第百十八話 軍師の不在
お楽しみください。
ライが倒れてから二日後。ついにジュアン帝国は動き出す。この時、未だにライは目を覚ましていなかった。
ジュアン帝国を纏める将軍、ガドイ。そばには軍師イプスが控え後ろには約三万の兵士が待機している。
二日前に突如現れた砦を目にしたままガドイは隣にいるイプスに話しかける。
「イプス、お前ならどう考える?この二日間陣を構築し、行軍の疲れを癒すために二日費やした。その為こちらの士気は高い。それはこちらとして良いことなのだが、相手もこちらが士気を上げることを嫌うはず。だから我々は夜襲など警戒していた」
「はい、いつもの二倍以上の警戒網を敷いていた。にも関わらず何もしてこなかった。こちらの動揺や疑心暗鬼にする狙いか。それとも策があるのか。または」
「策を用いることができないほどの何かがあったかか。こちらの間諜は敵軍に潜りこませていたはずだ。連絡はないか」
「実は戦う前から数名の間諜を潜入はさせてました。ですが、数日前にすべて戻ってきて間諜を排除されたのです。殺されることは無かったようですがね」
「なら相手の状態はわからずじまいか。不気味だな」
戦で重要になってくる要素の一つに情報がある。情報とは、敵がどこに配置しどのくらいの規模、陣容、常態かを知ることにより進退の決定、罠、伏兵など作戦の立案をできる。
だからこそ間諜を何人も四方に飛ばし情報を仕入れるのだ。
今のジュアン帝国は情報戦で一歩負けている状態であった。
ちなみに、このことが実は国盾の砦の救いとなっていたのだ。そこには二つの幸運が存在した。一つは砦を築き相手に陣地内のことが見えにくくなっていたこと。そしてもう一つが、間諜を事前に摘発、排除していたことだ。もしイプスがライが倒れ動揺していることを知ればすぐにでも総攻撃を仕掛けただろう。質が悪くても数で押し切れると考える。イプスの中では一万の兵士よりもライという軍師のほうが恐ろしい敵と認識していた。
「ふむ、まあこのままにらみ合っても埒が明かぬか。一日経てばそれだけ膨大な食料が失われる。予定より行軍兵が少なくなって余裕が出たとしても、今後のことを考えれば無駄は省かなければならぬな」
「では進軍しますか?」
「うむ、今回は私が指揮を取るがイプス。お主は積極的に策の立案してほしい。……本当ならば私よりお主に指揮官をしてもらったほうがいいのだろうがな」
「そんなことはございません。私は非力な身、先日敵の罠にはまり損害を出したのですから」
「常勝無敗などありえんよ。それに、軍師であるお主の策を破った敵が異常だったということであろう」
「そういっていただけると幸いですね。そろそろ敵の指揮官が砦の上に出てきたようです」
イプスは視線を目の前にある砦に移すとそこには一人の金髪の髪をした女性がいた。歳は二十代後半ぐらいに見える。
「あれが相手の指揮官でしょうか」
「分からぬ。が、相手が出てきた以上こちらも相対しなければな」
そういってガドイ将軍は前に出て行く。この大陸では会話など無くいきなり始まる戦いも例が多くある。しかし、この件のように戦う前にお互いの向上を述べる時もあるのだ。思惑は色々とある。士気の向上、大義名分の有無など。もし相手が出てきたのにこちらが出なかったら、その場合臆病者だと思われ敵軍は士気があがり自陣は下がるであろう。それどころか、もし敵に問答無用で攻撃しようものなら戦いに勝ったとしても人身の信用は地に落ち、他国からも反感をかって窮地に立たされる。
そうならないためにガドイ将軍は前に出たのだ。数名の騎士を引き連れて。
ガドイ将軍が前に出てくると無謀にも国盾の砦は砦の扉を開き、門の中から先ほど扉の上にいた女性が馬に乗ってやってきた。両隣には銀色の髪をした少女と燃えるように赤い髪をした少女がいる。
相手はお互いの声が聞こえる場所にやってくると止まる。
ガドイはそれを確認するとまず最初にこちらから名乗りをあげた。
「私はジュアン帝国所属、総司令官であるガドイ!このたびの戦いそちらの奮闘まことに見事なり!しかし、この場で申し上げる!こちらの兵力は三万以上、そちらは一万以下。戦の勝敗は見るも明らか!素直に投降をすれば命まではとらないことをお約束する!返答はいかに!」
話の主導権をとるために先に声を出したガドイ。この問いかけ、降伏勧告にどう返答するか。
その答えはすぐに返ってくる。
「私は国盾の砦所属 キャサリンと申します。そしてそちらの言葉に返答をさせてもらいましょう」
一度だけ言葉を切るとキャサリンと名乗った女性は大声で宣言した。
「そちらの降伏勧告する心意気ととも痛み入る。しかし、その要求は決して受け入れることはできません!そもそも、この戦いはそちらが仕掛けてきた戦い。自国領を侵略され何もせずに降伏など考えにあらず!逆に問いかけましょう、もし我々国盾の砦がジュアン帝国領土に侵略して、勧告し兵力が少ないからと降伏するのですか?返答をしていただきたい!」
「そちらの言い分確かにもっとも。逆ならば降伏はしないであろう。しかし、貴方は言ったではないか。何もしないうちに降伏などありえないと。だが、すでに二回もの戦いを行いお互い痛みわけを行った。もう無駄な血を流すこともなかろう!」
「ならばそちらが引けばいいことを!私たちに降伏の言葉はないと思いなさい!こちらには優秀な軍師に将軍、兵士がそろっています。すでに身にしみたはず。負けることなどありえない。死ぬ覚悟があるのならばいくらでも来るが良いでしょう!すべて返り討ちにしてさしあげましょう!」
キャサリンが声を張り上げると国盾の砦陣地から歓声が上がる。
これに対してガドイも黙っているわけにはいかない。
「こちらの温情を踏みにじり、あまつさえ北の山脈を雪崩により封鎖させるなどこちらに対し経済制裁をしたに相違ない!我らはそのような脅しに決して屈せずもはや武力によって正義を振りかざそう!」
そこまで言うとガドイは踵を返し自軍のほうに帰っていく。
キャサリン達もそれに習って砦のほうに向かっていた。その途中にティアがキャサリンに話しかけた。
「それにしても勝手だよね相手も、温情とか言っていきなり攻めてきたのはあっちだし、しかも雪崩を起したのは侵略を防ぐため、元々何もしなければやらなかったのに。原因はあっちでしょ」
「しょうがないでしょティア、あのガドイという人も内心では理不尽なことを言っているのは自覚しているでしょう。それでもちゃんとこちらが出てきたことに対して対応したんだから根は高潔な人なんでしょうね」
「んー……そうなのかな」
「ま、どっちだったとしても今回は敵に変わらないんだけどね。それに、話していた重要なこともわかったし」
「重要なこと?」
「……ライのこと、何も言わなかった」
キャサリンは頷く。
「ええそうね。リエルちゃんの言っているとおり相手はライ君のことを言及してこなかった。あの場で軍師が倒れたと知っていれば揺さぶりのために言ってくるはずだもの。ということは、相手はまだ実情を知らないってわけ。間諜もほとんど排除しているしね」
「ならとりあえず最悪な事態ではないと」
「ええ、でも最悪ではないだけで不利には変わらないわ」
「でもやるしかないんだよね」
「そんな心配そうな表情をしないの。私を誰だと思ってるの?」
そこでキャサリンは不適に笑うと告げた。
「誰がライ君に戦術を教えたと思う?」
-----国盾の砦ーーーーーー
「第1~4弓兵隊、配置につきました!」
「土帝隊、水帝隊、風帝隊、炎帝隊、そしてサチさまが同行する風影隊すべて配置についたとのことです」
「騎兵隊1~2大隊も待機、後方の予備兵も順次戦闘配備が終わるとのことです」
次々と舞い込んでくる情報にキャサリンは舌戦の後作戦本部に戻り、作戦を考えていた。隣には本来後方にいるはずのフィルが補佐をしている。
「弓兵隊は砦上に配置させたと、騎兵隊はここに、後方の予備兵は十分。後は重歩兵部隊と槍兵だけど、そっちはどうなってるの?フィルちゃん」
「そこはもうすぐ準備完了するらしいです。あともう一つ、ぎりぎり間に合うかもしれないと返答がありました」
「ふぅん、でもぎりぎりってことは保険として考えて当てにはしないほうが良いわね……にしても、本当に魔法って便利よね」
キャサリンは砦の壁を見て
「普通なら二月以上は掛かる砦をたった二日で構築してしまうんだから」
「……普通なら無理ですよ、いくら魔法があったとしてもお兄ちゃんの考えがなければ到底無理でした」
「そうよねー、まさか土と水を混ぜて夜に風で冷やしそれをまたさらに土で覆う。風で空気の層を作りながら。これなら、冷たい空気をずっと中に閉じ込め水を氷にできるから、強固な守りにできるか」
「ただ、そのせいティアさんの炎が使えないんですけどね」
「しょうがないわよ。数が劣ってるんだから攻撃手段よりも今は防御手段がほしかったんだから」
キャサリンは先ほどティアにライには自分が戦術を教えたと言ったが、ただそれだけでライと勝負したら勝てる気はしない。盤上の戦略ならば勝てるかもしれない。しかし、本当の実戦応用が必要とされる場所で自分には思いつかない策をライは思いつくのだ。この砦こそいい例だろう。
しかし、今無い物ねだりをできるはずもない。この戦いに敗れれば国盾の砦として組織は崩れるのだから。
「それにしても、王国のほうはどうなってるのかしらね。約束の一月はすでに過ぎた。国王の前で約束したことを無視して応援もよこさないなんて」
「エミル王女もいるのに援軍を送らないなんて少し気になりますね。ガドリア方面が芳しくない?」
「だとしても北の貴族に召集をかけそうな気がするけどね。まあ良いわ。この戦いに勝てば国盾の砦の発言力は高まる。それを盾にすればこの組織を認めないわけにはいかないでしょ」
「お兄ちゃんが言った無謀と思える約束を果たすことになるんですからね。これで認めない貴族は逆に批判を食らうことになる。ただ問題が……」
フィルは言葉を言いよどむ。仮に勝ったとしても現状でいまひとつ問題があるのだ。
「……そうよね。フィルちゃん、ライ君の容態は?」
「はい、先ほどレーシアさんが教えてくれたことによると容態は安定しているらしいです。毒もすでに抜けているらしいので。けれど安静にしていないといけないらしいです。一応エミル様の近くの部屋にいるので周りを精鋭五百が守備を固めてます。暗殺の危険は低いかと」
そうは言うが、実はというとライにはすぐにでも起きてもらったほうが都合がいい。約束をしたのはライ自身、王女であるエミルがいたとしてもライ不在で勝った場合その功績は国盾の砦ではなく、エミル王女のもの、または最悪部下であるリエル、ティア、ラッシュにいき、国盾の組織としては見られない可能性がある。
「都合のことを考えても仕方がないか。フィルちゃんの『天使の微笑』では無理なのよね」
「あれは外傷を治すものです。確かに内臓を直す効果もありますが、強力な毒に対しては……気休め程度にしか」
「気休め程度とか言いつつ、それがなかったら危なかったとも聞いてるんだけどね」
医師によると本当に危ない状態だったらしい、無事だったという原因があるとしたらフィルの魔法としか考えられないということだった。
「もっと強力な魔法を使えればよかったんですけどね……」
「命があっただけでもいいんだから、贅沢言わないの。っと、あら、そろそろ相手が本格的に動いたわね」
眼下を見ると、先方だろうか盾を持った兵士がゆっくりと前進を始めたその後方に槍を持った敵も見える。おそらく弓を防御するためだろう。
「ならこちらも動かないとね、フィルちゃん合図をお願い」
「わかりました!」
フィルは手に持っていた赤い旗を扉の外に出てあげた。すると空に向けて一つの弓が放たれる。この合図は全軍作戦開始を告げるものだった。
ここにライ不在による第二回目の戦争が始まったのだった。
こんばんわ、今回ついに全面戦争となりました。平原と砦の戦いこれは初めて・・・ではないですが、他国との戦いとしては初めての戦いかと。
何を言ってるんでしょうね・・・w
さて、今回久しぶりに主人公不在のお話でしたね。しかも、戦争に関わる話でライがいないのは初めてではないでしょうか?
そしてキャサリン先生の実力とは?
次回をお楽しみに!
では今からまた出かけないといけないので……またお会いしましょう。




