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第百十七話 女子会3と襲撃の狼煙

お楽しみください

 エスティアに無理を言ってライが一人になった頃、ライが居なくなり見送ったエミルとユレイヌ。


 外から気配がないのを確かめるとエミルは椅子から立ち上がり当然のようにユレイヌが後を追う。二人にとってこの後どう動くか示し合わせたように。


 二人が向かった場所は陣地内で比較的大きい天幕。砦の部屋を除けば一際目立つ場所だろう。それもそのはず、ここは女性が寝泊りする場所なのだ。心配はないだろうが、やはり戦場は男所帯であり女性が居るのは珍しい。その中に同じように寝泊りさせてしまうと襲うことなくとも誘惑に駆られる可能性があるのだ。


 だからこそ、一箇所に将軍級の女性や付き人はここに集まっているわけである。


 天幕の入り口に着き無言で中に入ると、中にはティア、リエル、レーシア、キャサリン、フィル、ヴェトリアと軍に追従する女性が全員集まっていた。本来ならば、宝玉もちであるラッシュも居た方がいいだろうが、男である将軍がわざわざこの天幕に来てしまえば、ライに気づかれるかもしれない。よって、ラッシュには後で結果を告げることになっていた。


 「エミル来たんだ、ライのほうは大丈夫だったの?」


 「大丈夫だろう……といってもすべてを聞いていたのだから分かるであろう?」


 「……」


 エミルの言葉にティアは無言になってしまう。エミルは少し意地が悪かったかと思う。ティアが黙ってしまったことで、集まった全員が重苦しい沈黙にさらされてしまった。


 だからだろう、どうにか沈黙を打ち破る切欠としてユレイヌが空中に向け言葉を投げかけた。


 「ラン、それにサチ様そろそろ出てきてもよろしいですよ?」


 すると、影の中からランが出てきて、何もないところから空間が歪みサチが姿を表す。


 二人とも空気に当てられてか、それとも知った事実からか無言のままだ。


 「ふぅ……いつまでも無言で居るわけには行かないわね。エスティアいるんでしょ?さっさと出て来なさい」


 キャサリンがそういうと、エスティアが空中から姿を現した。


 「人使いが荒いわねキャサリン?」


 「重要な話ってことで集めた人がよく言うわね」


 「重要な話には違いないと思うけど」


 「……否定はできないけどね。さて、なら進行役みたいなことをやらせてもらうわよ。はっきり言って話を聞いてこれからどうするかということね。誰か意見はあるかしら?」


 話を促すようにキャサリンが言うと、まず発言したのはフィルだ。


 そんなことに気がつかずフィルは話し始めた。


 「意見の前に私からいくつか聞きたいことがあるんですが」


 「どうぞフィルちゃん」


 「エミルさんやユレイヌさん、そしてランさん、サチさん。私たちはエスティアさんから宝玉に通じた内容を聞いただけです。なのでその場の雰囲気が分かりません。詳しく教えてください」


 フィルが言っている内容は、お兄ちゃんと慕っているライが嘘を言っている可能性、何かを隠しているのか、何を意図しているのかを知るために質問したのだ。あの孤児院で出会ってから信頼も信用もしている。でも、誰か仲間のことになると平気で自己犠牲を考える。リューネリスがいい例だ。フィルには決して繰り返してほしくなかった。


 「ふむ、私から言えることは最後にユレイヌが言ったようにまだすべてを話しているわけではないと感じた。あの場で嘘は言ってはいない。それは間違いないと思う。だがなんというか、むぅー表現しにくいな。サチ、ラン、ユレイヌ、おぬしたちはどう思った?」


 「私はあまり違和感を感じませんでした。……が、一つ気になったのが途中見たライ様の表情でしょうか」


 「表情ですか?」


 「リューネリスで見たときの表情と似ているような気がするのです」


 「リューネリスの時と……」


 「んーあのーその時のことは知らないのでなんとも言えないんですけどーフィルちゃんの考えは結局どうなったのか気になるかなー」


 「あ、はいヴェトリアさん。絶対というわけではないですが、聞いた話もあわせて考えると恐らくお兄ちゃんは嘘は言っていないでしょう。が、すべてを話してないですね。エミルさまが言ったように」


 「どういうことなの?」


 レーシアが分からないという言うように質問してくる。


 「お兄ちゃんは確かに宝玉の影響を受けて感情に何かしらの変調をきたしてましたよね。……エスティアさんが素直にすべてを言ってくれればいいんですけど」


 「それはごめんなさい。確かに私はあの時の会話を宝玉を介して聞こえるようにしたわ。でもね、すべてを話すことはできないの。この行動ですらライを裏切っているのかもしれない。これ以上は私は言いたくない。でもそんな中でもやっぱりライに無理はしてほしくないから、私ができるのは話し合いや悩みの糸口を与えるだけ」


 「ですよね、ならそれでいいです。話を知らないと知るとではぜんぜん違いますから」


 「フィルの中では何かの仮説があるみたいだね」


 「はいティアさん。お兄ちゃんの表情と話から恐らくですが、話をしていない内容は将来のことです」


 「将来?」


 「お兄ちゃんは現在サチさんから譲渡された光の宝玉の影響で希望、願望、などを強く見てしまい暗い感情が見えにくくなっている状態というのは、皆さん共通の認識だと思います」


 「うんそうだよね」


 「ですが、ここで疑問が出てくるんです。光の宝玉による影響を受けた、ならば将来他の宝玉があったと仮定して譲渡を繰り返した場合たどり着く場所はなんなのかと」


 「宝玉……確か、エミルの兄弟で王族である第一王子が持ってたとか言ってたよねライが以前」


 「はい、それにおそらく今回の敵ジュアン帝国にもいると思うんです、サチさん前線にいた一人であり宝玉を持っている者としてあの氷の坂や上空に現れた霧は宝玉を持たずに扱えると思いますか?」


 問いかけられたサチは考えてから結論を出す。


 「……いいや、それはないと思われまます。もし、相手が強力な魔法を持っているのならば氷の坂を作る以外に何かしらの策を用いて攻撃してきても良かった。しかし、相手の形勢が不利になってもそのような素振りは見えませんでしたからね」


 「ということは、相手は強力な魔法を扱える人数が一人とも推測できます。ではもしこの先ジュアン帝国に勝った場合宝玉を手に入れ、力を譲渡した結果、どうなるか……その説明がお兄ちゃんからされてないんです」


 全員が静かになり、エスティアも黙るが内心少し驚いていた。確かに、よくライのことを見ていれば宝玉が手に入った契機に態度が変わっていたと気づくかもしれない。いいや、実際にライのことを良く見ていたのだろう。


 だが、だったとしてもライがまだ話さず言い渋った真実を憶測だけでこのフィルという少女はたどり着いてしまったのだ。



 エスティアが驚いている隣で、レーシアが静かに手を上げる。


 「ん?どうしましたレーシアさん」


 「ちょっと疑問なの。話を聴くと宝玉を手に入れたときに心の変調があったということはわかったの。でもなら、どうして今は光の宝玉以外の感情が表立って出てないのかわからないなの」


 「それは……私にもわかりません。環境の変化か、譲渡したときに一時的に出てくるのか、または別の要因か。エスティアさん言える範囲でいいです。宝玉は後いくつあるか言えますか?」


 「宝玉に関してのことはライに問われた以外はあまり言いたくないって言うのが本音ね。だから直接的には今言いたくないわ。でもそうね……この国のフェレス王国の国旗が手がかりになるかしら」


 「あの国旗ですか」


 するとティアが思い出したように言う。


 「あの国旗って確か回りに六つの色を枠とって中央に二つの剣、盾が一個あったっけ」


 「そうですね……なるほど、宝玉は9個ですね」


 「え、どういうことフィル?」


 「周りを囲む色は六つ、剣は二つ、盾は一つ。お兄ちゃんの力は壁を得意とする魔法。他の六つと剣二つが何を表しているのか分かりませんが、エスティアさんがここで言ったのですから、信じれば多分」


 「あらあら、ってことは今こちらにある宝玉は水、土、炎、光、風、壁?だから残りは三つ、少なくとも三回はライ君感情に変化があるってわけね?」


 「そうですキャサリン先生」


 「んーねえ、エスティア。あなた他にいえることはないの?もしもの話で言うけど、すべてが集まったとき、ライ君が命を失うってふざけた将来があるって言われたら私は……いくらあなたといっても許さないわよ?」


 問いかけるように、真剣な視線でエスティアを見るキャサリン。それが物語っていた、発言したことが決して嘘ではないことを。


 そして、それは周りにも伝染したのか空気がピリピリしたものになる。


 全員の視線を受け、言葉を発するエスティア。


 「そのことに関しては――――」


 しかし、すぐに表情を激変させとある方向へと視線を向ける。全員が不思議がり同じ方向を見るが、そこには誰もいない、天幕の布しかない。


 「……!」


 何かに気がついたかのように目を見開かせると一瞬でエスティアは姿を消した。


 全員が突然のことに呆けていると


 「ライ……!?」


 すぐさま何かを悟ったのか一番最初にリエルが風のような速さで天幕を飛び出していった。


 他の者たちもただ事ではないことを知り立ち上がる。


 そのときだった、遠くから騒ぎが聞こえしばらく近づいたとき、リエルが人目を気にせず地面に倒れているライの名前を叫んでいたのは。


 ライの倒れている近くには今は息をしていない一人の兵士が飲み物のグラスを手に持っていたのだった。



 

 ライ・ジュリアールが倒れる。



 この情報は瞬く間に自軍に伝わった。突然のことに全軍動揺するが、今は目の前にジュアン帝国がおり、ここを突破されれば国が窮地に追い込まれると知ってか、逃亡者はいなかった。


 この結果は暫定で指揮をすることになったキャサリンの存在が大きい。元々国盾の砦はキャサリンからの指示で動いてた。ライの師匠でもあるキャサリンが指示を取ることで希望がまだあると思えたのだ。


 ライが倒れたのが発覚し、軍の動揺を抑えた数刻後、先ほど会議をしていたものとダンデ、ラッシュを加え砦の参謀室へと集合していた。


 集合を呼びかけたキャサリンは集まった面々に状況を伝える。


 「昨日ライ君が倒れた原因は、毒物によるものらしいと医師は言ってきたわ」


 「ライは大丈夫なの?!」


 「そこは安心しなさいティア。一口飲んだら危なかったらしいけど、一口含んですぐに吐き出したみたいなの。そのおかげで命に別状はないらしいわ」


 命に別状がない。この言葉を聴いて、一同は少しだけ安堵する。しかし、事態は深刻であった。


 「でも、ライ君は未だに目を覚まさないわね。用いられた毒は西の砂漠地域で取れる毒ってことだけど、とても危険なものだったから命は助かっても回復には時間が掛かるようよ」


 「……犯人は誰ですかー?」


 ヴェトリアが問いかける。しかし、口調は変わらないのに殺気が隠しきれていない。もしこの場に犯人がいたら瞬殺するのであろう。


 「犯人はおそらく、ライ君の近くに倒れていた兵士だと思うわ。自分も最初から死ぬつもりだったのか毒を煽っていたようね」


 「なあ、その兵士ってのはどこ所属だったんだよ?内の軍に今更、しかもこのタイミングで仕掛けてくるなんて馬鹿はいないと思ってたんだがな」


 ラッシュは当然の疑問を告げる。


 「……言いにくいんだけど、土帝隊の一人ね」


 「な!?俺の隊の奴かよ!」


 ラッシュの衝撃は計り知れない。土帝隊は長い間ともにして来た仲間であり、古いものではフェレス王国所属時、第十三大隊からの付き合いなのだ。


 「間違いないわ。同僚という兵士から事実確認はすんでいるから。……同僚の兵士も顔を真っ青にそんな奴ではないといってたからラッシュ君が驚くのも無理はないわね。それよりも、ここで二つまずいことと、一つ疑問があるのよね。一つ目は……エスティアあなた自身から話して頂戴」


 今まで無言でいたエスティアが話を振られ話し始める。


 「皆疑問はあるでしょうね、なぜライが毒を含むことになったのか。普段ならありえないというのに」


 それは全員が思っていた。どのような間諜が来ようと見破っていたというのに、今回あっさりと策にはまってしまったことに。


 「理由は昨日の話にも出たとおり……ライは仲間のことを信頼をしてしまうのよ。どこまでも、盲目的に。今の状態ではね。信用するまでは今までどおり難しい、けど信じてしまえば疑わない」


 「なら、これから裏切りが出た場合お兄ちゃんは」


 「危ないでしょうね。一応反射や本能なのかぎりぎりで抵抗はできるのだけど、危険には変わりないわ」


 エスティアはそれだけを話すと再び沈黙してしまう。


 するとキャサリンが話を進めていく。


 「一つ目はライ君のこと、二つ目は自軍から裏切りが出たこととライ君が倒れたせいで動揺があるってことね。これはとりあえず沈静しているけど、少しでも状況が悪くなれば士気が下がること間違いなしね。精神の柱が倒れないまでも削れてしまったのだから」


 そしてと一度言葉を区切り


 「ここで疑問が一つ。この裏切りはジュアン帝国の仕業じゃないと思ってる」


 「え?ジュアン帝国じゃないの?」


 「私も最初はティアと同じように考えてたんだけど、相手に動きがないのよ。普通ならこちらに動揺が走ったとき、回復する前にすぐに攻撃すればこちらが壊滅する危険性もあったのに何もなかったってことは、ジュアン帝国の仕業ではない」


 「え、なら誰の」


 「……分からない。毒は西の毒をといっていたから普通に考えればガドリア王国の仕業。けど毒なんてどこからでも入手できる。だから分からないわ」


 毒の所在はわからず、しかもまだ軍の中に裏切り者がいるかもしれない。獅子身中の虫の状態であり、厄介な状況であった。


 しかし、そんなときでも状況は必ず動いていく。時間は流れていく。


 ライが目を覚まさないまま、二日後ついにジュアン帝国は動き出すのであった。



 

今回はあとがきはお休みさせてください。これから少し出かけるためです。

また次回お会いしましょう。

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