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第百十三話 国盾の砦連合 対 ジュアン帝国  初動

お楽しみください

 ついに二つの軍は動き出し、戦いの火蓋は切って落とされるのであった。


 まず動いたのは、ジュアン帝国軍。その行動とは、何本かの丸太を横に並べ、それを縄で連結させたものを崖上で押すというものだった。押された丸太は普通ならば重力によって落ちるのが自然の摂理である。そして、がけ下には当然人はいない。敵兵は崖ではなくその先の平原にいるのだ。


 でもかまわず押し出す。何組もの丸太を。


 それからついに、丸太が半分ほど空中に姿をさらしたとき、指令を受けた三千の兵士を束ねる各隊長は指示を飛ばした。

 

 「よし!今から丸太に乗るんだ!速くしろ!これに成功すれば敵は一網打尽だ!そうすればあのライ・ジュリアールを破ったとして、俺らは最大の功労者になり安泰だぞ!」


 「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」


 大地を揺れんばかりの声と共に丸太の上に載り、人の重みを受けて少しずつ傾き始め、丸太は地面に落ちて


 パキンッ


 ……いくはずだった。しかしそうはならない。突如何かがひび割れたような音がしたと同時に、丸太は、空中を斜めに滑り始めたのだ。フェレス王国軍の手前を目指して。


 まだ半信半疑で、自分たちでももしかしたら落ちるのではないかと考えていた兵士だったが、策が成功すると、士気は向上する。


 丸太が滑り始めると、後方でも手品のような策に驚き、そして同時に士気があがり、待機していた弓兵隊が行動を開始した。


 「前の奴らがやってくれたぞ!なら今度は俺らの番だ!前のやつらを少しでも多く援護してやるぞ!掃射開始」


 すると、ビュンという弓の弦が鳴り数千という矢が空中に飛び、敵兵を貫かんと使命を帯びて重力に引かれていく。崖上からがけ下に距離があるといっても、飛距離と威力は上がり、敵に被害を与えることは確実であった。


 しかし


 「……なんだ?」


 状況を見ていた、ジュアン帝国軍軍師のイプスは目の前の光景に眉をゆがませる。


 現在自分の指示通りに丸太は徐々に進んでいる。妹のマリーの魔法により、崖から、敵陣まで氷の道を作り強襲するのが最初の策だったのだ。それは問題ない。だが、問題なのは後から援護射撃した弓矢だ。


 どうしたことか、矢が空中で弾かれたのだ。数百ではなく、『数千』という矢をいとも簡単に。


 「相手の魔法ですか……」


 こちらの弓矢はどうやら効かないらしい。


 そう考えていたところに今度は、フェレス側から矢が飛ばされた。こちらはおそらくすべる丸太に乗っていた。敵兵を倒すために放たれたのだろうと考えていたが、その考えもすぐに吹き飛ばされる。


 「ぐぁ!?」


 崖上の兵士からそのような声が上がる。相手の矢は崖上に届いたのだ。普通ならありえない。でもこのことには、イプスは対策をしていた。

 

 「予定通り、大盾を前に!相手は風の魔法を使い長距離を飛ばしてくる!ですが、狙いを正確にできるわけではありません!防ぐことはできる!弓兵隊の半分は掃射をやめてください、矢を後に温存します第一陣丸太部隊が戦闘を開始したら、第二陣の丸太を流してください!」


 命令を近くで効いていた伝令は数人が飛ぶように飛び出していく。迅速に伝達することこそ、勝敗に大きく左右するということは、イプスは十分承知している。


  ここで、二人だけ立ち去らなかった伝令がいた。


 イプスはその二人の伝令に向かって指示をする。


 「例の部隊にはまだ待機するように。相手の出方が分からない以上、早々に動けない。それと、貴方のほうも同じく待機。時期は追って知らせると」


 「「はっ!」」


 二人の伝令もそれを聞いて飛び出していく。


 伝令が飛び出た後、残ったのはイプスを守る兵士と、もっと外に何千という策を要するための兵士だった。


 「さて、ライ軍師?矢を防ぐ魔法があることには驚きましたが、丸太を利用した策はどうやって対処するんでしょうか。もしや、陣地前にある丸太に何かあるんですかね?」


 イプスは一人呟きながらあと少しで接触する前線を見ていた。後方の第二陣五千の兵士も順次、乗り込んでいる。


 このほかにも数個策は用意していた。イプスにとって万全であった。


 ただ、イプスは一つだけ知らないことがある。知らないからといって、戦況が左右されることはないだろうが、重要なことが一つ。ガドイ将軍に伝えた、ライに強力な魔法をたった一回だけだが、ぶつけることができるということ。


 だが、知らないことを、ライの姿がどういうものか知らないということが、この後どうなるのか。しかも、実はすでにイプスから見えている場所にいるとは思っていなかったのであった。




 -----国盾の砦 サイドーーーーーーーー



 国盾の砦、最前線。氷壁と砦傭兵団と共に、崖上から丸太で滑り降りてくるのを見ていたダンデは、感心したような声を上げていた。


 「いやー、ライ軍師あんたの言っていたことが本当になったみたいだな。敵さんが丸太に乗って大勢乗ってきてやがる」


 「……」


 「ダンデ団長といったかしら、少しライに話しかけるのはやめてもらえるかしら?ライの集中が解けることは同時に敵からの矢を多く受けることになるのだから」


 ライのそばにいたエスティアの言葉を聴いて、ダンデは首をすくめた。


 「す、すまない。あまりに言っていた通りにことが進んでたので驚いたんだ。悪気はない」


 「もう、団長ーライ様の邪魔はしちゃだめですよ?」


 ヴェトリアにまで注意されてダンデはばつが悪そうな表情を見せた。


 「……エスティア、そろそろ次の行動に移るよ。さっきも言ったとおり皆には指示を出した。でも急造の仕掛けでは第一陣は防げても第二陣は無理。サチとランに指示を、第二陣が丸太で滑り始める前に、魔法を使用するようにと」


 「わかったわ」


 するとエスティアは目を閉じる。実はサチの宝玉の力を得たエスティアは一つの力を使えるようになっていた。それは、宝玉同士で連絡がとりあえること。宝玉所持者に距離が開いていても意思疎通が取れるのだ。でも、これは万能というわけでもない。今回の戦場のような距離なら問題ないが、町と町間で取り合えることはできないし、力を引き継いだ宝玉以外には声は届かないという制約もある。だが、意思疎通が取れるという点で、とても重要な能力といえるであろう。


 エスティアは少ししてから目を開けた。


 「サチは了承らしいわ。隣にいるランも了解って」


 「ありがとう。なら後は第一陣を相手しようか。ダンデ団長、頼んで良いですか?」


 「おう!全力をだすぜ!それに祝勝会には軍師のおごりだってんだからな!」


 「ええ、いいですよ。……ではいきましょう!」


 「よっしゃ!お前ら行くぞ!」


 「「「「「「おお!」」」」」


 




 ライは白帝の壁を解除する。すぐ目の前に丸太に乗った敵兵が来ているなら、解除しても相手の矢は前線には飛ばしてこないはず。飛ばしてきたら味方を巻き込む可能性があるからだ。 


そして、ついにジュアン帝国軍はライ達が並列に並べられた丸太に激突し、敵陣に乗り込もうとした。


 でも、ここでジュアン帝国はライ達が並べたように『見える』丸太が、普通のものでないことに気がつく。


 「これは一体なんだって言うんだよ!」


 先頭にいたジュアン帝国兵が声を上げる。目の前には丸太が横に並列されていただけではないのだ。並列されたものが、何本も縦に固定され一種の壁になっている。しかもその丸太の配置は正確には横ではない。V字型に配置されている。倒そうとしても、頑丈に作られているのかびくともしない。無理すれば壁を乗り越えそうではあるが、ジュアン帝国兵士達の視線は、V字型の根元、二つの壁の終着点に向けられた。


 そこには、両腕を銀色のガントレッドをつけた青年がいたのだ。鎧を来ているわけでもなく、戦場の最前線にいるにはあまりに装備が心もとない。

 

 ならば、ジュアン帝国の兵士達が次に起す行動は決まるであろう。


 「あそこを確保するぞ!防衛は薄いようだ!」


 隊長格の兵士が号令すると、兵士が青年の場所に殺到した。


 「死ねや!」


 戦場の雰囲気に飲まれ、殺気を撒き散らせながら武器を掲げ突き刺そうと腕を繰り出した兵士。だが


 「死ぬのは困るんだ。この後奢ることになっているんだ」


 青年がそういうと、突如目の前に炎の壁が出現した。


 「うわぁ!」「オイ何止まってるんだ!速く進め!」「馬鹿やろう!あれは魔法だ!あいつは魔法を使うぞ!」


 武器を繰り出した戦闘の兵士は、突如現れた炎を避けようとした。でも運が悪いことに、後ろにも大勢の兵士達が殺到していた。勢いをとめることはできず、倒れこんでしまう。


 「ぐぁ!?」「熱い熱い熱い!」「ぐぎゃああ!」


 倒れこんだ先頭の兵士はまともに炎の壁に体を飛び込ませることになり、火達磨になってしまった。


 このことでようやく目の前にいる青年は普通の人間ではないとジュアン帝国軍は認識する。それどころか、強力な魔法を使い、脅威ということを。


 その様子を見ていた青年、ライは立ち上がる炎を見つつ、隣にいるダンデに指示をした。


 「ダンデ団長、指示を」


 「おう!全員炎が消えた後この場所を死守するぞ!しんどいだろうが、ここで防げばそれだけ戦局は有利になるんだ、きばれよ!」


 ダンデの言葉に返事はない。しかし、みなぎる士気の高さがすでに言葉を必要としていない。


 「ライ。どうやら第二陣が向かってきているようよ」


 「サチ達はやってくれた?」


 「大丈夫。魔法を使用してくれたみたいね」


 エスティアが、サチ達の状況を伝えてくれる。


 ライならば、白帝の壁を入り口に張るだけで、実は敵の侵入を防ぐことは簡単なことである。でもならなぜそうしなかったのか。それは派手な魔法を使い、前のほうに視線を向けさせ後方へと注意を向けないため。その分攻撃が熾烈(しれつ)になることが予想される。


 「じゃあ、しばらくがんばりますか」


 「ええ、がんばって頂戴ね。目標は死者ゼロね?」


 「……それが一番良いだろうね」


 その言葉を終わりとして炎の壁は消え、ライと氷壁の砦はジュアン帝国との戦闘を開始した。


 ーーーーーージュアン帝国 サイドーーーーーーー


 

 戦場の様子を見ていたイプスは舌打ちした。どうやら、あの軍師はこちらが氷を利用して坂を滑っていくことを予想していたようだ。終着点は偶然だろうが、ちょうど丸太の壁が配置される場所に兵士達は降り立つことになってしまった。


 (だがどうして予想ができた?マリーは氷の巫女として名はあるだろうが、どの程度のことができるとは知られていない。まさか丸太と人が乗っても割れない丈夫な氷を形成できるとは考えられないはずだ。なのに予想はできた)


 「……まさか、相手も似たような力を持つと?」


 イプスにとってこれはまだ想像にすぎない。ガリアント平原での戦いで、強大な炎の魔法と、強大な水の魔法をぶつけ合ったという話は聞いていたが、イプスは誇張されたものだろうと考えていたのだ。


 目の前で戦闘を開始した様子をもう一度見て考え直し首を横に振る。


 「例え敵に強力な魔法を使う相手がいたとしても、すでに戦いは始まったんだ。やるべきことはあの陣を突破すること」


 そう考え、第二陣が向かった先を見る。少し前に第二陣は氷の壁を滑り始めていた。最初の炎と丸太があったとしてもこの第二陣であの陣地を粉砕できるであろう。第一陣三千人、第二陣六千人、そして第三陣二千人。これにより、最初の策は完成する。


 だが、このイプスが考えていた策は思わぬ悲鳴とともに綻びが生じる。


 ガコンッ


 最初に聞こえたのは何か重量があるものに、木材があたった音だった。しかもその音は通常なってはならない場所でなった。


 マリーが作った魔法の氷の坂上で聞こえてきたのだ。


 そして次の瞬間、数百人が乗っていた、連結された丸太が縄を切られ、分解されてしまった。


 それはまさに地獄絵図だ。丸太が分解されて投げ出された兵士達。床は氷のため転げ落ちるしかないが、そこに分解された丸太が襲い掛かり、それだけではなく後ろから仲間の連結された丸太が迫る。人間が押しつぶすように迫ってくる。


 「た、助けてくれ!」「来るな、来るなー!」「止まれ!」


 しかし、摩擦がない氷の上なのだから転げ落ちるしかない。その大半は終着点につくまでに重傷、死亡する。


 でも運がいい者もいたにはいた。偶然外にはじき出され、丸太の進行方向にいなかった者だ。運がいいものは本当に感謝しただろう。地面にある土が、足に感じる感触が。


 そして絶望しただろう。目の前に千の国盾の砦兵士がいたのだから。


 「ひっ!?」


 運が良かった兵士はそのまま最後まで悲鳴を上げれずに、目の前にいた兵士から放たれた弓によって絶命した。


 ーーーーーーー国盾の砦 サイドーーーーーーー


 「どうやらランも成功したようよ」


 目の前に武器を掲げてきた敵に、ライは土帝の力を利用して岩の槍を突き刺していたところであった。 


 「やっぱりできたんだね。ランの力は確かに宝玉には及ばないかもしれないけど、強力なものなんだから」


 「けど、普通は考えないわよ?相性が悪い光の宝玉を、あのように利用するなんて」


 「別に考えられることだと思うけど」


 「凡人には無理よ」


 なんだか感心されているのか呆れているのか、よくわからない視線で言ってくる。


 「でも、まあ、予想通りに防ぐことは無理そうね」


 「だろうね。敵はどのくらいの兵士を持ってきていると思う?」


 「多分、一万くらいかしら?左右に展開している千はうまくサチとランが隠してくれているから、徐々に減らしてくれているみたいだけど」


 「わかった、ここでの戦いはもって二刻かな。それが終わったら、予定通りに開始するように全員に伝えて。少なくとも五千以上は削りたいから」


 「わかったわ。でもライ、何度も忠告するけど大掛かりな魔法は使ってはダメよ?それだけ負担が掛かるのだから。相棒がここで倒れるのは許さないわ」


 「了解、なら頼んだよ」


 ライはエスティアの問いに返事をしつつ、目の前を向いて敵を一人でも多く倒し、一人も後方に抜かせないように気を配りながら対峙し始めたのであった。





簡易戦略図


    [弓兵]▼              [弓兵]▼

  [歩兵]▼[歩兵]▼    [騎兵]▼   [歩兵]▼[歩兵]▼

++++++++++++      +++++++++++++ 

    |     |           |    |

    |[歩兵]▼|           |[歩兵]▼|

    |     |           |    |     

    |[歩兵]▼|           |[歩兵]▼|

 \___                        ________/ 

△[???]→\____             ______/←[???]△   

          \___     ______/        

               \   /            

              [ライ]+[氷壁]△            

                [弓兵]△             


      ▼: ジュアン帝国軍 部隊方向 

      △:国盾の砦

      ×:壊滅、敗走

      +: 障害物 (岩や森、壁など)

      |:氷の道

      -:丸太の壁

     → ←:進行方向

      \/¥:丸太の壁

こんにちは、さて、ついに戦いが始まりました。最初のテーマは初動、大きな始まりの前にお互いが用意した策の探りあいになっております。

最後に自分なりに簡易でありますが、状況を記した図?を作成してみました。ちょっと、違うようなところもあるような?と思いますが、参考になればと。???はまだどの部隊なのか明かしません!これも試験的なものなのでご了承ください。

次回はどうなることやら、というところでまた次回お会いしましょう。ではまた。

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