第百二十話 仮定の真実
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キャサリンは戦場を見渡しながら、こちらの動きに対してジュアン帝国側が動いたことに気づいていた。
「どうやら、騎兵右翼に対して相手も騎兵をぶつけてきたみたいね。歩兵である予備兵も動員したとなれば、数はおそらく千~二千って所ね」」
そう言いながら、目の前の地図上にある土帝隊前に敵騎兵を表す駒を配置する。
「キャサリン様!左翼でも動きがありました!」
「敵の武装と規模はどのくらい?」
「敵の武装は歩兵です!ですが、数はそこまで多くない模様です。規模にして約二百~三百ほどかと!」
キャサリンは報告を聞いて首をかしげる。
現在左翼ではティア率いる炎帝隊が炎攻撃をしている。砦の関係上大火力でするわけにもいかず、今のところ足踏みを乱れさせるぐらいに留まっているはずだ。だが、相手にとっては魔法攻撃にさらされている脅威には間違いない。
だが、にもかかわらずたった二百ほどの歩兵を投入してどうなるのか。
それを考えればすぐに答えにたどり着く。そして答えの確証を得るために兵士に確認する。
「左翼に向かってきている二百の部隊は弓は持っていないのね?」
「は、はい!弓らしきものは持っておらず、左翼を大きく迂回しながら接近しております!」
「そう……まったく。こっちが使ってて文句は言えないけれど本当に魔法って便利ね」
「魔法、ですか?」
「その部隊は先日の戦いで報告があった氷魔法を使う部隊ね。炎帝隊を牽制するためにやってきたんでしょ」
「ではどうするのですか?何かの対策をしなければ!」
兵士があわてて進言してくるが、キャサリンは氷という駒を左翼部分に置いてからニヤリと笑った。
「いいえ、対策はしなくて良いわ。炎帝隊もやってくれるでしょうし……この状況はもっとも望んだ展開なのだから」
兵士は言葉の真意をまだ読み取れなく表情をゆがませる。しかし、この兵士はしばらく後に、ようやくキャサリンの言葉の意味を知るのだった。
ーーーーーーーーーー国盾の砦 炎帝隊 ティアーーーーーーーーーーーー
敵が接近してきたことにより攻撃を開始していた炎帝隊。敵の矢は現在レーシアの風帝隊が起す風により、矢は城内に飛んでこない。炎の勢いは増し死の危険が少なくなっている状態だった。
しかし、そんな状態でも攻撃をしている炎帝隊は不満を持っていた。
士気も高く、隊長であるティアのために本当は全力攻撃をしたい。でもこの砦は水や氷を使った砦のため高熱にさらされたら崩壊する危険があるのだ。
よって不完全燃焼の状態であり、敵にもそこまで被害を与えられていない。
そんな状況であったが、兵士一人の声により状況が変化する。
「敵正面から敵増援があります!数は約二百、おそらくキャサリン様が言っていた部隊かと!」
「やっと来たんだ、氷の部隊。ライが魔法部隊を結成させたのを真似したんだろうね」
今までの戦場では魔法部隊というものが存在していなかった。その理由は様々だが、大きな理由の一つとしては魔法を使うための武具に対する威力が均一ではなく使いづらい。よって、魔法武具とは個人の生存率を上げるためのものでしかなかった。
そんな中、こちらのことを調べ部隊をいち早く結成したというのはそれだけ相手は既存のものに囚われることなく応用が利く司令官なのだろう。
だが
「それが今回仇になるんだけどね、全員敵が魔法を放ってきたら頭上に来た氷は打落として、それ以外は無視!攻撃を続行して!」
「「「「「「「おう!」」」」」」
炎帝隊兵士はそう答え魔法攻撃を続けるのであった。
「さて、敵さん。まだ本気は出せないけど……後で覚悟してね?」
それは敵の司令官に言ったのか、全兵士に言ったのか。どちらにしても、相手が聞いたらこう思うだろう。嫌な予感しかしないと。
ーーーーーーーーージュアン帝国 氷兵隊 部隊長ーーーーーーーーーー
ジュアン帝国 氷兵隊
今回の戦争に対し初めてジュアン帝国で結成された魔法部隊。
この部隊を率いるのは今年三十になる男であった。
三十で部隊長になるというのは速いほうであるが、この氷兵隊に限っては異例の抜擢である。
氷兵隊は魔法部隊。新設されたとは言ってもすでに敵国であるフェレス王国では実用性が実証されている。そんな実験部隊ともとれるこの部隊はまさにジュアン帝国にとって虎の子部隊なのだ。
そんな部隊を三十である男が隊長になるということから、この男が優秀なのは間違いないだろう。
だからこそ、この少しした違和感を部隊長は感じ始めていた。
「敵の反応が鈍い?」
部隊長はそう呟く。
氷兵隊は命令を受けて右翼で炎魔法の攻撃を受けている味方を助けるためやってきた。その人数は二百。敵からしたらたったそんな数で何をするのかと笑うかもしれない。
それに仮に何か予感があったとしても魔法武具かどうかなど表面上からは見えないのだ。魔法部隊と見破るのは難しいだろう。
だが
「敵はあのライ・ジュリアールという。姿は現さずとも先日の戦いで一度だけ援護で攻撃をしていた……なのに相手が気づかないものか?」
部隊長は目の前の戦場を見ながら呟く。その間にも炎の塊が飛んできて前線兵士に降り注ぎ運悪いものは火達磨になっていく。
その様子を見かねたのだろう。後ろにいたこの部隊の副官が進言してくる。
「隊長指示をお願いします。何かしらの命令をしなければ、遅れるだけ兵に被害が」
「それはそうなんだが」
「では何を躊躇しておられるので」
そこで隊長は言葉を噤む。隊長にしても明確な理由はないのだ。まだ違和感程度でしかない。だから、部隊をとめるというほどではないだろう。
隊長は考えた末結論を出した。
「……わかった、本陣の指示どおりこれから敵部隊に対して魔法攻撃を開始する。目標は敵砦内。その間に味方が砦に着くことになっている。よって、我々はその援護だ。砲撃用意!」
「砲撃用意!」
隊長の言葉を副官が繰り返し後ろの兵士たちが空中に向けて意識を向ける。あるものは手をかざし、あるものは剣を向けていた。
「……」
隊長はもう一度考えたが、すぐに首を振る。攻撃をしてみて様子を見つつ、状況に対応することにしたのだ。
「……砲撃開始!」
「砲撃開始ー!」
隊長と副官。二人の言葉が響いたと同時に二百もの氷の塊や光が空に舞った。着弾点精度は悪いだろうが、二百もの魔法は敵兵を殺そうと空を架空する。
それに合わせたかのように敵兵からも炎の塊が空を飛んできて、空中で激突する。
そんな間でも隊長の違和感は決して消えることはなかったのであった。
ーーーーーーーーー国盾の砦、キャサリンーーーーーーーーーーー
「敵魔法部隊、左翼の炎帝隊に向け攻撃を開始したようです!これに対して炎隊も応戦。空中でお互いの魔法が激突している模様!ですが、炎帝隊が若干押されぎみなのか敵兵左翼への攻撃密度が減り前進されてます!このままでは城壁にはしごを掛けられてしまいます!」
「んーでしょうね。ならこっちも動くとしましょうか。味方部隊に連絡をするために火矢を上げなさい。数は二本」
「了解であります!」
「ん、それと右翼はどうなってるのかしらね」
そういいつつ、右翼を見るとそこでは土帝隊が無双しているようだ。しかし、敵兵の援軍がそろそろ激突しようとしていた。今は無双していたとしても騎兵の突撃をまともに受ければ数で劣るこちらは不利になるだろう。ならば今が引き時だ。
「土帝隊本隊には退却してもらうわ。合図は法螺貝三回。それと風影隊の君。あなたは、これから全力で自分の隊に戻ってランちゃんに伝言して頂戴。内容はサチちゃんと協力して土帝隊の援護を。完了次第、風影隊は作戦の第二段階に移行してと」
「了解です」
そういうと、風影隊の伝令は魔法を使い姿が見えなくなった。残ったのは風による衝撃のみ。
風影隊隊員がいなくなったと同じころ、次に法螺貝が三回吹かれる。その音をしっかりと聞こえたのか、土帝隊は退却を始めていた。
これで右翼、左翼は何とかなるだろう。
そう思いつつ、キャサリンは図面に視線を落とし視線を鋭くする。
今はまだこちらの思惑通りに進んでいる。だが、問題は次だ。
キャサリンが懸念している問題、それは敵中央にあたる場所におかれた駒。重歩兵隊の駒であった。
「さてと、一応対策は採っているけど果たして通用するかしらね」
キャサリンにとってこれは一種の賭けであった。ライが意識があったころ懸念していた内容を今回無視して利用したのだが、もしライの懸念どおりのことになってしまったら砦だけではなく、仕掛けた部隊すら危険にさらすことになる。最悪砦が崩壊する危険性もあるだろう。
「頼むわよー。最悪な選択にはならないで頂戴」
そういいつつ、内心で祈るのであった。
ーーーーーーーージュアン帝国 本陣 ガドイ・イプスーーーーーーーーー
本陣で戦場の様子を見ている二人は真剣な眼差しで次にどうするべきかを話し合っていた。
「右翼のほうでは氷兵隊の活躍で前線部隊が砦に向かって前進を再開したようだな。左翼部隊は先ほどの法螺貝が合図なのか退却したみたいだがさて、どうしたものか」
「右翼部隊についてはそのままで良いでしょう。左翼部隊の騎兵は予定通り敵伏兵を警戒して遊撃隊にし、歩兵はそのまま前線へと組み込めばいいでしょう。敵の矢は未だに健在ですがもうすぐ矢の有効範囲外。橋が架かればついに王手です」
「ふむ、中央に関しては順調のようだな。そなたの助言どおりに重歩兵部隊を置いて進撃速度は両翼よりも遅いが、確実に前進を続けている。どうやら助言は正しかったようだ」
「砦に立てこもるのが分かっていれば、敵の攻撃手段としては弓か魔法攻撃に限定されます。そして弓は重歩兵には効果が薄い。魔法による攻撃に関しては懸念してるんですが……対策は持たせてあります。よって、確実に門に取り付くことはできましょう」
と、ここでイプスは 「ただ」といいながらガドイに話す。
「ただ、少し変な感じなんですよね」
「む?おぬしもそう思うか」
イプスはガドイのほうを見ながら聞き返した。
「ガドイ将軍も何かを感じられていると?」
「はっきりと分からぬし、勘違いの可能性もあるが……なにやら順調に進みすぎているような気がしてな。私は直接指揮を取るのはこの戦いが初めてで良く分からぬが、先日の戦いの話を聴くにもっと苦戦をしていたという。にもかかわらず、順調に進んでいる。これは私の気のせいだろうか」
イプスは考え込みながらガドイに話し始める。
「……いいえ、実は私も何かしら違和感を感じておりました。一人ならば勘違いもありましょう。ですが、それが複数となれば何かしらの理由があると思わなければならない。問題はその理由が何かですが」
そういってから、イプスはこれまでの相手の指揮方法を思い出しながら分析していく。
(敵は今思えば最初からおかしい挙動が多くあった。今までこちらから仕掛けたのもあるが、問答無用で戦いを開始していた。なのに今回に限って向上を述べにキャサリンという女が前線に出てきた。話しが通じる相手とどこで確信を持てた?こちらがいきなり攻撃してくる危険もあったはず。なのに、そんな危険があるにも関わらず前に出てきたのは……こちらの情報を知りたかった?)
ただの士気向上や大義名分を示すだけとは思えない。
(だが、ならなぜ情報を知りたかった?こちらは陣をすでに構築し天幕も展開していた。ならば兵力も予想はできていたはず。疲労や士気については二日も開けたことである程度回復しているから問題はない)
と、ここでイプスはあることに気づく。
(……二日間何もしなかった?)
よく考えればおかしい。最初は手を出しづらくこちらも対策していたから攻撃をして来なかったと考えていた。だが、兵士の絶対数が違うなら何かしらの策を講じないのはおかしい。何も攻撃だけが策ではない。流言、火矢による火事、奇襲、いずれかをすれば少なくとも敵の攻撃を予測してしまい十分な休息を取れなかったはず。でもそれすらもなかった。
しかも
(相手が何も策を講じなかったのに相手の様子を探った理由、考えられるのは知られたくないことが伝わっているかを探った?こちらの間諜が敵にはいないから十分考えられる。なら、何を知られたくなかった?攻撃すらしないほどの不都合とはなんだ?)
そして、そこまで考えたところでイプスはある仮定にたどり着く。
「……ガドイ将軍中央部隊に指示を。重歩兵部隊の進撃速度を上げ後方部隊は破城槌を迅速に運ぶように。両翼は梯子の立て掛けを優先させる……と見せかけつつ後方に一時後退。右翼の氷兵隊にも味方前線が停止した時、魔法攻撃を中断、敵砦の左側に進軍するようにと」
「それは良いが……いきなりどうしたというのだ?しかも梯子をかけるではなく、後退などと」
「仮定の話して聞いてほしいのですが、もしかしたら敵には重大な隠し事がある可能性があります。しかも、それが軍を揺るがすほどの」
「なに!?それは一体なんなのだ!」
イプスは一度だけ呼吸を整えて告げた。
「敵の軍師、ライ・ジュリアールに何かしらの不幸があった可能性があります」
戦局は再び変化の時を迎えようとしていた。
こんばんわ、お疲れ様です。ようやくかき終えることができました。
予定よりも二時間ほどもずれ込んでしまい申し訳ありません。
新しくお気に入りなどしていただいた方々もおられるので、書いておきますが、更新するときや、遅れる場合は活動報告のほうに逐一書いておりますのでそちらのほうを確認お願いします。更新速度は1~3日のつもりです。最低でも3日目には何かしらの連絡を入れるつもりなのでご承知のほどを。
さて、本編の内容についてですが、どうやら敵軍師であるイプスにライの異変を感づかれてしまいましたね。これからが本当の戦いになるのかもしれません。
その間まだライは意識を取り戻してはいないのですが、いつ意識を取り戻すのか。
気になるところです。
……なんだか、ご飯も取らずにこの時間になったのか文章がすごくまとまらないので、今日はこの辺で。
また次回お会いしましょう。ではまた




