第百二十二話 秀才と天才の違い
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キャサリンは敵の行動に眉をひそめる。
別に今戦争が終わっているわけではない。左翼の敵魔法部隊は相変わらず西へと迂回を開始。敵両翼前線は壁に取り付くこともなく止まり、敵騎兵は右翼で暴れていた土帝隊を警戒したのか外周警戒をしているようだ。
中央の重歩兵部隊に関しては初期に地面を魔法により陥没させそこに水をためることで弱点をついている、重さを利用し進撃を妨害できた。あれならば敵は破城槌を用いても十分な成果は上げられないはずだ。
だが、だからこそ疑問が出てきてしまう。
「それなら、常套手段として中央を棄てて東、西に展開城を包囲して別の場所から攻撃してくるはずなんだけど」
それでも包囲をしない利点とはなんなのか。
いや、そもそも数で勝る敵は包囲するべきではないだろうか。そうすればこちらの戦力を分断でき有利に持っていけるのだから。なのにしないのはする必要がないのか、敵の指揮者が馬鹿なのか。
「……後者なはずはないわね」
キャサリン自身それぐらいはわかる。確かに正面に愚直に展開した意図はわからない。しかし、展開した後の指揮は馬鹿とは思えないほどの指揮を見せられた。
こちらの土帝隊の奇襲、炎帝隊の魔法攻撃、弓矢による一斉攻撃。これにすべて対応されたのだ。奇襲には援軍を組み、投入した騎兵はそのまま待機、攻撃させるのではなく終始奇襲警戒をさせる。炎帝隊の攻撃には魔法部隊を投入。出し惜しみせずに出してきた。あれはこちらの思惑通りであるが、相手が有能であることを見越して考えていたことから、それだけで相手はある程度策を考えられる相手ということになる。
最後の弓矢による攻撃。普通ならば前線のみに盾を持たせると思っていた。しかし、どうやらよほど警戒しているのだろう。今まで考えてこられた飛距離を無視し、全軍の半分を覆うほどの盾を頭上に掲げられた。間に合わなかったのか鉄製の盾ではなく木製の盾を使っているものもいる。でも、実践的に考えれば、一撃で死ぬということは運が悪くない限りなさそうだ。
ならばそのような頭を、対策できる考えを持っている人物が愚直に前進してきた理由。
それがわからない。
「……ッ!」
歯がゆい。
状況的に最初はこちらの思惑通りになっていた。今も形はこちらが有利に動いている。実質行われた攻撃は弓矢攻撃による応酬。騎兵の奇襲、魔法攻撃によりこちらの損害はほぼなく相手には少なくとも五百から千の被害を出したはずだ。
でも、キャサリンにはとある予感があった。この時に気づかなければ窮地に追い込まれるのではないかと。
キャサリンは一挙一動を逃さず相手の行動を見つめるのであった。
ーーーーーーーーー炎帝隊 ティアーーーーーーーーー
ティアは現在魔法攻撃を中止していた。
先ほどまで絶えまず攻撃をしていたのだが、相手が引いてしまい効果が薄いと判断したため。ここでもし、敵の氷魔法が降ってくるならば応対していただろう。しかし、何を思ってか攻撃がないため、こちらもやめた。ただ、もちろんそれだけが理由ではない。
「……」
ティアは後ろを見た。そこには炎帝隊の面々がいるが全員が荒い息をしていて疲労が垣間見える。
魔法は一人でも強力な力を生み出す力がある。一人の兵士が弓矢を放ち、反対から魔法を放てばどうなるか。ほぼ魔法側が勝つ。
でももちろん代償はある。それが精神力。
人間には精神力がありそれぞれに容量がある。それがもし尽きてしまったらどうなるか。何度かティアは目のあたりにしてきた。
だからどこかで休息は必要。それがいまだ。
だが、ティアに不安が募り始めていた。
はっきりと理由を言えと言われたら困る。だが、今まで戦ってきた敵と比べ何かが違うのだ。例えるのなら山火事にバケツの水をかけて火を消そうとするように、手ごたえが感じられない。すべて、相手に往なされている。そのような感じ。
「ティア隊長。どうかしたんで?」
すると、ティアの身を案じたのか後ろで休憩していた一人の兵士が話かけてきた。
「んんー。別に何にもないよ!ただなんか相手の手応えというか、勢いが思ったより大きくないなぁとか思ってたから」
「ああ、確かにそうですね。俺らとしても予定では砦の上で敵がかけてきた梯子を燃やし、死闘を繰り広げると思ってたんですからな」
「だよねー。本当にどうしちゃったんだろう。まあ、そのおかげでこっちは休憩できてるんだからね」
「そうに違いませんね。……は、はっくしょん!ううっそれにしても寒いですね」
目の前の兵士は寒さのためかクシャミをしつつ
「まったく、北国は本当に寒いところだ」
そうつぶやいていた。
「本当にねー。なんでこんなに寒い……ん、だろ……う」
ティアは先ほどから感じていた不安と違和感の正体に気が付いた。
不安は先ほどから考えていた通り、敵の動きが不可解なこと。
違和感の正体は、雲一つない青空で寒い気候という場所だとしても、どうして『炎を使う自分たちも』寒さを感じてしまうのか。周りには雪もないのに。
本来一つ一つの情報ならばつながらない。しかし二つの情報をつなげればそれは真実となる。
周りに寒さを感じさせるほどの温度低下現象が起き、同時に敵が後ろに下がった。
とここでティアは空を見上げおかしな現象を目にする。
よく見ないとわからないが、雲一つない空にも関わらず、何かが太陽の光を受けて発光しているのだ。発光している理由はわからない。けど絶対にこちらにとっていい現象ではないことだけはわかった。
「ねえ!すぐに走ってキャサリン先生にこのことを話して!取り返しがつかないことになるかもしれない!」
突如叫ぶように言われた兵士は驚きながらも、慌てたように走り出す。
ピキンッ
不吉な音が空から聞こえてくる。
ピキピキピキ
何かがひび割れている音にも、ぶつかり合って圧力に悲鳴を上げているようにも聞こえる。そしてそれはどちらも正解であった。
今まで見えていなかったものが、二つの理由で姿を現したのだ。ヒビにより透明だった氷は亀裂が入り、圧力が結合時にかかったのと待機中にある不純物が混入したためか透明度は弱まり白い模様が見えるようになった。
「な、何なのあれ」
ティアはそれしか言えなかった。
目の前に現れたのは超巨大な。投石に使われる岩の何十倍もの氷が空に突如現れ、こちらに照準を向けていたのだから。
ーーーーーーーー国盾の砦 キャサリンーーーーーーーーー
ティアが見ていた光景は、もちろんキャサリンも見ていた。
「な、何なのよあれ」
ティアとほぼ同じことを同時につぶやいたキャサリン。
「あんなのありなわけ?」
空に現れた氷は今も少しずつ大きくなっている。それがこの砦にたたきつけられるのは明白だ。
そうなれば国盾の砦が負けるのは確実になる。数で劣るこちらは門を突破されれば大量になだれ込まれてしまうだろう。そうなれば、この砦は自分たちの逃げ道をなくす牢屋へと変えるのだ。
キャサリンは思う。もしの話をしてもしょうがないが、もしあの教え子であるライならばこのような予想もしない策に対応できたのだろうか。
自分自身、すでに実力から言って抜かれていると自身で薄々感じている。ライはまだまだ恐ろしい人だとか言われたが、それは自分から言わせてもらえばどれだけ本に載っている知識をため込み引き出せるのが上手いかというだけ。これではよくて秀才どまり。そんな人物は探せばいるものだ。
しかし、この世には秀才以上の人物が少ないがいる。
それは知識をため込み、引き出し、ここからさらに数歩先の境地、想像すること。本に書いていることをいくら読んでも利用できなければ意味はない。利用できたとして無限の可能性をどれだけ想像し対処できるのか、その数が秀才と天才の分かれ目だ。
そして、ライはキャサリンから見てほぼ秀才以上の人物。氷の坂というものを予測した時点でそうだろう。
そんなことを考えていたキャサリン。
でも無情にも時間は確実に進む。決して止まらない。
氷の塊がゆっくりと下降、重力をも利用してか砦の壁に激突させようとしていた。全軍を砦付近から離れさせたのは、壁衝突時の衝撃と飛んでくる破片を留意したから。
もちろん国盾の砦も兵士たち個人で何もしなかったわけではないようだ。
左翼からは炎が飛び、突風が吹き荒れ、岩が飛び、水の槍が飛ばされる。
だけど止まらない。
雪崩を止めようと岩を、炎を、風を、水をはろうが無駄だ。それは今魔法を放つ人たちにもわかっていた。でもやめられない。一途の希望、奇跡を信じて。
だが、無情にも巨大な氷は加速し
パキンッ!
壁に当たった音が当たりに響いた。氷にも衝撃が伝わったのだろう。轟音とともに氷本体のほうも何千とも何万ともいえる破片を飛び散らせた。
「……え?」
キャサリンは思わず言葉を出してしまった。
そう、確かに氷は砕け、壁に当たりいくつも破片を飛び散らせた。氷の破片を。ただそれだけなのだ。
あのような大質量のものをぶつけられれば普通なら衝撃が来てもいいはず。にも関わらず衝撃は来なかった。正面に落ちた砦のほうを見るが砦の壁も破損した様子はない。
一体何がという疑問がおこる中、それは敵陣で見ていたイプス達も同じ思いを感じていた。
ーーーーーーーーージュアン帝国 本陣ーーーーーーーーーー
「あれはどういうことだ!?」
ガドイ将軍は思わず叫んでいた。ガドイ自身も策を聞いたときあのような攻撃を止められると思っていたかったのだ。少なくとも人の所業ではない。
「いったい何が起こっておるのだイプス!」
「……」
隣で珍しく慌てて騒ぐガドイに返事は返さず頭の中で様々な考えが巡っていた。
(マリーの魔法を止めた?確かに報告には敵にも強力な魔法を操る人物はいると聞いている。ガリアント平原の戦いがいい例だ。だが、敵はこちらの魔法を見たときに様々な魔法を撃ち放っていた。それも全力で、だ。止める術があったならば慌てる必要もない。しかも、ぎりぎりまで出し惜しみするなど、さらにありえない)
ズズゥン
イプスが見ている目の前で氷の塊は地面に着地し崩れ落ちる。
(ありえないとすれば、もう一つ。敵はどうやって止めた?敵の使える魔法は土、火、水、風だ。ここからでも様々な魔法を目にできたが砦に何か魔法の細工を?いや、だとしても、土の岩が飛んでいた。それは裏返せば壁にぶつけるのはまずいということ。細工はありえない)
どうしてもわからない。
わからないが
「……全軍に攻撃再開を。なぜ止められたのかわかりませんが、相手も浮き足だっている。行くべきでしょう」
「撤退はしなくてもいいのだな?」
少しは冷静になれたのかガドイが質問すると、イプスは頷く。
「魔法による策が失敗した以上当初より犠牲は大きくなるでしょう。ですが、ここであの敵を打ち破ればガドリア帝国方面に向かっているフェレス軍は後方からも狙われることになり、あとは自滅するのみ。ここで勝てばすべては上手くいきます」
「……わかった。全軍攻撃を再開するのだ!伝令を飛ばせ!両翼部隊は当初の予定通り梯子をかけて一兵でも多く味方を場内に差し向けろ!中央の重歩兵隊も前進しろ!もし無理なら後ろの兵士たちを優先的に前進させ意地でも門を切り開くのだ」
ガドイの号令が響くとともに、全軍に向けて鐘が数回なるのであった。
---------砦上 ??????---------
国盾の砦が作った砦の上。ここに一人の少年がいた。その少年はぼんやりと眼下に広がる状況に目を向けていた。
「……」
しかし正確には違うであろう。どこか、視線は定まっておらず眼下を見ているはずなのに、どこも見ていないともいえる。しかも少年の表情はまるで夢遊病のように意識がはっきりしているとは思えない状態なのだ。
「……」
それでも、少年は決して目を離さなかった。周りでは何かを呼ぶ声も聞こえる。近くに数人の兵士や遠くからは女の人の声も聞こえる。だけどそれはわからない。意識が朦朧としているからか。ただ、その声を聴くと安心するのは確かだ。
そしてもう一つ。
自分の近くに誰かがいつもそばにいるような気がする。でも今はわからない。
それから
少年はゆっくりと目を閉じ、その場に倒れるのであった。
こんばんわ、今回もようやく更新できました。夜はいないと思いますのでいつもより早い時間の更新となります。
最近いろいろと忙しいのですが、なんとか頑張っていこうと思います。
さて、今回のお話についてですがジュアン帝国がついに強大な魔法を使ってきましたね。果たしてこんな力技の魔法でいいのか疑問も出ましたが、出てしまったのはしょうがないということで。そして、一体だれがその強大な魔法を止めたのでしょうか!わかりませんね!……予想はみなさん疲れていると思いますが。
次回は、さてどうなることか。自分も今正直考えております。はい、いつものことでございます。
ということで今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。




