第百二十四話 集団心理
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砦屋上。
そこで、キャサリンはライの状態とこれからライが何をするかをフィルから聞いていた。
話を聞いたキャサリンの最初の感想は
「……まったく、あの子のお人よしもここに極めり、と言ったところかしら」
「今に始まったことではないです」
「ふぅ~ん」
「……何か?」
「いや、何でもないわ」
「そうですか……でも先生は何も聞かないんですか?」
「ん?」
「呆れたとか止めなかったのかとか」
フィルの言葉を聞いてキャサリンは苦笑しつつ
「仮に言ったところでライ君は止まらないって知ってるでしょ?それに、貴方の顔を見てしまったら何も言えないわ」
指摘されてフィルは俯きそうなるがぎりぎり踏みとどまる。フィルの顔は真っ赤になり頬には涙の後も残っていた、今でも少しだけ光り輝く水滴が端に溜まっていた。でもキャサリンにはフィルの表情をみて逆に安心する。
「で?行動することはわかったわ。そこから、ライ君も何かしらの策でも話しているんでしょう?誰を連れて行くという話も聞いたし」
「……同行者については一人連れて行くといってました。連絡はエスティアさんが宝玉でとったと。そして、お兄ちゃんが言っていた策ですけど」
一呼吸いれてフィルは話し始めた。話を聞いていたキャサリンは弟子の策を聴いて思わず笑ってしまった。
「あはは!やっぱりあの子は最高だわ!確かにそれなら敵を確実に混乱させることができるわね。下手したらこの一手で終わるわ」
「確かにお兄ちゃんも言ってましたけど、私はもうちょっと捻ろうと思うんです」
「捻る?」
「お兄ちゃんの目的は敵陣奥深くにいる人を助けること。いくら見つからずに移動できたとしても、助け出した後発見されない確立は少ないはずです。お兄ちゃんは魔法があるから大丈夫だとは言ってましたけど」
「なるほど、魔法はあるけど、それはライ君に魔法の副作用を進める結果になると。だからこちらからも援護を行い混乱を起こすのね?」
「はい」
「具体案は」
「策を成功させた後、私たちも全軍で突撃します。敵の数は多くても戦は士気を削りあう勝負。お兄ちゃんの策に少しだけ後押しをすれば最低でも優勢、よければ勝てます」
「いいわね。フィルちゃんの策を採用するわ」
即決でキャサリンはフィルの提案を承認し現在も続いている戦場を見渡す。敵は現在眼下で必死に梯子を壁に架けようとし、城門に取り付こうとしていた。
しかし、左翼は敵が放った氷の欠片で、中央はリエルが張った氷で思うように動けていない。結果右翼でしか前進できていない状況だ。戦場で一面を注意すればいいのであれば攻撃を集中でき一刻が経つ今でも梯子をかけさせずいられるのもこれが理由である。
「策は同行者以外の宝玉者持ちにもしてくれてるの?」
「はい、さすがに分散していては成功しないので主要な人物は右翼のほうに集まってます」
「そう、……なら反撃の狼煙を上げましょうか!派手にいきましょう!銅鑼鐘を4回鳴らしなさい!」
ジャーン ジャーン ジャーン ジャーン
キャサリンの話を聞いた兵士はすぐに鐘を三回鳴らす。
鐘は全軍に指示するための合図。一つ目は展開 二つ目は攻撃 三つ目は撤退だ。本来四つ目は決められていない。
でも、今回はこれでいいのだ。兵士数人に混乱は生じるかもしれない。だが、策の実行部隊に合図を送るならば、予定にない合図を送ればわかってくれるだろう。
そして、鐘の返事はすぐに行動によって起こされた。
空に一瞬火花が飛び散るのであった。
ーーーーーーー?????? ライーーーーーーーーー
ライは現在敵兵たちに見つからないよう気配を消して移動していた。といっても、ほとんど遮蔽物がないため光の魔法を使い姿を見えなくしているわけだが、近くに来られればばれる危険もあるし、音を聞かれる可能性もあった。
「にしても、とりあえずお疲れ様と私は言えばいいのかしら?」
空をフワフワ浮きながらライに問いかけるエスティア頬を掻きながら
「なら俺は有難うと答えればいい?」
「何を答えるかは貴方しだいだから私に聞かれても。……だけど、私は改めて思ったわ。普段好意を見せ怒らない子ほど、感情が爆発したら怖いということをね」
エスティアが手を頬に当て言葉を漏らす。
エスティアがいっている人物は、最初にライが説得するべき人物であったフィルのことだ。なぜ、ここまで言わせているのかというと
「まさか、私が恐怖を抱くとは思わなかった」
フィルはライからの説明を聞いた後、正確に言えば瞳から光が消えた。
何を言っているかと思うだろう。でもよく想像してほしい。安堵し嬉しそうに笑みを浮かべていた女の子が話をした途端に、無表情で目から光を無くして見つめてくるのを。普段のフィルを知っているからのも相まって、驚きも大きかった。
「ま、まあ。俺もさすがに驚いたけど」
「そうね、けど、だからこそあの状態のフィルを納得させるのにと労いの言葉を投げかけてあげたのよ」
フィルは、説明した表情のままベッドに座っていたライに近づき肩にしがみ付き、無言で押し返してきた。おとなしく寝ていろという無言の圧力だ。だが、要求に従ったら夢の少女は助からない。何度も説得し、途中表情を取り戻したフィルが大声で泣いて腰にしがみつき懇願してきたときは、胸が締め付けられるように痛んだ。心苦しいほどだ。
だけど、どうにかフィルのほうが折れてくれて出発には納得してくれた。代わりに後日何でも一つ言うことを聞くということと、無事に帰ることを条件に送り出してくれた。
「大変ねぇ、……ただ私から言わせてもらえれば後ろにいる子は不満顔をしているわよ?」
ライは指摘されて後ろを見ると、そこには頬を少しだけ膨らまし凝視している銀髪の女の子。リエルが何かを訴えていた。
「リエルも俺が行くことに反対?だけど出発時には納得してくれたと思ったけど」
「……(コクリ)」
ん?と思う。てっきりフィルと同じ理由でライが倒れたにもかかわらずすぐにマリーを助け出す提案に反対なのかと思っていた。でも、頷いたことから違うらしい。
「じゃあ、何が不満なのさ?俺が倒れることが心配?」
「それも、ある。けど私が命にかけてライは守る」
「なら、どうして頬を膨らましているの?」
「私は、フィルとの約束のこと、初耳」
「あー」
「私とも約束しないと不公平」
リエルはこれからの行動よりも、フィルとのした約束のほうに不機嫌を表していたらしい。こちらを見つめてくる瞳からは私とも約束してという意思が突き刺さってきていた。
なんと言ったものかと考えていると、ライ達が歩いてきた砦方面から鐘が四回なり始めた。全軍命令には鐘を使うが三回までしか決めていない。四回目は予定にない。だけど、ライには狙いはわかった。
「なるほど合図方法は決めてなかったのをうっかりしてた」
今からでもエスティアに頼んでティア達に連絡を取るべきかと考えたが、その心配は要らなかったようだ。
突如、砦上空に火花が散り始めた。それは最初一つだったが、時間が経つにつれて数が大きくなっていき空間が揺らぎ始めていた。
「始まったみたいだね。ならこっちも急ごうか」
すぐに正面を見直し、先ほどの返事も返さず歩く速度を速めた。リエルも今は速度を上げることが重要と判断し、走る速度を上げる。
ライ達の目標は峡谷にある、ジュアン帝国本陣だ。
ーーーーーージュアン帝国 本陣ーーーーーーー
空中に火花が飛び散り始めたことは前線から離れている、イプスとガドイ将軍の場所からも確認できていた。
火花を見る前までは、軍の態勢立て直しと進撃方法の変更、右翼に落ちた氷の塊を迂回して右翼は西に進み側面から攻撃させようとしていた。この方法は前線に穴を開ける危険性も高くなってしまうが、氷がある右翼は敵陣も邪魔なのだ。
本来ならば右翼部隊を迂回させずに安全かつ、楽に攻める方法はあった。でも、それには許容できないことがらがあったのだ。内容はマリーの精神力が持つかどうか。あの規模の魔法を使ってしまったら、いくら精神力が強いといわれているマリーでも消耗してしまうかもしれない。
よって、第二案である右翼兵士を迂回させ、虎の子部隊である氷兵隊の投入を指示した直後だった。
謎の火花が生じたのは。
「あれをどう思う?」
ガドイは意見を聞くためにイプスに質問する。しかし
「……わかりません」
一言で正直に答えた。
敵に強大な魔法を仕える人物がいるのは知っていた。先日の峡谷出口では炎の火柱が上がっていた。だから、対抗手段もあるとは考えたのだ。
あの現象ももしかしたら強力な魔法の可能性もある。けど、この状況に限ってはありえない。
なぜならば
こちらが超巨大な氷を砦に落とし破壊しようとしたとき、巨大魔法を行使する気配はなかった。氷の塊を事前に止められると知っていれば、落ちる前に大量の魔法をぶつけたりはしないだろう。空気や状況から相手は偶然の結果に安堵しているようにも見えた。ということはそれはでは想定外の攻撃だったのだろう。
なのに、危機の時行使しないで今行使する意味がわからないのだ。
「ふむ……だが対策を採らねばならんが」
「確かにそですね。ならば、氷兵隊に念のために魔法であの空間を狙うように指示を出しましょう。可能性は低くても強力な魔法を形成させたとして、別の魔法が割り込めば妨害できるはずですか……ら……!?」
だが、イプスは最後に息を呑んでしまった。
可能性の話をしていたイプスだったが予想外な光景が目の前に広がった。魔法原理としてありえないことが。
「ど、どうして!?魔法の原理をすべて無視しているとはどういうことだ!」
イプスが見る先、そこには先ほど火花を散らし始めていた場所。氷兵隊で攻撃をさせようとした場所。
そこに、突如 《こちらが放った氷と同規模の超巨大な炎の塊》が浮かんでいたのだ。
魔法の原理をすべて無視と言ったのは、上空では先ほどまで冷気が充満していた空間であった。土地柄もあり、それに加えマリーの魔法で氷が有利に働く状況であった。
だが今目の前にある炎は冷たい空気を嘲るように一瞬で急成長した。
イプスですら驚きをあらわにする光景。もちろん一般兵士達も気づいていた。そして、この後起こるであろう事に恐怖する。
こちらは今浮かんでいる炎と同規模の魔法を先ほど見ていたのだ。でも今回はその魔法が自分達に向いている。恐怖を覚えてもしょうがないだろう。
そんな間も、空中にある炎の塊は停滞し
徐々に動き始めたのであった。
こんばんわ、十時の更新が十一時になってしまいました。お待たせしました。
さて、今回のお話。ライが動いてますよライが!ということでついに行動を開始しました。お供はリエルです。峡谷で話していた最後まで後ろにいるわけではないという言葉が現実になるんですよ!そして、その時にもう一つ覚えておられるでしょうか。とある伏線が回収されておりません。ですが、この先回収地点があります。ご心配なく!
と、今日はこの辺で。また次回の更新で!徹夜だったのでまずは寝ることを優先しますので!では!




