第百十九話 策略の読み合い
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国盾の砦とジュアン帝国、第二回戦目はジュアン帝国の進軍から始まった。
ジュアン帝国軍は鎧で固めた重歩兵隊で中央に前進をしてきてる。左翼、右翼では身軽な歩兵部隊で形成し、その後ろに梯子を持った部隊もちらほらと見える。敵の陣形は鳥が翼を広げる用にしている鶴翼の陣、キャサリンの予想通り数の暴力をもって砦攻略をするのだろう。
だが、国盾の砦ももちろん黙っているわけがない。
「歩兵部隊に攻撃の合図を」
「了解です!」
キャサリンが指示を出し、近くにあった銅鑼鐘を二回鳴らす。攻撃の合図だ。
すると、すぐさま砦内からおびただしい矢が空を架空していく。
しかし、ジュアン帝国も学習していた。
「敵からの矢が飛んできたぞ!全員たてを頭上に持ち上げろ!後ろの奴らもだ!」
国盾の砦は魔法の矢、土矢を織り交ぜていた。これにより油断するであろう後方部隊にも打撃を与えるつもりだったのだが、先日の戦いで学んだのか油断がない。
上から状況を見ているキャサリンは唸る。
「んーやっぱり油断はしてくれないか。それもそうね、相手はライ君のことぐらいは知っているし、恐ろしさも知ってるんだから当たり前よね。……ならこれはどうかしら?」
キャサリンはすぐさま次の指示を出した。
「炎帝隊に攻撃の合図を、目標は左翼歩兵部隊」
「繰り返します、炎帝隊に攻撃を合図、目標は左翼歩兵部隊!」
「ならお願いしますね」
確認を取ったように頷くと、兵士はすばやく動き赤い旗を砦の上から振る。
それを見ていた砦左翼部分に待機している炎帝部隊は合図が来たことを確認する。
炎帝部隊は約百人。少ない戦力ではあるが、貴重な戦力には違いない。そして、この部隊を率いるティアは自分の武器である槍を握りこんで静かに言った。表情はいつものほのぼのとしたものではない。まさに、憎悪に燃える悪魔とも見えるかもしれなかった。
「……皆、合図が着たから攻撃するよ。左翼の敵に目にものを見せてあげて。ただ、私も攻撃するけどある事情から本気で攻撃はできないから皆が頼りなの。お願いね」
ティアの殺意がこもった言葉に誰も返事は返さない。しかし、兵士たちは恐怖から返せないのではない、声が出ないほどに士気が高いのだ。普段からティアとライの様子をこの炎帝隊は見てきた。兵士たちの年齢は若い者で二十後半、ティアを娘のように思えていたのだ。というのに、今回軍師であるライが罠にはまり、いつもニコニコしていたティアが暗くなっている。
炎帝隊兵士たちにとって、戦う理由はそれだけで十分だった。一刻も早く戦いを終わらせ再び笑顔を取り戻そうと考えていた。
全員がそれぞれの魔法武具を持ち、合図を待つ。
そして
「全員、攻撃開始!」
一斉に左翼から炎魔法による攻撃が開始された。
「左翼部隊から攻撃を開始しました!」
報告を受けたキャサリンは頷き、目の前に広げられている図面と目の前の陣容とを見比べる。
左翼の炎魔法により敵は少しだけ進撃速度が遅くなった。だからといって、攻撃自体が止まるということはない。中央は確実にゆっくりと進撃してくるし、右翼からも歩みを止めない。
しかし、そんなこと想定内である。
キャサリンは盤上に配置している駒のうち土とかかれた駒を砦右翼において指示を出す。
「左翼の炎帝隊は状況を見て下がらせて頂戴。その後は矢による牽制をして。あと、今から段階的に策を実行に移していくわ。右翼の土帝隊にあの仕掛けを実行するように伝達を。風帝隊は配置替えをして炎帝隊の援護を。風を起せばそれだけ炎は広がるわ」
次々に指示をしていく内容に、連絡網係として風影隊の一人が飛んでいく。攻撃の合図は旗や鐘で指示を飛ばせる。しかし、それはお互いが信号を理解していればの場合である。敵が中央に重歩兵を用いたため、風帝隊を中央に配置していたのでは効果が薄い。ならどうやって連絡を取るか。それこそ、風と影を利用し、風のように戦場を駆け抜けある時は伝令、ある時は隠密のように動き、魔法を使う部隊の出番なのだ。
風影隊が俊敏な速度で走っていったのを見てキャサリンは独り言を呟く。
「……ほんとーに、魔法って便利よね」
自分も護身用に持っている魔法道具はある。でも自分のは応用が利きにくい。だからこそ、早く移動ができる、炎を生み出す、土を操るというのを見てしまうとどうしても羨ましく思えてしまうのだ。
「あの、キャサリン様?」
すると、何か勘違いしたのか深刻な表情と思ったのだろう。心配するように近くに控えている兵士が問いかけてくる。
そんな様子を見て、内心「いけない、いけない」と思いつつ、明るい笑みを浮かべながら返事を返した。
「心配しなくても大丈夫。相手はそろそろ罠に引っかかる所だからね。まあ、だからといって楽にはならないんだけどね」
そういいつつ、キャサリンはある一箇所に視線を向けていた。
そこには土と書かれた駒がいる場所だった。
-------ジュアン帝国 前線左翼 歩兵大隊ーーーーー
ジュアン帝国から見たら左翼、ここでは現在敵の砦を包囲殲滅するためにゆっくりと前進していた。敵からの弓矢による攻撃で防備を固めるため速度は出ていないのだ。
でもそんな中、大隊を指揮する一人の隊長はいやらしい笑みを浮かべていた。この男は先日壊滅した三千の兵士や峡谷内で壊滅した兵士たちの残りを集めて編成された部隊で元々隊長を務めていた人間はすでに戦死してた。
よって新しい隊長をということで、この男に白羽の矢が立ったのである。
男は内心で目の前の脅威よりも、その後のこと、そして緊急時とはいえ昇格したことに浮かれていた。
(ふふふ、まさかこのような幸運に恵まれるとはな。大隊長とは。これならば戦に勝ったと利益を貪り酒も、女も買い放題だ!)
人の欲望とは原動力となる。生への渇望、堕落への欲望。家族を守るため立ち上がるのも一種の占有欲である。人とは欲が行動指針となるのだ。そしてその欲は時に常人ではありえない力を発揮することがある。火事場の馬鹿力がいい例だ。
だが、発揮するには条件が必要だった。それは力強い信念、欲望があればこそ。
ガクンッ
盾を必死に上に構えジュアン帝国左翼歩兵部隊がある程度進んだとき、ガクンと地面が沈んだ。壊滅した兵士たちはこの時悟っただろう。このような経験を数日前に経験しているのだから。
すなわち地面が落ちる。
「……!」
一人が悲鳴にもならないのか顔を強張らせたが、幸いというべきか地面はそれほど深さがある訳ではないようだ。大体膝辺りだろうか。範囲は広くてもその程度だ。陣形が崩れ、その折に矢に貫かれた兵士もいたが損傷は軽微であった。
「む、なんだ驚かせおって。ただのこけおどしか」
大隊長はそう判断し気にしない。前線の兵士も大隊長の様子を見て、安心する。この時ばかりはこの男の不遜な態度が頼もしく見える兵士たちだ。
「敵はどうやらこのように小細工をしなければならないほど、窮している!このまま敵の首を取り武勲を立てろ!将来の安寧の為に!」
兵士たちはゆっくり行進を開始する。この沈んだ床の本当の意味を知らずに。
ようやく敵の砦城壁近くに来たとき事態は再び動き出す。
「よし!なら攻撃を開始しろ!後ろの梯子隊は前に」
しかし、大隊長は声を出すことはできない。その顔は目を見開き驚きを表していた。
「な、どこからやってきた!」
自分たちの左から敵の部隊が現れたことに驚きを隠せないでいた。
ーーーーーー国盾の砦 土帝隊 ラッシューーーーー
砦の壁につりつかれる少し前、ラッシュは床が沈んだのを確認した後、静かに移動していた。目指すは、敵右翼の歩兵部隊に全力で攻撃をして一時前線を混乱させるのが目的である。
キャサリンが一番懸念していたのは敵がこちらの作戦を看破してこちらに向かってくることだったが、どうやらそれもないらしかった。
ラッシュはゆっくりと『立ち上がり』走り始める。あの峡谷で土帝隊は被害を受けていた。仲間を殺されたこともあり士気が高いのもあったが、ラッシュの士気はもっと高いだろう。
もちろん仲間がやられたこともある。だが一番の理由は自分の隊からライを傷つけた兵士がでたからだ。自分に非がなくても管理能力がなかったから今回のようになった。責任を人一倍感じていた。
「お前ら、今回は冗談抜きでいく。俺は強力な魔法をあまり使わない。だがお前らは使ってくれ。周りにいる千五百騎兵は一斉に出たらそのまま横から喰らいつけ」
ラッシュは確認をとるように言いつつ振り返らない。何も聞かなくても張り詰めた雰囲気で分かるからだ。
「いくぞ!」
そういって、ラッシュは馬で先頭を駆け抜ける。その後ろに多くの騎兵が続く。
それからしばらくして、ついに敵の右翼に突撃が成功することになる。ラッシュは途中「私がこんなところで」といいながら、偉そうな奴を斬ったがすぐに頭の中から消えていた。すぐに迫ってくる敵に斧を払い、斬り、叩きつけ人の命を奪っていく。右翼は完全な地獄絵図へと変貌を遂げているのであった。
この光景から屈強の戦士といわれていたラッシュは後に屈強の鬼神といわれるようになったのであった。
ーーーーーーーージュアン帝国 本陣営 ----------
現在ここでは二人の人物が戦場を見て、そのうちの一人ガドイ将軍が眉を潜めていた。
「……確かに、敵は多彩な魔法を揃えているとは聞いていた。質も悔しいことだが敵のほうが勝っていることは分かっている。だが、この状況はどういうことだ?」
正直に言うとガドイ将軍は困惑する。敵に攻撃されたという事実ではなく、敵が砦から外に待機していたというのに、中盤でもっとも威力を発揮するであろう伏兵をいきなり投入したことに対してだ。
隣にいた軍師であるイプスも手を顎に持っていきつつ考える。
「相手はどういう意味で伏兵をしたんですかね……というかそもそもどこから来たんでしょうか」
ここは開けた平原に近い場所だ。こちらの策略によって霧が薄く発生させているとはいえ、遠くを見渡せないほど濃い状態ではない。
騎兵を移動させる場合は人間だけではなく馬も移動するのだ。ならば、砂埃や馬の嘶き行軍の音すべてを消せるとは思えなかった。
可能性としては数日前に配置していた可能性だが、二日前から間諜が敵軍にいなくても監視は注意深くしていた。それをごまかして動いたとでも言うのだろうか。
それに
「右翼はどうしたものですかね」
現在こちらの軍で順調に行軍しているのは中央の重歩兵部隊のみ。右翼は敵軍の騎兵部隊、左翼は矢と炎魔法による攻撃。しかも、不自然な風が起こっている為か盾や梯子、火達磨になった兵士の炎は消えるどころか勢い良く燃えている。
頭の中で多くのことを考えながらガドイに話しかける。
「とにかく敵のことに対処しましょう。こちらの氷兵隊を右翼に投入して敵の炎攻撃を追撃します。左翼の騎兵に対しては予備兵千を投入と同時に、騎兵五百を遊撃隊と向かわせればいいでしょうね。そうすれば敵は数の暴力にさらされて撤退していくでしょう」
「うむ。まあそれしかないだろうな。こちらの右翼が打撃を受けてもまだ多くの兵士が後方に備えいる。絶対数が違うのだからあわてる必要ない」
そういうガドイを見て、イプスは少しだけ顔を歪ませる。
(確かに絶対数はこちらのほうが上。この戦いに関しては有利なのは変わりない。しかし、国本来の目的としてはこの先にある。それを忘れているのか)
内心で問いかけつつ声には出さない。イプス自身も絶対数の有利は理解しているしこの先のことを考えても、目の前の戦いに勝たなければ意味ないからだ。
一度だけ深呼吸をし視線を再び前線のほうに向けたとき、ガドイが指示をした。
「こちらからも攻撃を開始する。氷兵隊は右翼で攻撃を受けている味方を援護、敵砦内の魔法使いたちに攻撃をするのだ!その間に歩兵部隊は前進、梯子をかけて中に進入、門を開かせろ!左翼にいる騎兵には予備兵千と騎兵五百で撃退する。すぐに行動に移すのだ!」
ジュアン帝国も黙ってやられるわけがない。
戦場は生き物という。それは刻一刻かわる状況に常に最適解を求め相手の軍師を出し抜かなければならない。
キャサリンとイプス
二人の知恵者がまさに今、お互いを出し抜こうと策を張り巡らすのであった。
こんばんわ、再び二つの軍が戦い始めましたね。
しかも、今回はライが不在の状態です。そんな中キャサリン先生はどのような策略を用意しているんでしょうか。果たして劣勢を覆すことは可能なのか!
そして、意識を失っているライはいつ目覚めるのか、またライの守護者でもあるエスティアは現在何をしているのか。
そのようなことを注目して次回も楽しんでいただけると思います。
なんだか次回予告のようになりましたが、お楽しみに。ではまたお会いしましょう。




