第百二十一話 不穏
今回はいつもより文字数が少ないです。ご了承ください。
朝から始まった戦いはもうすぐ昼に差し掛かる時間帯であった。
キャサリンは戦況を見極めつつ、今だ作戦通りにことが進んでいることに安堵していた。
(なにやら相手の動きに変化があったと思ったけど、中央の重歩兵が速度を上げてきたことと右翼の騎兵隊が遊撃隊として展開されたこと以外は変化はないわね)
図面に並べられた駒を見つつ、そう考えていた。
でもすぐに状況は変化するのが戦場だ。
ふと、キャサリンは敵陣後方から立ち上がる土ぼこりを確認した。そして、それを合図にしたかのように敵軍の動きが瞬く間に変わった。
「両翼の兵士たちが後退していく?」
今まで橋をかけようと躍起にやっていた軍が突如後退し始めたのだ。それと同時に左翼へ氷魔法が打ち込まれていたが、敵軍後退と同時に止んでいる。
「……何をするつもりかしらね」
突然の行動に頭の中ですばやく計算をする。
(今動かせる部隊は一つだけ。右翼では風影隊と土帝隊。左翼では風帝隊と炎帝隊が対応してる。当然、両翼から移動させるのはまずい。ならこちらの騎兵に右翼、左翼どちらかを突撃させる?いや、敵はこちらよりも数が多い。例え突撃に成功したとしても殆ど効果がない。それどころか、敵の遊撃騎兵隊やここから見える敵の応援があっては成功確立が低い)
「キャサリン様!中央敵兵が門にたどり着きます!後ろには破城槌もあります!」
(中央もまずいわね。あの子を疑っているわけではないけど……もし、本当にライ君の懸念が当たっているとしたら窮地にたつことになる。けど何もしなければどちらにしろ危ない)
「キャサリン様!指示をお願いします!」
慌てた様に急かす兵士の声にゆっくりと顔を向けて聞く。
「……中央のあの子の部隊は準備してるわね?」
「は、はい!すでに待機状態でいつでもいけるとのことです!」
「両翼の状況を教えて頂戴。詳しく」
「はっ!両翼では敵からの攻撃が弱まり後退したことにより、橋をかけられることはなくなりました。お互い弓矢による攻撃手段しかありませんが、弓矢による戦いになりますとこちらに利があります!」
「左翼に合った敵魔法部隊はどこに向かってる?」
「それが、理由は分かりませんが大きく左翼を迂回して砦の西門のほうへと移動をしています」
「え?待って、その部隊だけ西門に移動しているってこと?」
「はい、物見の報告ではそのようです」
奇妙な話だった。乱戦や攻撃という圧力をかけているならまだしも、敵兵が後退し攻撃の密度が低くなった時に移動するなど、ある意味的にしてくださいといっているようなものだ。
この敵の不思議な行動についてはキャサリンも分からなかった。知識では知っていたとしても、本当にしっかりと奥底で『魔法の脅威』を理解できていない彼女では。
「……いいわ、分からないにしても動かないとどうしようもないし。そういえば左翼でこちらに動きはない?火矢二本で合図を送ったと思うけど」
「それならばもうそろそろ配置につくと思われます」
「わかったわ、なら火矢を一本打ち上げて頂戴。右翼には法螺貝を一回お願い」
キャサリンはここで、連絡用として三つの連絡手段を採用していた。右翼に対しては火矢を 左翼に対しては法螺貝を 全軍に対していは銅鑼鐘を。
そして、それぞれの回数は 三回で退却 二回で作戦開始 一回で
「突撃をして頂戴」
そういって、法螺貝が鳴りと火矢が空を舞った。
ーーーーーーーー中央 前線砦門前ーーーーーーーー
ガシャン、ガシャン、ガシャン
そのような不気味な音を鳴らしつつ、前進する一団がある。ジュアン帝国が誇る重歩兵大隊。前進を覆う銀の鎧はちょっとした攻撃を跳ね返すほどの防御力があり、手にもつ盾と武器は敵を確実に粉砕するほどの力を秘めている。
移動速度を犠牲にしたために鈍重ではあるが利点も大きいのだ。
そんな部隊はようやく目的の場所にたどり着くというところだった。
もう少しすれば門にたどり着き、門を壊すために破城槌を打ち下ろすと考えていたのだ。
でも前線にいた兵士は目の前の光景に首を傾げたかった。
自分たちの目の前に百ほどしかいない部隊が立ちふさがっていたのだ。
この広い戦場、一人がすべてを相手にする必要はない。しかし、三万という数が消えることはない。目の前の敵は分かっているのだろうか?後ろは門に閉ざされていることに。正面には自分たち重歩兵大隊がいることに。
そのようなことを思っているとき、門前にいる部隊の中から一人前に歩み出てきた。
前に出てきた人物は戦場に似合わない少女だ。銀色の髪を頭の左右均等に束ね腰には二つの剣を身につけている。小柄な少女が何をと考えた。
でも、次に少女の言葉を聴いた時、大いに首をかしげた。そして、身が凍る思いをする。
「これから、先には、行かせない」
そういった途端何もないところから大量の水が溢れ出し地面を水浸しにしていく。しかも、一番最初に床が脛か、ところによってはひざ辺りまで陥没していた場所にだ。さすがに広域にわたって膝までつかるほどの水を瞬時に生み出すことはできない。しかし、局地的に。中央の門だけに限定すればそれは不可能ではなかった。百人もの水が合わされば。
ジュアン帝国の重歩兵部隊は歩みを止めてしまう。だが、それでもしばらくして前進を再開する。確かに水の抵抗を得てしまったら鎧を着た重歩兵は動きが鈍重になる。しかし、それでも屈強に鍛えられた兵士たち。少しずつ確実に進むことはできた。
「ん、ならこれ」
すると次に銀髪の少女は視界を埋め尽くすほどの水を生み出し視界を塞いでしまった。立ち往生をする重歩兵達。だが少しすれば視界は回復する。
でも、そのときにはすでに少女達の部隊はいなくなっていた。まるで幻だったように。彼らは考えるべきだった。今まで前進していた場所にどこから少女らがやってきたのか。
ーーーーーーーーーージュアン帝国 本陣ーーーーーーーーー
「やはりそうですね!」
イプスは敵の行動に対し自分の仮定が正しいことを知る。
しかし、隣にいるガドイ将軍には何のことか分からなかった。
「今の相手の行動で何が分かったというのだ」
ガドイは確信を持った表情をしているイプスに質問したすると、すぐにイプスの返事は返ってくる。
「私の仮定が正しかったのです。敵は思ったとおりライ・ジュリアールという軍師を現在失っております」
「む、どうして分かる。私が見ていた限り最善の士気をしていたではないか。中央の重歩兵部隊に対して陥没した地面に水を流し込むことによって動きを止める。法螺貝と火矢の意味は分からぬが、何かしらの合図であろう?」
「合図については大丈夫です。後方に動かしている騎兵はただの囮、援軍を向かわせていると勘違いさせるために。左翼の敵騎兵についても少ないですが五百の騎兵がおります。もし敵騎兵が突撃してきても、囮として動かしている騎兵をそのまま向かわせればいい。そうすれば敵騎兵は逃げるか壊滅するはず」
「ふむ」
「そして、私が仮定が真実であるという理由は敵の作戦、ガドイ将軍が仰ったように水の魔法をつかったことです」
「いや、それはおかしいだろう。敵には水を使う魔法部隊はいるのは聞いていた。別に理由とは」
「よく考えてください。我々が得意とする魔法はなんですか?そして、氷とは何からできていますか?」
「……なるほど」
「あのライ・ジュリアール軍師は私が仕掛けた氷の坂という奇襲を見事撃退しました。そんな相手が氷を使われるという危険を冒すはずがない。こちらは条件もありますがあの水ならば問題ないです。両翼を止めたのも、相手の対応を確認したかったのです」
「そして、氷兵隊を西に方向転換させたというのに敵は何もしていない。これはもう指揮する人物が変化している」
「ではこのままいけば」
「はい、こちらの策を使います。騎兵隊は敵伏兵に警戒。部隊はその場で停止。中央重歩兵隊もその場に停止。強大魔法攻撃を敢行する。弓も打ち方やめ。全員盾を上に抱え敵の矢の防御を。壁を破壊する!」
イプスの指示から四半刻(30分)、戦争が始まったころから薄く覆っていた霧。その意味が今キャサリンたちに牙を剥く。
上空でイプスや一部のもの以外はまだ気がつかない。
光に当たり銀色のものが空気中で発光していることに。
お疲れ様です。まだまだ戦争編が終わる兆しがありませんが気長に見守ってください。
今日はこれから忙しいのであとがきはお休みします。
また、できれば二日か三日単位で更新していこうと思いますのでよろしくお願いします。何かあれば活動報告のほうに連絡いたしますので。
ではまた次回お会いしましょう。




