第百十五話 要塞と明かされる疑惑
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丸太を防壁とした、国盾の砦メンバーは作戦を終了して続々と後方に下がっていった。全体の半分以上を後方に待機させていたのは、別の作業をしてもらっていたためだ。
そして、その作業がなんなのかジュアン帝国軍師のイプスは身をもって知ることとなる。
「な、なんですかあれは……!」
イプスは目の前に色がる光景が信じられなかった。
イプス達はライ達の策にはまり約四千もの損害を出してしまった。最後、追撃に出させた騎兵と氷兵隊は両翼を攻撃したものの敵はすぐに引いたらしく、追撃を諦め味方の救助、警戒の任についていたようだ。
本当ならば、このようなところで躓いているわけにいかない。戦いはここだけではなくフェレス王国首都にまで信仰しなければならない。しかし、そうは思っても部隊を整えなければならなかった。よって、そこから二日ほど時間をとられて後方に待機していた一万と合流してから進軍をしたのであった。
そして、ようやくジュアン帝国はライ達に追いつき今目の前に陣を展開していたのだ。
でもジュアン帝国兵達は目の前の敵陣にイプスと同じ気持ちを抱いていた。
目の前に強大な砦ができていたのだ。
しかも普通の石造りによる砦ではない。砦たる材料は土、木材などでできている。丸太による防壁を作られていた時点で予想はついていたとしても、そのせいでこちらに大損害が出てしまいいい思い出はない。
対してジュアン帝国軍はようやく到着したばかり。陣地も手抜きはないとしてもあの砦に比べればおざなりとしか言いようがない。
高方式から合流したガドイ将軍も目の前の光景に唸り声を上げている。
「ふむ、そなたが苦戦したと聞いて追ったので敵はそれほどのものかとは思っていたが……どうやら相手は噂に違わず相当な実力を持っているようだ。ライ・ジュリアールか」
「……後方の陣地設営などはもういいのですか?ガドイ将軍」
「ああ、すでに構築を始めて後半刻ほどで終わるであろう。先の峡谷入り口での負傷者はすでに最後方に配置している。この二日で前線に戻れそうなのは総勢一割、四百らしい。よってわがジュアン帝国軍が保有している兵力は残り約三万というところだ」
「そうですか」
敵の陣地を見て相槌を打つ軍師にガドイは横目で見つつ問う。
「このようなことを言うのもどうかと思うが……そちは勝てると思うか?兵力差が情報どおりならばこちらの、三分の一。質では劣っていようとも数では勝っているが」
ガドイの問われてイプスは視線を前方からガドイのほうへと向けた。
「必ず勝てます……とはいえませんね」
「最初とは打って変わって弱気ではないか?」
「ええ、まあ。自分の考えならばすでに勝利して少なくともこの先にある北の大都市。エンリデンヌに向かっているはずですから。というのに現実を見ればむざむざやられ、敵から損害を与えられた。そうすればどんな人物でも弱気になります」
「そうか……だが弱気になったと指摘はしたがお前はまだ諦めていないようだ。ならばどのような策があるか聞いてみたいが?」
「はは、確かに策はありますよ。けれどこの策を果たして策といってもいいものか」
「む?どのようなものだ?」
「ここは一番分かりやすく物量で相手を押しつぶそうかと」
「数か。では数であの要塞を突破できるというのだな?」
「ええ。正確には突破というより相手を撃破するんですけどね」
「しかし、撃破には要塞が邪魔であり攻城兵器でも組み立てるか?」
「必要ありません。確かに、私は一度は負けました。ですがこの二日間何もしていなかったわけではないのです。保険として事前に仕掛けてましたが、ここで役にたつとはね」
「して保険とは?」
「スパイですよ」
イプスは敵陣の要塞を見つつガドイに伝えるのであった。
ーーーーーーー国盾の砦連合ーーーーーーーーー
「なんだかここから見るとやっぱり敵が多いっていうのが分かるわねー」
突如できた要塞ともいえる砦の屋上にいるティアがそんなことを言い始めた。ティアの言葉にライも答え返す。
「まあ敵は約三倍はいるからね。最初に四万いてそれを一万ほど削ったとしてもまだまだ多いから嫌になるけどさ」
「ですけど、お兄ちゃんはそういいますがこちらにほぼ損害を出さずに相手に万の大損害を出すなんて功績は歴代を見てもほとんど例はないですよ?」
フィルがライの言葉に励ますような言葉を言うが、ライは表情を曇らせる。
「……こういうのもなんだけどさ、人殺しを指示して成功して両手を上げて喜べはしないよ。こっちに損害を出さなかったとしても相手の一万もの兵を殺すように指示したのは俺なんだから」
ここで、近くにいるレーシアが反論した。
「それは違うと思うなの。私は大規模な戦いに参加するのは初めてだしここで一番の新参者だから偉そうなことは言えないけど、誰かを助けるための指示は人殺しではなくて、誰かを守る指示なの。私とライが一緒に旅したときも村の人を助けるために野党を懲らしめた。それと一緒のことだと思うなの」
「そういうもんかな?」
「そういうものなの」
すべてを納得したわけではないが、ライは少しだけそういう考え方もあるのかとレーシアの言葉が心に残る。
「ライ!どこにおる!」
砦上から状況を見ていたライは後ろから大声で呼ばれ何事かと振り返るとそこには、エミルがたっていた。
「そこにおったか」
「どうしたのエミル。声から急ぎみたいだけど」
「そうだ、急ぎだ。急いで私の部屋に来るのだ」
「部屋に?まあまだ相手は陣構築で猶予はあると思うし、奇襲してきても今ラッシュとランに警戒してもらってるから大丈夫だと思うけど」
「うむ。それならば問題はないな。ではしばらくしたら来るがよい」
「分かった。ということだから皆俺は少し行ってくるよ。後は頼むね」
そういうとライはエミルの後についていくように歩き始めティア達から離れていった。
しばらく歩いて、ライはエミルに話しかける。
「それにしてもエミル。ユレイヌさんはどうしたの?」
すると、なぜか少しだけむっとしたエミルは前を見ながら答える。
「……ユレイヌには少し頼みごとをしている。だから私がお前のところまで出向いたのだ」
「ふぅん」
「それよりもだ、エスティアは今おるのか?」
「エスティア?」
「うむ、ライにも用事があるがエスティアにも聞いてもらったほうが良いと思ってな」
エスティアに聞いてもらったほうが良いというほどの要件とは。普通のときに聞いたならば嫌な予感はしなかったかもしれない。しかし、こんな時にエスティアがいたほうが良いという言葉に少しだけ嫌な予感がした。
「……いるわよ」
すると、ライが答えない代わりにエスティアが答えた。音もなく姿を現したのだ。
「ならちょうど良いな。っとついたな」
目的の場所に着いたエミルは簡易の扉を開き中に入る。約二日で作り上げた砦はただ巨大な壁と上る場所があるだけで、居住としては機能していない。しかし、作戦室などは必要なために簡単な部屋の確保はしていたのだ。扉の部屋は作戦室と女王であるエミルの部屋にしかなかった。盗聴防止の意味もある。
中に通されたライは進められるままに椅子に座り、エミルも座る。ずっと指示や作戦の立案をするために立ちっ放しだったため、椅子に座るという行為にすごしだけ安堵が出てきた。
「あら、どうやら私よりもお早くお戻りになられていたのですね?」
すると、扉を開けてエミルのメイドであるユレイヌが中に入ってきた。
「砦の上にいたらしくてな。予想通りだったのだ」
「そうだったんですね。なら早く発見できただけ時間の猶予ができたと喜ぶべきでしょうね」
二人の中では共通の意識があるらしい。しかしライには分からず首を傾げるだけである。
「あらあら、エミル様、どうやらライ様が説明を求められていらっしゃるようですよ?」
「うむ、もちろんこれからする。ライ、お主に今回来てもらったのは一つだけ問いかけたいことがあるのだ」
「聞きたいこと?もしかして何か作戦に不備があった?」
峡谷出口前に立てた作戦に何か不備があったのか、これから起こる戦いに何か問題があるのかと不安になったライだったが、エミルは首を横に振る。
「いいや、軍略については私よりお主のほうがわかっておるだろう。かといって戦いに無関係ではないがな」
「はっきり言ってくれないと分からないよ」
「……なら聞こう。絶対に答えるのだぞ?」
「できる限り」
エミルはそこで言葉を途切れさせ、深呼吸を一度だけするとライに質問した。
「ライ、お主宝玉に関して何を隠している?」
質問されたライは心臓が飛び出るほど一瞬で緊張状態になる。二日前死線を潜り抜けてきたが、その時よりも心臓の音は早意だろう。
そして、なぜエスティアがいるかを聞いたのかもわかった。宝玉の話はすでにしていた。ならば、宝玉の精霊であるエスティアがいたほうがいいだろう。
動揺をしたライ。だが、できるだけ表情に出さずに答える。
「宝玉のことで隠してるって何を?別に何も隠していないけど」
「ほう」
エミルの目が細く、真剣なものとなっていく。
「なるほど、宝玉のことに関して何も隠していないと」
「もちろん。もしかして、サチの宝玉のことを言ってるの?それならすでに話したと思うけど」
「その話は確かに聞いておる。……それ以外には何もないのだな?」
「ないよ」
目線を逸らさず二つの目がライを貫いていた。言葉では質問という態度をとっているエミル。しかし、目は何かの確証があって問い詰めているような感じである。
「ライ、お主がそこまで言うのならよいだろう」
その言葉を聴いて、とりあえずは諦めてくれたと思ったライ。だがライは幼馴染であり王女であるエミルのことを少しだけ見くびっていた。
「ならば、本当のことを言わせてやる。王女としてではなく、一人の幼馴染として」
どうやら何が何でも聞き出す気だ。
「そういえば、ライ。お主は最近気性が荒くないようだがどうしたのだ?」
「いや、気性が荒いって」
「ん?荒かっただろう?グリム伯と戦ったときにな」
「……」
「ユレイヌにはガリアント平原までのことを兵士達に聞いてもらっていたのだ。その時に一人が言っておった。グリム伯爵を処刑する前、見る目はとても冷たく怖かったと。その後は、レイン・ローレンス伯爵との戦いでは反乱を起したというのに処刑することはなかったというではないか。ユレイヌそうであろう?」
「はい、確かに時々気性が荒くなることはありました。ガリアント平原の戦いの前、間諜の件でも例があります」
「だろうな。だがここからだ問題は。お主は水の魔法を使うようになり冷徹になった。土の魔法を使うようになり記憶を失った。炎の宝玉を使えるようになり感情が大きくなり一人でリューネリスより消えた。風の魔法を使えるようになり、レーシアとともに旅をして奔放となった。……では光の魔法が使えるようになったお主は次に何の障害がでるのだ?」
「別に問題」
「ないとかは言わせぬぞ?何も問題なければ強力な魔法を使ってすぐにでもジュアン帝国を追い払えばいい。ガリアント平原で見た魔法はそれほどの力があるだろう。しかも、それぞれの宝玉をティア達に渡しておるのだ。力を譲渡することができるのであろう?ならばそれをすればもっと楽になるだろう。しかし、それをしない。なら何かの不都合があるはず」
ライはここまで言われても答えない。いや、答えたくない。
無言を貫くライからエミルは視線をエスティアのほうに移す。
「エスティア、お主も事情は知っておるのだろう?教えるのだ」
問いかけられたエスティアは一度だけライのほうを見る。そこで少しだけ考えて、
「……いいわ。話してあげる」
「エスティア!」
「ライ、ここまで事情を把握されたらばれるのも時間の問題。それにエミルは宝玉を持っていないわ。なら情報が伝わらなければ問題はない」
「だけど」
「いいじゃない。数人あなたの事情を知ってくれている人がいても。私としては無茶をしたとき、しかってくれる仲間がいてくれると有難いのだけど」
「……」
空気が重たくならないようにか冗談をエスティアは言いつつ少しだけ微笑む。
「ライ、ここまで言ってもだめなのか?」
何かにすがるような、心配するような、不安のような。沢山の感情を混ぜた視線を向けてくるエミル。その視線を受けてライは。
「……わかった。でも条件が一つ。誰にも言わないでほしい。特に宝玉を持っている人物には」
「私からは言わないように誓おう。ユレイヌお主もよいな?」
「かしこまりました」
二人の了承を得て、ライは話し始める。宝玉のメリットと……デメリットを。
この時、地面にある影が揺れ、空間が少しだけ歪んだのには誰も気がついてはいなかったのであった。
こんばんわ、少し間が空いてしまい申し訳ありません。ですが何とか日曜日に更新できるということで安心しております。
さて、お話の内容についていきますが。ついにといいますか、ライの宝玉の秘密が一部わかるときがきました。前まで記憶喪失のお話をしましたがそれ以来何もなく、読者の方にはあれ、記憶がなくなるってのは?と疑問をもたれた方もおられるでしょう。ですが、実は意味があったのです。その契機はライが宝玉の力を白帝の宝玉に移したとき。これはエミルが言ってましたね。
では、冷徹、記憶、情熱、奔放と来て光は何の影響があるのでしょうか。
次回はそのお話になると思います。次回をお楽しみ!
……と普通ならばここで終わるんですが、少しだけ物語と関係ない話を。
私 とある動画サイトの生放送を見に行ったんですがそこで主の方とお話をして、「今度後書きに登場させます!」という約束をしました。さすがに名前を後悔するのはどうかと思いますのでNさんと表記させてもらいます。
Nさんとは最近お話したのですが、読者としてみていただき感想ももらっておりとても有難く思っております!……すみません。なんと書けば良いのかこの後分からないので強引に締めます!Nさん約束は守ったぞー!
ではまた次回お会いしましょう!




