第百二十六話 暴走
おたのしみください
ライは現在敵本陣近くまで来ていた。
ジュアン帝国本陣では多くの兵士が慌しく動いており、怪我を負った兵士を後方に、後方に待機していた予備兵を前線に送るななどをしているようだ。
この状況を見れば、前線のほうで大きく動いたのだろう。数で勝るジュアン帝国が慌てるほどの事が。
(まあ、自分たちが見た氷の塊の後に炎の塊が落ちてきたら慌てるか)
その後には、全軍で襲いかかれたならひとたまりないだろう。ただ、両翼は上手くいったように見えていたが中央部隊のことが気がかりだった。
ライの心中を察したのかここで、エスティアが話しかけてきた。
「安心しなさい。中央はラッシュ達が奮闘しているみたいよ。ただ、相手も精鋭だから崩壊が遅いけど、時間の問題ね」
「そっか」
報告を聞いて少しだけ安堵するライ。
それにしてもと思う。遠くに離れている状況をエスティアはすぐに教えてくれる。これはとても重要なことだ。戦場でいち早く情報を知ることができればそれだけ、有利にまたは被害を抑えられる。
敵にエスティアみたいな存在がいないことがとても有難い。いればそれだけ窮地に立たされるのだから。
「あなた、後方のことを気にするのもいいけれどまずは自分が成す事を考えなさい。じゃないとまたフィルに怒られるわよ?」
「うっ」
「……私も怒る」
唯一の同行者であるリエルまで話に便乗してきた。
「わ、わかったよ」
「お願いね?これはいわばあなたの我侭なのだから」
ここでそれを言われてしまったらライは無言を貫くしかない。マリーを助けることにより政治的な意味やジュアン帝国の精神的切り札をそぎ落とし牽制できるという利点もある。
でもライにとって一番の目的は放っておけないこと。この一つに集約された。宝玉の副作用も関係しているが、ライは自覚していない。
静かに、できるだけ小声で話し合っているライたちはここで会話をやめる。
陣の中に入り、しばらく歩いたところで問題が発生したのだ。
エスティアの誘導で大体の宝玉の位置はわかる。だから向かっている場所については心配していなかった。そのおかげで、ライは現在目の前に目的の人物がいるであろう馬車を目で確認できている場所まで来ていた。
しかし、問題は三つ発生した。
一つは馬車の周りに明らかに一般の兵士とは違う騎士が複数いること。二つ目は何らかの魔法が働いていることだろうか。
ただ、正直この二つに問題は大した問題ではない。ライが制限なしに魔法を使えば逃げられる可能性は高い。近距離戦にいえばリエルがおり、危ないときは白帝の壁で防げばいい。魔法も炎で壊せばいいだろう。
問題は三つ目だ。
騎士と馬車の周りを数百という兵士が取り囲んでいるのだ。
ライの作戦では静かに忍び寄り光の屈折を利用して、姿を誤魔化しそのまま連れ去るというのが作戦であった。
ただ、この魔法は姿は誤魔化せても触覚、聴覚は誤魔化せない。視覚のみを誤魔化す。よって、あのように囲まれてしまったら接触せずに近寄るのは難しい。近寄れたとしても馬車の扉を開くことになり、いくら慎重にしたとしても無人で勝手に開くドアを数百人に対して誤魔化すのは至難の業だろう。
一体どうするかと二人と精霊?は考え険しい顔をしていると、兵士が囲む馬車付近から何かしらの会話が聞こえてきた。
ライたちは接触に気をつけながらぎりぎりまで近づき話に耳を澄ませた。
「そのような命令は聞いておりません。お引取りを」
「何を言うか!これは大臣直属の勅命であるぞ!」
どうやら、話し声の根源は馬車を囲む騎士の一人と兵士の格好をした男が言い争っているようだった。ただ、兵士の男が大臣という言葉を出したことでなにやら勅命を受けている重要な人物ということはわかった。
「ですが、私は皇帝閣下からの勅命で動いております。巫女様に決して害意を近づけてはならない。それを至上の命令とせよと。それはそちらでも確認が取れているのでは?」
「ぐっ」
兵士の男は痛いところを突かれたようだが、すぐに余裕を取り戻す。
「ふん。確かに王命ならば引き下がろう。だが、私は大臣達からお聞きした。国の威信をかけた戦いは決して負けられぬ戦い。ならば、全軍全力を持って戦争に勝つことが至上であると。これは大臣が進言したとき皇帝閣下も承認したことだと。そして、その命令に従えばまだ利用価値がある兵器が使えるのであれば酷使しても命令違反にはならないはずだ!」
この男にとって超巨大な炎を見て、余裕を無くしているようだった。騎士の反感を買うことがわかっていても、言葉をとめられない。
「本来なら、巫女の叛意防止のために仕掛けたものらしいが、この際無理を言えない。この腕輪をつけるだけで、あの砦もろとも破壊できるほどの力を使うことができると聞いている!ただ、巫女のほうは精神が耐えられなくなり、廃人になる可能性はあるらしいけどな。負けられない戦いに勝てるのだぞ!お前らはこのまま負けてしまった場合責任を取れるのか!取れる手段があるというのに!」
今度は騎士達が言葉を無くす番であった。この戦はジュアン帝国の総力を挙げたもの。負ければ多大な被害を被るだろう。もし他国が侵略してくれば崩壊しかねない。幸い、問題であるガドリア王国は同盟を組みアスティールは動きがないので、今回の進行を皇帝は承認したらしいが。
命令と国。勝利と敗北、プライドと命令。様々な感情が騎士の中で渦巻く。ほかの騎士たちも、どういう結果を出すのかと、騎士の長である彼に視線を向けていた。表情がわからないが、長の言葉を聴くことを目的として。
しばらくして、長は返事を返す。
「……やはり、承認することはできない」
「な、なに!」
激情する兵士に騎士は言った。
「私は巫女様の生い立ちを知っている。突如力を授かりその後は兄妹とも離れ離れ、衣食住には困らなくても自由と肉親を失ったも同然の生活を強いられたと。しかも、反逆防止と年端も逝かぬ女子に術式をかけたそうだな。極めつけは兄と妹を互いに人質とし利用していると」
「お前、情でも移ったってのか?」
「否定はできん。だが、それ以外にも私は騎士だ。騎士は弱いものの味方。弱みを握られている女子を助けない騎士など何の意味があろうか!お前の持っている腕輪は巫女様の精神を苦しめ崩壊させる可能性があるのであろう!国のためと王命のためにと感情を抑えていたがもう我慢などできぬ!ここを通りたければ無理やり通れ!」
騎士は自分の武器である槍を持ち対峙する。
その様子を見て今まで激情してたはずの、兵士の男は諦めたようにため息をつき言葉を話す。
「はぁ……そうかよ。一応お前さんは国に貢献しできればこれからも貢献してもらいたいと大臣達が考えていたから、穏便に済ませたかったんだが。しょうがないこれも国のため……やれ」
兵士の男は目線を横にそらして命令した。騎士の長は周りを囲む敵を一兵とも近寄らせまいと、周りを見つつ警戒しているところだった。
パキンッ
騎士の長はそのような音に驚き動揺する。ありえない場所から音が鳴ったのだ。
音が鳴った場所は自分よりも後方。そう、味方の騎士しかいないはずの場所から。後ろを見れば、そこには一人の騎士が剣を地面に取りこぼしているところだった。表情は兜によって見えないが、目が驚きを表していることから、おそらくこの騎士にとっても予想外のことであったののだろう。
だが、騎士の長にとって一番の予想外の出来事は仲間に剣を向けられたことだった。突然の裏切りに思考が追いついていかない。大臣達から命令された兵士は舌打ちをすると、周りにいる兵士達に攻撃を合図しようとした。
でも考えるべきだろう、どうして背後からの攻撃を防がれたのか、誰が防いだのかを。
襲い掛かろうとしていた兵士達は一歩踏み出し、そこから進めなかった。
一つの風が過ぎ去ったのだ。兵士達の感じ方は突風にも、優しくなでるような風にも感じれただろう。しかし、そのうちの数人は直後
「「「……」」」
バタリと倒れていき、鮮血を撒き散らす。兵士たちがその後に見たのは双剣を持った銀髪の少女だった。
突如現れた敵に驚いている騎士やジュアン兵士たち。そんな中、騎士の長の後ろで一人の少年の声が響く。
「本当は出るつもりじゃなかったんだけどね」
「まったくよ。こんなの何の利点にもならないじゃない。このことを知ったあの子達がどんな顔をするか想像がつくわよ」
「うっ、あのさエスティア、今その話はやめてくれよ」
「ならさっさと目的を遂げなさいな。周りがあっけにとられてるわよ?」
そういわれて、少年、ライは周りを見てすべての視線がこちらに向いていることを知る。
「あー」
とここで一番最初に口にしたのは騎士の長だった。
「現状を省みるに、そなたが私を救ってくれたのは感謝する。だが、そなたは一体何者なのだ?」
「えっと、通りすがりの人……ってわけにはいけませんよね?」
「信じられないな」
「うーん。なら、泣いている女の子を助けに来た騎士ってことでいいですか」
「ライ、それは少し台詞が臭いわよ」
「うるさい」
二人の少年と少女?の話を聞いて騎士の長は考えをまとめていたが、ひとつだけ問いかけることにした。
「……そなた達が助けに来たという女の子はこの馬車にいる者のことか?」
真剣な眼差しでライは見ていると、ライもエスティアとの話をやめて頷いた。
その頷きを見て長は決断する。
「よし、ならば連れて行くといい。私が護衛しよう」
「なっ!」
後ろにいた大臣の兵士が驚く声を上げる。
「お、お前わかっているのか!それは完全な反逆行為だぞ!」
「先ほども言ったはずだ。子供を救えないで何が騎士だと。今までは国のためと考えてついてきた。だが、もう我慢できん。子供を道具扱いするなど言語道断!成敗してくれる!」
兵士たちに肌に突き刺すような殺気が浴びせられ、すくむものが何人もいた。意味もわからなく殺された光景、今から行われる死闘を考え体がすくむものも数人。
そんな中一人、笑う人物がいる。
大臣が任命した兵士だ。
「くくく、アハハハハ!そうかい、そうかい。それはご大層な言葉ですね騎士どの。でもいいのかい?巫女様はまだ安全だと思っているのかい?何もしなかったと思うのか?」
「なに?」
騎士は聞き返すが、無視をして兵士はいいはなった。
「……お前の部隊の裏切り者がどうして一人といえる?」
言葉を告げられ、意味を理解し長が馬車の中に視線を移したとき
「きゃあああああああああああああああああああ」
巫女がいるはずの中から悲鳴があがる。急いで長は馬車の中に駆け寄ると、そこには巫女に襲い掛かるようにした仲間であるはずの部下がいた。部下の手の先を見ると、腕に腕輪が嵌められている。
「……!」
長はすぐに剣を抜き、突き刺す。なぎ払い鮮血を巫女にかからないようにしたのは、まだ少し理性が残っているからか。
だが、時間にしていうと、遅かった。
「あああああああああああああああああああああああああああ!」
「ぐぉ!」
長はとっさに腕で顔を防ぐようにしたが、何かの衝撃に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
地面に倒れ、立ち上がろうとしたとき守ったはずの腕に異変が起きていた。それは、篭手の部分がすべて凍り、徐々に侵食を始めていたのだ。
「腕を動かすな!」
ライはそれを見て、すぐに長に叫ぶと炎を呼び出し氷の部分を斬った。しかし、それでも侵食は終わらない。
ならばと、方法を変え空気を圧縮、風の刃を作り鎧の付け根を狙う。攻撃をされた長は斬られた皮膚の痛みにうめくが、すぐに篭手を離す。ライが狙ったのは鎧の留め具。留め具を破壊すれば鎧は外れる。
このことで長は何とか危機を脱した。
「ライ!」
ライ達を襲おうとしていた衝撃波をリエルが水の礫を放つことにより防いでくれた。ぶつかった衝撃波は、水にぶつかると瞬時に凍りつき床に落ちる。
その間にも衝撃波は辺りに無差別で放たれている。ぶつかった場所は徐々に凍りつき、氷の彫刻となり始めていた。
それは人も例外ではない。
「な、なんだこれは!やめろ!来るな来るな来るな!」
大臣から命令を受けていたという兵士は一番に被害を受けていたのだ。場所が一番近かったからだろう。運が悪いジュアン帝国兵士は衝撃波にぶつかり氷の彫刻となっていく。
「ライ!どうする!」
リエルが焦ったように指示を仰ぎ、神経を研ぎ澄ませているところで、ライは言葉を返すことはせずリエルと騎士の長の前に躍り出た。
「ライ!」
だが、その言葉は最後まで続かない。突如烈風が巻き起こり辺り一体に吹きつけたからだ。
そのとき周りは氷の世界へと変貌したのだった。
こんばんわ、更新を無事にできました!
と、早速本編のことについて書きます。
戦争のほうは国盾の砦側が有利になり押していますね。各ヒロインたちが奮闘している姿は今回出てきませんでしたが、終結に向かっております。
ですが、戦場では異様な状況と包まれます。
夢の中で出会ったマリー、あと少しでライと合流というところで、異変が起こりました。
以前少しだけ描写しましたが、マリーには本国の大臣たちが反乱防止のためにとある細工をしていたのです。
それが今回のこと。腕輪で制御仕様としたのでしょうね。道具として。
さて、この後を語ってしまうと軽くネタバレ?になりますので控えます。
題名がある意味の答えなんですけどね!
それではまた次回お会いしましょう。




