第百二十五話 総力戦
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太陽
ジュアン帝国軍はそう思ったかもしれない。空に超巨大な炎が突如現れ徐々に地面に向かって降りてきているのだ。
しかも、接近するごとに大きさは増し、焼きつくさんと迫ってきていた。
炎が向かっているのは中央戦線の中心、ちょうど部隊の真ん中だ。そこにいる兵士たちは様々な反応をしていた。
ある者は恐怖に引きつり動けなくなり。恐怖よりも生への渇望により、前後左右味方を掻き分けて逃げ始める者。味方であるはずの兵士たちに地面に倒され、踏み潰されて絶命する者もいた。
でも、それを嘲るように炎の固まりは止まらない。
ジャーン ジャーン
炎の塊に加えてジュアン帝国兵士に追い討ちをかけるように銅鑼鐘がなる。鐘のなる方向はジュアン帝国陣地からではない。国盾の砦陣地からだ。
といっても、今の兵士に何の合図かを冷静に考えることは叶わない。
ついに
炎の塊が地面へと激突した!
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
激突した炎の固まりは地面に地響きを鳴らしながらそこにいた兵士たちに猛威を振るった。炎の塊に直撃した兵士は地面にのた打ち回り、絶叫、断末魔が辺りに響いていた。衝突の衝撃の成果、衝突地点からは大量の『粉塵』が空を舞い、遠くまで肌に熱を感じることができた。
それを合図に、国盾の砦では先ほどの鐘を合図として門を開け、東西南北から出陣、中央、右翼、左翼に突撃を開始する。
ジュアン帝国兵士たちはすでに恐慌状態に陥り始めていた。
だが、ここで誰か一人でも部隊長級が気がつけば立て直せただろう。冷静に考えれば。
大量の粉塵があがり、遠くに炎の熱量を感じるほど強力で高温を保った炎の塊だったのに。
『どうして接近中に誰も被害がなかったのか』を
ーーーーー国盾の砦左翼 ティア・レーシアーーーーー
ティアとレーシアは一度 先ほどの大掛かりな魔法を実行するために右翼へと集合していた。そして、魔法が成功するとすぐさま、西門へと急ぎ作戦通り部隊を率いて敵左翼部隊へと突撃をするところであった。
国盾の砦、左翼部隊の兵力は二千と炎帝隊、風帝隊となる。
ティアは隣にいるレーシアに話しかけながら門を潜り、左翼へと向かい始めた。
「レーシア、相手はうまく勘違いしてくれたと思う?」
それにレーシアは頷いた。
「はいなの!敵さんは皆動揺していたなの!」
ティアはおそらく、風の魔法で敵兵たちの様子を探って確信しているのだろう。
「それにしても、ライの伝えた作戦通りにしたけど本当に相手が動揺してくれたね。ただ数人分の火球を作るだけで」
「確かになの。私もただ、周りに熱を風で飛ばしただけなのに敵が動揺しているのにはびっくりしたなの。だけどサチ達と協力したんだから当然の結果とも言えるなの!」
そうなのだ。実質ティアとレーシアはほとんど魔法を使っていない。宝玉の魔法をあまり使わなようにと決めているためだ。もし本当に強力な魔法を使えといわれれば例えライの指示でも反対していただろう。
だけど小さな魔法なら別だ。
あの超巨大な炎球は魔法の合作。だからこそ、炎の球が兵士たちに近づいても衝突する前まで誰も炎に焼かれなかった。本来の威力なら接近しただけで何千の兵士が焼かれていただろう。
炎のからくりはこうだ。
ティアが炎を生み出す→サチが光の屈折で炎を超巨大に見せる→炎の進行速度を風の力で遅くする→その間にティア達は所定の位置に配備→炎が地面に衝突と同時にラッシュが魔法で粉塵を大量に舞わせる→レーシアの魔法で熱を遠くまで飛ばす。あたかも強大な爆風へと見せるため
以上の工程で作られた炎球だったのだ。実際にジュアン帝国の被害は二千以下であろう。
しかし、ハッタリだったとしても効果は十分であった。
二人は左翼前線にいる敵兵を見て声を張り上げ突撃していく。
「皆行くよ!敵は浮き足立ってる!でも敵は数が多いからこの突撃が最初で最後のチャンス!全員奮闘して!」
「全員前の敵に集中するなの!敵の氷があるからそれを利用して攻撃すれば最大の効果を挙げられるなの!じゃあいくなの!」
叫びながらの声は確実に後ろをついてくる約二千の兵士に届いていた。レーシアの風のおかげでもある。
先頭にいる二人は後ろで上がる歓声を聞いてから、前方へと攻撃を開始した。
「炎帝隊は火球を放って!」
「風帝隊は突風をぶつけるなの!戦線を崩すなの!」
戦場に炎と風が混ざりあいジュアン帝国兵士に襲い掛かる。赤い髪の女戦士は炎を操り槍を縦横無尽に振るう。たいして緑髪の少女は風を操り時に突風を起し、カマイタチで皮膚を切り裂き、戦場を舞う。
凛々しい美貌や愛くるしい表情が似合う少女たちを見て、ジュアン兵士たちは何を思っただろうか。だが、それを言葉にできた兵士はいないだろう。彼女たちの姿を近くで見たものは、次の瞬間意識を刈り取られるのだから。炎か風か、または後ろから来た矢か剣か。原因が何かを知ることもできかなった。
でも、彼らはまだ幸運なのかもしれない。確かに意識を刈り取られてはいたが、それでも原因はわかったのだから。二人の少女が原因でやられたと。
ーーーーーーー国盾の砦 右翼 サチ・ランーーーーーーー
右翼では原因がわからない状態が起こっていた。
ジュアン帝国兵士は強大な炎を見た後、正面から突撃して生きた敵を確認、動揺していたが何とか攻撃、または防御しようとした。遊撃で出ている騎兵も余裕はあった。
だが、余裕をもてるのもここまでだった。
「ギャ!?」
いきなり味方しかいない場所から悲鳴が上がったのだ。それは時間が経つほど増えていき、悲鳴を上げた兵士たちは死ぬもの、負傷、重症、数多くの状態を負っていた。
様子を遠巻きに見ている鎧を着たサチは感心したように戦場を見ていた。
「私の対極となる能力、使い勝手が難しいとはいえさすがとしかいいようがありませんね」
あの現象を引き起こしているのは影を移動するランだ。負傷の軽度が違うのは一人で攻撃しているから。
だけど、役割としてはそれだけで十分だった。広範囲に動いてもらって影から攻撃してもらえば、相手の不安をあおることになる。こちらには強力な魔法を放てると思い不安がっているところに、正体不明の攻撃。次は自分が攻撃されるかもしれないと恐怖を募っているはず。
「と、悠長に考えている暇ではないですね。私も自身の役割を全うしましょう」
サチはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには二千ほどの騎兵が待機している。
本来ならば自分はアスティールの人間。フェレス王国の人間ではない。だから兵力を率いて指揮を執るなど違和感を感じるが……。
「……いきましょうか」
だけど、サチ個人としてこの組織の力になりたいという思う。先日まで女神の聖騎士などと言われて思い上がっていた自分の失敗を償うことも含めて。
一度目を閉じサチは声を張り上げた。
「敵はまだ『幻を』見ています!今なら敵に大打撃をあたることが可能です!私はこの国の人間ではないですがライ軍師を信用し、またその兵士たちであるあなたたちのことも信頼しています!ですから私に力を貸してください!いいえ、私たちで共に勝利をつかみましょう!……全軍突撃です!」
サチは声を出した後先頭を駆け始める。その後ろを二千の騎兵が突撃を開始した。
ジュアン兵達は動き出した騎兵に驚き槍衾を構築、騎兵対策をとる。まだ陣を構築できる理性は兵士たちに残っていたのだ。ただ、生き残りたいがために必死に行動したのかもしれないが。
正面から来る騎兵は徐々に近づき、ついに槍の切っ先に突き刺さろうとした時。
グシャ
馬と人がぶつかり、肉が引きちぎれ、踏み潰され、人が飛ばされる音がした。
側面から。
サチが行ったのは正面からくる、ように見せて実は側面から攻撃をするという単純なもの。サチが動いたのと同時に幻が行動を開始したのは、側面にいる自分たちの姿を正面に映していたから。
疑心暗鬼と奇襲、正体不明の攻撃。
すでに右翼でも戦線の穴は広がり始め、崩壊という二文字が忍び寄ってきていたのであった。
ーーーーーー中央戦線 ラッシュ・氷壁の砦ーーーーーーーー
両翼が奇襲、または魔法の突撃で形勢が不利になっている状態の中。
中央はいまだに士気が落ちることはなかった。
戦争開始時から、戦線を維持するために投入されているエリート部隊。重歩兵部隊。彼らは、時には矢の嵐に襲われ、地面に落とされ氷により動けなくなるなど、この戦場でもっとも頑丈な部隊といえる。そんな彼らは、疲労も蓄積していても瞳から戦意が消えることはない。それが、エリートという意地からか、祖国を守るというプライドからかわからないが、不退転の意思は伝わってくる。
そんな部隊の前に、砦の門を開けて前進をする部隊があった。
「まったく、ほかの兵士たちは動揺してくれているって言うのにこいつらは、動揺していないってめんどくせえな。しかもどれだけ戦ってると思ってんだ?体力って概念はないのかよ」
そういいながらラッシュは敵重歩兵部隊に向かって投げかけた。
「まあ、彼らはジュアン帝国が誇る精鋭中の精鋭。並みの兵士ではない。逆に考えれば長い間戦場にいたことで、敵は万全ではない状態で戦えると思えば気が楽ではないか?」
「そういう考えもあるか。……どっちみち戦わないといけないからな。敵が弱っているならそれに越したことはない。にしてもあいつら固そうだな」
「だからこそ、我らがここに配置されたんだろう?」
ラッシュに言うガドイは同意をとるように話しかけるが、そんなもの関係ないという言葉がガドイの後ろから聞こえてきた。
「別に目の前の敵をすべて倒せばいいんですよー、そうすれば関係ないですし、ライ様も助かるでしょー?」
ヴェトリアにラッシュとガドイは話を中断させられ、お互い顔を見合わせるが、すぐに笑う。
「確かに」
「違いない」
二人は自分の武器をラッシュは斧をガドイは右手に斧を左手に盾を持ち背には今は亡きとある団長の武器『千本氷槍』を背負う。
「ならガドイ団長、準備はいいか?」
「お主こそいいのだな?」
「すぐにでも」
「ならいっちょ派手にいくぜ!」
ラッシュはジュアン帝国の敵兵に向けて走り出しハルバートを振り上げ地面にたたきつけた。すると、ハルバートは地面を砕き、粉塵を上げ石礫となり重歩兵に襲い掛かった。けれど、全身を鎧で固めた重歩兵達には被害は軽微だ。
だが、すぐ後ろから追撃が迫る。
「覚悟してくださいねー!」
ヴェトリアが短剣を振り上げ近くにいた鎧兵士に対し攻撃する。普通なら鎧を着ている相手に短剣で襲い掛かるなど自殺行為。しかし、そのときは違った。突如鎧がバターのように切り裂かれたのだ。そのまま鎧を切り裂き、肉を、骨を切り裂いたヴェトリア。
その後ろからは槍に持ち替えたガドイが穂先を向けて叫んだ。
「これでも食らうがいい!」
槍を突き出すと『千本氷槍』は威力を発揮し地面から何十本もの氷槍が突き出し兵士たちに襲い掛かる。突き破りはできないまでも、打撲、骨折などの重傷を負わせた。
ジュアン帝国の精神の柱の一つ。それが今、揺らぎ始め部隊の中で一番冷静であったはずの重歩兵隊は、徐々に追い詰められ始めていた。敵将官であるラッシュだけではなく、かつて味方陣営であったはずの傭兵団、氷壁の砦が猛威を振るった。勢いに乗るように国盾の砦の兵士たちも構成に出ていた。砦の上からは約千の弓兵が遠くに矢を放っている。隙を突いて壁にはしごを架けられたときの対策と、動揺を回復させないように妨害として攻撃をしていた。
戦況的には国盾の砦、フェレス王国が有利だった。
そんな中、この戦場で一部隊静かに動いている部隊があるのであった。
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この部隊を率いている人物はフードを被りつつ馬に乗って、戦場の右翼を大きく迂回しながら疾走していた。その人物は隣を並列に走る人物に話しかける。
「あやつは、今どこにおるかわかるか!」
すると、返事はすぐに返ってきた。
「わかりません。ですが、接触する前後には間に合うかと」
二人が会話をしてる間にも後ろからは数百の馬がついてきている。全員が鎧に身を包み視線は鋭いものだ。
「ですが、よろしかったのですか?私が言うのもなんですが、あなた様が向かうことは弱点にもなるのですよ?」
「……」
無言になった相手に、話しかけた人物は一度だけため息をついてから話した。
「まあ、そのことは後でたっぷりと説教するか説教されるかということで、道中は全力を尽くします。でも本当に危なくなったら引き返してもらいますからね?」
その言葉に無言の相手は頷いた。そして、一言呟く。
「ライ……」
でも呟やいた相手からの返事は決してない。だが、隣で聞いていた人物は何も声に出すことはない。だけど内心呟いてはいた。
(この行動がどう動くか。と考えるのは私の考えることではないですね。ただ、私は目の前の方をお守りするだけです)
一人決意をするのであった。
戦況も終盤へと差し掛かっていた。
こんばんわ、お待たせしました!何とか書き終わりました。
タイトルでは総力戦です。この戦いで初めて戦争で大立ち回りをしているレーシア、ラン、サチははじめての描写ではないでしょうか。今まではあまり前線に出ることはありませんでしたので。さて、そして最後に????だけで構成された部分。一体誰なんでしょうね?(棒
……ほとんどの方はわかっていますよね。でもどうしてもあの部隊を動かさないとだめだったんでしょうか。
それからほかに言うことは何かあるかなと考えつつも今考えがまとまっておりません。マリーのことは次だと思いますし、戦争はもうすぐ終わりそうですし……。
今日はこのぐらいにしておきます。また次回お会いしましょう!では!




