第百十六話 宝玉の欠陥
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突如できた砦の中に設立されたエミルの為の部屋に三人の人間と精霊が集まって真剣な空気を醸しながら、誰も発言をしない。
この部屋にいるのは王女であるエミル、メイドであるユレイヌ、軍師であるライ、ライの守護精霊であるエスティアだ。周りから見れば戦略的重要な話をしているとも見えるだろう。しかし、今日ここで集まったのは戦略よりも、ライ自身の秘密についてである。
エミルとユレイヌは静かに何も言わず待っていた。ライは宝玉を所有している人物に話さないという条件を元に秘密を打ち明けてくれると。
それからしばらく時間がたったが、ようやく気持ちの整理が決まったのかライは話始めた。
「……じゃあ説明するよ。でもその前に、ユレイヌさん、あなたも俺の宝玉の欠陥についてはエミルの説明と同じように理解していると思って良いんだね?」
「はい、主に相談を受けていましたので。そして私も疑問には思っておりましたので」
「分かりました。……でははっきり言うよ。光帝の宝玉の力を譲渡した結果、魔法を使うほどに俺は危機管理能力がなくなっていく」
「危機管理?」
エミルは予想外の言葉に驚くがすぐに言葉の重要性に気がつく。
話を聞いたユレイヌも一緒に意味が分かったのか沈黙をしている。
その様子にライは苦笑を浮かべる。本当に二人とも頭の回転がはやいなぁと思いながら。
ここでエミルが何かに気がついたように反論をする。
「いや、だが少し待つのだ。危機管理能力とお主は言ったがなぜいきなりなのだ?今までのことから心に関する感情が影響を受けていることは分かる。しかし、危機管理能力とは感情と言うより頭で考えるのもではないのか?」
そうでもないんだよ、といいつつライは説明を始めた。
「一般的にはそう考えられるかもしれない。けど、危機管理能力は逆に言えばそれだけ物事を楽観してしまうということだよ。危機管理とは副産物で今回のことに言えば楽観という言葉が当てはまるだろうね」
「そうね、もっと分かりやすく例えるなら善、悪が分からなくなってしまうのと同じ。何も知らない幼い子供が剣を渡されて、興味を持ち獣を殺してもその子供は何も感じないでしょうね。だって、悪いことなのか、いいことなのか分からないんだから。ただ興味を持ち剣で動くものを殺した。それだけね」
「……ではライ様は物事の善悪が分からず感情を無くし、どのような行き過ぎた行為でもやってしまうと?」
「ユレイヌさんそれは半分正解だよ。エスティアの例は極端な話で何も知らない子供、けど俺はこれまで色々と経験を積んできた。だから感情がなくなることはない。ただ、善と悪、行き過ぎて良いのか、悪いのか、その境界線が曖昧になるだけ。まあ、そうなると撤退時期を見誤るや大怪我をしてもまだいけると無理をしてしまうってことになるだろうね。しかも自覚なく」
そこまで話して説明を聞いていた二人は黙ってしまう。だからライは安心させるように説明する。
「だけどそれは魔法を使いすぎたときだけだよ。使いすぎなければ関係ない。だから安心してよ」
「ライ、安心というが……お主が宝玉持ちに言わないということは、他の者が使ってもダメということであろう?」
「だね、白帝の宝玉に力を集めている状態。一杯入った桶からそれぞれの宝玉に水を分けている状態だよ。もちろん宝玉は所有者の意思が必要だから本人の精神力を使うんだけどね。だからこそ、エスティアが宝玉を持っている人物に意思疎通をできるようになった」
一度だけ言葉を切ってから話す。
「だからさ、問題はないよ。話をするなと言ったのも気にして全力を出せないと思ったから」
笑みを浮かべて締めるように喋るライ。
話を聞いて安心はできる。これから強力な魔法を使わなければ大丈夫なのだ。
……っと普通ならば考えるだろう。実際エミルもユレイヌもライが嘘を言っているとは思えない。本当のことを言っていると思う。でも、その中にまだ何かを隠しているような気がしてならない。なぜそう思えるのか、それはライの今浮かべている笑みだ。
一瞬重なったのだ、リューネリスで自分たちを置いていった時最後に見た笑みに。
しかし、ライはここでエミルたちはよほど深刻に捉えてしまったのだろうと勘違いをし言葉を続ける。
「けど、もし本当に極端な例になったときは力づくにでも権力を剥奪してもらって良いよ。その頃になれば俺は簡単に力の譲渡や宝玉を渡してしまうだろうしね。楽観して」
エミルは一度だけ目を閉じ、深呼吸して言葉を紡ぐ。
「……お主の言っていることは分かった。本当にそのような状況になれば地位を剥奪して代理指揮官を立てよう」
「頼むよ。適任はキャサリン先生だと思うからあの人に頼んで」
「わかった……ただ、一つ約束するのだ」
「約束?」
「そうだ。約束の内容は魔法をあまり使わずかつ努力をするのだ」
「……」
「いいか?判ったな!」
ライは返事ができない。敵は三倍もおりいくら質がいいとしても簡単に覆すことはできない。やはり魔法の力が必要となる。
「……努力はするよ」
「うむ」
最初の少しした間にはエミルは何も言わなかった。エミル自身も魔法の力がなければ勝てないとわかっているのだ。相手も強力な魔法を所持しているから。
「なら、私からもう一つ」
「え、一つだけではないんですか?」
「あら、エミル様は良くて私はダメなんですか?そうなれば傷つきますわね。後、ライ様は忘れているかもしれませんが以前首都の城下町で約束したこと覚えておられます?」
「約束?」
「私のお願いを聴いてもらえるようにと」
「あれ?それは皆で出かけるという約束でしたよね」
「そうですね、ですがあれは私個人というか全員の為でしたよね?」
あの時は確かティアとエミルが喧嘩して収める為にユレイヌが提案してくれたのだ。
「そうだったかな」
「ええ、でも個人としては要求していないので今要求をさせていただきます」
「え、いや、でもそれはちょっと強引過ぎない」
「強引でも聞いていただきます」
「それってお願いじゃなくて脅迫では?」
「それでですね、内容はこの戦いが終わったとき宝玉についての説明を『詳しく』お願いします」
「え?」
「ライ様が嘘を言っているわけではないのはわかります。しかし、すべてではないような気もするのです」
「……なんでそう思う?」
「女の勘です」
「勘って」
「とにかく!いいですね?拒否するというならそうですね……思いっきり泣いてやります」
「は?」
「泣きます。それはもう大声で、王城で首都で町で村で、そしてすべてライ様の仕業だと」
なんだかある意味面食らってしまうライ。まばたきを何度も繰り返りエミルのほうを見ると、
「ほう、それはいいな。王女と付き人のメイドを泣かした軍師。さぞ有名になるだろうなぁ?」
目の前に不名誉という言葉つくだろう。
「そう不満そうな顔をするでない。嫌ならば約束をしてほしいのだ。ユレイヌとの約束を」
エミルとユレイヌの瞳は決して退かないという意思を持っている。これからいくら言っても意見を変えないだろうし、下手したら本当に実行されかねない。
「……わかった、戦いが終わった後にまた話し合いの為の時間をとるからそれでいい?」
ライの言葉に今度はエミルが不満そうな表情を浮かべる。ライが明確に秘密を話すとは言っていないからだ。ただ、話し合いの時間を作るとだけしか。
しかし、折り合いとしてはここが妥当だろう。次の機会に的確な質問をして聞けばいい。核心を突くことぐらいには頭が回ることを自負しているのだから。
「それでよい」
「ん、ならこれで今回は終わりだね。これから少しやることがあるから今からいくよ。また後で」
ライが椅子から立ち扉に向かっていく。その後ろをユレイヌがついていき扉を開けてくれる。そして、ライは通路に出て離れていくのであった。
その道中、今までまったくの無言だったエスティアが話しかけてきた。
「ねえ、前から疑問に思っていたのだけれどあのユレイヌって言うメイドさんは一体何者なのかしらね?」
「何者って、王女付のメイドでしょ」
「んー確かにそうなんだけど、ちょっと異常じゃないかしら」
「どこが?別にさっきも特に問題はなかったような気がするけど」
「そう、そこよ。何も問題がなく会話が成立しているところがおかしいの。一国の王女と軍師の会話よ?しかもライが隠していた宝玉の話に気づいた様子。人を見る観察眼がとても優れている。それだけではなく頭も回る。さらに、あなたがすべてを意図して話していないことにも気がついた」
「……事実は話しているよ」
「ええ、確かにあなたは嘘は言ってないわよ。『今の段階のね』」
「……」
「まあ、私も実は妥当と思うわよ?だって、もし事実を話せば絶対に止められるでしょうしね」
「ならもう何も言わないでくれ。それに解決策もある」
「……そう、でもね。もう一度だけ言っておくわよ?時間をかけすぎたらかけ過ぎただけ影響は強く残ることを覚えておいて。誰も気がついていないでしょうけど、孤児院のことを思い出してはいても、あなた所々記憶を失ったままなのよ」
エミルが言っていた、水帝の宝玉の影響により冷徹に次に土帝の宝玉の影響で記憶をといっていたが、実はまだこれでは半分正解なのだ。
「真帝の扉にあった宝玉のはめ込む位置は別に適当に配置されているわけではないの。それぞれ対になる属性がある。水と火 土と風 雷と氷。水帝の影響を受けていたのは火がなかったから。記憶を失ったのは風がなかったから。でも火と風の力を譲渡したことにより安定した。でも、無くなった訳ではない。安定しただけ。分かってるわよね?」
「分かってる。わかってるよ」
「……そう、それならいいのだけど」
それからは無言で廊下を歩く。
「っと、そういえば話が脱線したけれど結局ユレイヌは一体何者なのかしらね?」
「正直本人に聞いたほうが早いと思うよ」
「はぐらかせると思うけど」
「だろうね、後はランに聞く方法があるけど」
「無理でしょうね。まあいいわ。今度あなたがどう答えるか分からないけど、その時に交換条件として質問してみましょうか」
「自由にして。今は……ごめん少し色々と考えたいんだ。一人にしてくれるか?」
「わかったわ。何かあったら呼んで頂戴」
そういってエスティアは姿を消した。廊下を歩くのは一人、ライのみだ。
「……解決策はあるんだから大丈夫だ」
自分に言い聞かせるようにライは呟くのであった。
実はこの時知る由もなかっただろうが、陣地内の一部でとある騒ぎがあった。騒ぎと言ってもほんの数人のこと。
しかし、その数名がエスティアが途中から言葉を発せず、光が揺らぎ影が揺らいだことと関係しているとは、今のライには想像もつかなかったのであった。
こんばんわ、今日は一日速いですが少しだけ時間と創作意欲がわきましたので書いてみました。
宝玉の欠陥とのことでしたが、皆さん一つ言っておきます。
今まで「あれ、宝玉の力を使うと何かデメリットがあるんじゃないだろうか?」という風に色々とちらつかせてきましたが、実は意味があったんですよ!記憶をなくすというのも、意識を失いレーシアに助けられ風帝の宝玉の力を譲渡されることにより、収まっていました。ということなのです!
色々ともっと書きたいところですが、少しこれからとある短編?を依然お話したN様のある資料を基に気分転換で書いてみようかなと思います。ファンタジーではないような気がしますが、もし余裕があれば短編として投稿するかもです。
途中になりましたが今日はこの辺で、次回お会いしましょう!




