から絶対に。だから最後の最後まで希望を捨てないでほしい。それを伝えにきたんだ……できる?」
ライの言葉にエスティアも無言でマリーのほうを向いていた。
そして
マリーは頷きながら返事を返した。
「はい!絶対に最後まで希望を捨てません!あなたを、ライ様をお待ちしております!」
元気よくいうマリーにライは笑みを浮かべ頭を撫でたところで、
ライの姿は消えた。再びこの世界ではマリー一人になってしまった。
でも先ほどとは違う。とある希望が生まれたのだ。
マリーを飲み込もうとしていた黒い者はそれを嫌うように揺れつつ確実に、少しずつマリーに近づいていくのだった。
ーーーーーーー氷柱根元ーーーーーーーーー
ライは目をゆっくりと開けた。近くには騎士数人とリエルがたっていた。
体を起こし、ライはリエルに話しかける。
「大丈夫だった?」
「大丈夫。まだ、いける」
そういうリエルは手を突き出し体から青色の光を帯びていた。以前ライがレーシア、ティアに施した譲渡、これを実行したのだ。
「わかった、ならすぐに魔法を解除していいよ。次は俺の番だから」
そういって、ライは体を起こし氷柱のほうに歩いていく。地面に広がる氷は新しい獲物が来たと喜ぶように、ライという人間を氷の彫刻にしようとした。
でもそれはライの地面に敷かれた水により阻止される。
ライは気にせずに、氷柱の前までやってきて氷柱に手を置いた。
「ライ、確かに彼女はこの先にいるわ。でもどのくらいの深さにいるかわからない。気をつけなさい。それと、あなたは今水魔法は使えない。氷柱に触っていられるのは長い時間ではないわ。判っているわね?」
「ああ、そろそろやるね」
エスティアに告げるとライは集中した。想像するのは火と土と風。三つの魔法の役割と効果を想像する。
火は氷を、土は衝撃を、風は通路を。
想像する内容が少しでも違えばそれだけ、マリーの精神は削られてしまう。あの様子を見るにあまり猶予は無い。一発で成功させないといけない。
焦る気持ちを押さえつけ本来巨大になるはずの力を縮小し、一転に集中させる。
しばらく、リエルや騎士たちが見守る中、ついにライは行動に移した。
「……っ!」
目を見開き手のひらから魔法を放つ。
ゴンッ!
ライが放った魔法は氷の割れる音や重低音の音を響かせ巨大な氷柱に振動を与えた。それほどにすさまじい威力なのだ。魔法が通った後は、人が一人通れるくらいの通路が出来上がり、氷柱の中に入ることができる。
しかし、ライ自体そんなことを気にしている余裕は無かった。
「リエル!」
呼ばれたリエルはすぐさま水帝の宝玉を使い水を出来上がった通路の壁に流し込む。
それを確認したライは風魔法で、瞬時に通路を移動し始めた。周りを見ると自己修復するように氷が迫り、壁が容赦なく閉じようとしていた。
しかし、それをライの土と風魔法、リエルの水魔法で防いでいた。土は通路を形成するための補強剤として、風は空気自体が氷に触れて凍らないように、水は常に新しい水を生み出すことによって、凍った部分を関係ない場所に送ったりと運搬機能として使われている。
そんな中ライは通路内を走っていく。目標は一人の女の子だ。
しばらく通路を走っていくと、とある空間を目視することができた。
「ライ!」
「ああ!」
エスティアにいわれて、ライは一直線に走り空間に飛び出ることができた。
「いた!」
目的の少女マリーを発見しすぐに抱き寄せる。彼女は空間の中心に横たわるようにしていた。
でもあまり猶予は残されていないようだ。表情が苦しそうである。
「ライ、早く宝玉を!」
「わかった!」
ライはすぐさまい自分が持っている白帝の宝玉を取り出し、マリーに近づける。その間も出口へと走りながらのことだが、止まっていたら助からない。
すでに通路は頭上まで迫っており冷たい冷気が近くに感じられる。しかし
「早く!あと少し!」
通路の出口ではリエルが限界まで魔法の力を使いつつ、ライに言葉を投げかけていた。その間にも凍りは迫り、入り口は徐々に狭くなっていく。
「間に合えええええええええ!」
本当にぎりぎりのところにライは滑り込むようにマリーを抱え出口へと投げ出した。
その後
二人が体を外に投げ出したと同時、通過した後。
氷の通路の入り口は完全に閉じ、氷の氷柱はギシギシと重みに悲鳴を上げるように音を立て始めた。
それはまるで、獲物を逃した魔物が断末魔をあげるようにも聞こえた。
どうも、なぜか連投をしてしまった私でございます。
お楽しみください。後書きはまた次回でお願いします。
マリーとライが無事再会?できてよかったです。ただ、まだひと悶着はあるんですけどね。お待ちください。
ではまた次回に。




