第百十二話 国盾の砦連合 対 ジュアン帝国
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太陽が昇りフェレス王国北国境に当たるオルガ山脈の出口、峡谷前では二つの軍が展開していた。
一つの軍勢はフェレス王国軍であり、正確にはフェレス王国軍ではない軍隊、国盾の砦。兵力約一万
峡谷上に展開しているもう一つは北からの侵略者であり、領土と利権を求めてやってきた軍隊、ジュアン帝国軍。兵力約三万。
兵力だけを見ればジュアン帝国に有利、楽観することができるであろう。しかし、フェレス王国には英雄視される人物が数多くいる。
赤い悪魔、ティア 銀色の死神 リエル 屈強の戦士 ラッシュ。他にも、氷壁の砦団長 ダンテ アスティール王国第一の騎士 サチ 影の隠密使い ラン。初陣になるが、風使いレーシア。後方では回復魔法、後方支援を得意とするキャサリン、フィル。
そして、この兵士たち、仲間を率いる代表者二人の内一人はフェレス王国 第一王女 エミル。護衛にはユレイヌもついている。
そしてもう一人、フェレス王国では英雄視され、ジュアン帝国では最大の障害とも言われてもいる、軍師、ライ・ジュリアール。
ジュアン帝国にとって、決して楽観視できるものではない。すでに一万の兵力がこれまでに戦闘不能、または負傷しているのだ。
対してジュアン帝国が率いる人物はジュアン帝国軍 総司令官 ガドイ・ソルバ 控える軍師 イプス。そして、ジュアン帝国最大戦力である氷の巫女 マリー。
質で勝る国盾の砦 対 数で勝るジュアン帝国軍
歴史に残るであろう一つの戦いがあと少しで始まろうとしていた。
ーーーーー ジュアン帝国 視点 ------
現在ジュアン帝国軍の軍師であるイプスは太陽が昇った時刻に自ら指揮をとるため、前線へとやってきていた。やはり今この時まで胸の中にわだかまるもやもやは消えず、不測の事態に対応するためだ。
周りには徹夜作業で疲れている兵士たち目をぎらつかせて、眼下にいる敵兵を睨みつけている。一度は士気が下がることも気にしたが、どうやら疲れよりも戦前の空気に感化されたのか、士気は逆に高いようだ。
少しだけ安心したイプスは、だが、しかし。すぐに表情を引き締める。目の前におかしな光景が広がっているからだ。
(あれはなんなんでしょうかねぇ)
イプスがいうあれというのは、昨日までの報告にはなかったものだ。
だが、それはイプスが感じたいように何の意味があるのか分からない。それは周囲でも同じようで、色々と憶測をしているものがほとんどであった。
(敵には多くの魔法手段があることは確か、ならば何かしらがあると考えるべきか。それとも、こう思わせるための無形の計とでも言うのだろうか?)
目の前にあるのは、木を切り倒し丸太をそのまま横に並べただけの状態であった。あれならば丸太があるため騎兵を運用できず、邪魔できるだろうが、それは逆に相手も運用できないということ。何の意味がある?というより、この地形から効果は薄いというのに……。
「……考えても詮無きことですかね。ライ軍師。あなたが何を考えているか分かりませんが、まずは探りあいをしますか。伝令、昨晩伝えたように行動を開始してください。合図があったら三千の兵で攻撃を開始、同時に後方から弓による援護射撃を。峡谷下に展開させている千の騎兵はまだ待機を」
「了解しました!」
イプスが伝令に命令を伝えると、その伝令はすぐに走り去ってしまう。
それを見送ってからイプスは空を見上げた。
「……今日は晴天ですね」
雲ひとつない晴天。どこまでも続く青だった。
ーーーー 国盾の砦 視点 ーーーーー
「伝令!前線の物見から相手に動きあり!とのことです!」
国盾の砦本陣にいたエミルとライの所にこのような報告がやってきたのは太陽が、東から顔を見せたあたりであった。時刻にしてまだ朝食を食べるぐらいの時間であろう。
「わかった、各隊長に伝令を頼むよ。すべて予定通りにと、何があっても動揺しないように。いいね?」
「分かりました!」
そういって、伝令はすぐさま走り去っていてしまった。
本陣には様々な動きがあるからか、エミルとユレイヌ、ライしかいなかった。
「……さてと、ならそろそろ行動しようかな」
ライはゆっくりと椅子から腰を上げて、立ち上がる。
「ま、待つのだライ」
しかし、それをとめる人物がいた。
「どうしたの?エミル」
「いや、その。本当にそなたはこの策をやる気なのか?」
「やる気も何も、そのことは何回も説明したでしょ?」
ちなみに何回も説明した理由として、エミルを含めた数人から猛反発を受けたからだ。結局は折れてもらったけど。
「そうなのだが、だが、やはりどう考えても」
「危険?」
「そうじゃ!これはお主にとって死に行くものと同じではないか!」
「それは前線の兵士も同じだよ。確かに俺は英雄とか軍師とか言われるけど、少し前までは平民だったんだ。だから役職云々の前に、危険には誰にでもまとわりつくものなんだ」
「じゃが!」
「ああ、危険な確率を上げることはないというんだろうけど、ごめん、今まで俺は後ろで指示した瞬間数百、数千の兵士を死なせた。勝ったとしてそれは責任として存在する。だから時には自分を危険のみにおいて、できることをやらないと。ね?」
「……」
エミルは何も言わない。天幕内には兵士はいないといっても外にはいるのだ。ここで王女であるエミルが何かを大声で言えば、同様が走るだろう。兵士たちに。だから言わない。
そんなエミルにライは話しかける。
「だからそんなに深刻そうな顔をしないでよ。確かに危険にはなるけど、死ぬつもりはないから」
そこまで言っても、何もいえないエミルに苦笑しつつ、ライは側に仕えるユレイヌに視線を向けた。すると、ユレイヌが口を開き
「私からも色々と文句やお小言を言いたいです。約束を反故したり、私たちを置き去りにしたり、裏切ったりと色々とやってくれた貴方には」
「え、いや。それはなんというか」
「ですから、必ず戻ってきてくださいね?」
「んー……そのつもりだよ。ユレイヌさん、貴方が何者でどこでどういう訓練を受けたのかはここでは聞きませんけど……エミルをお願いしますね」
突然ライが言ったことに驚いたユレイヌだったが、ユレイヌは頷き微笑を浮かべる。
「分かりました。お任せください」
「ライ軍師!すべての伝令を伝えました!所定の位置にご足労ください!」
ユレイヌが承諾したときと同時に外から呼びに来た伝令がやってきた。
「わかった、すぐに行く!……ってことだからもう行くよ。一応護衛として五百の兵力を置いてく。精鋭だから安心してくれ。じゃあ」
そういって、ライは天幕の外に出て行った。
すると天幕内にはユレイヌとエミルの二人となる。
「……エミル様、ライ様は行ってしまいましたが、何も言わなくてよろしかったのですか?」
俯きながら無言を貫いているエミルにユレイヌは語りかけると、エミルは顔を上げた。
「いいのだ、それにライは言っていたではないか。死ぬつもりはないと。だから信じよう。今私にできることは王女として振舞うことだけなのだから」
「そうですか。……なら何か飲み物を取ってきましょう。それと一つだけ。その表情を帰ってくるまでに直さないと、王女とは思えませんからね?」
そういって、ユレイヌは何も言わずに飲み物を用意していた。その間、エミルは一人戦っていたのだった。リューネリスのときと同じようにライがまたいなくなるという不安を押し殺すために。
場所を少し離れ、ライは現在前線のほうに足を運んでいた。
ジュアン帝国が何をしているのかを見るため、そして策を利用するためだ。
「ん、ライ軍師も着たようだな。あんたの言うとおり、崖上で動き始めたようだ。だが、本当にこの後も言ったとおりになるのか?」
話しかけてきたのは、傭兵部隊、氷壁の砦団長 ダンデであった。
「もーう!団長ー!ライ様が考えになったことをお疑いになってはだめですよー!」
隣には、ライに対して好意?を抱いているらしい氷壁の砦所属のヴェトリアがいた。
二人を見て、ライはダンデの問いに頷きながら答える。
「おそらく。本当は自分でもおかしいと思うんですけどね。それよりも良かったんですか?俺についてくるということはここが死地になることは高いんですよ?」
「へっ!何まだまだ青い小僧が俺に説教をしてやがるんだ。子供は大人しく大人に守られとけって言うんだよ。だからお前が心配することはねえってことだ。それによ、特に二人の団員が立候補しちまうんだからしょうがねえだろ?」
「二人?」
「おう、一人は予想がつくだろうが、ここにいるヴェトリアだ」
「ライ様のためなら、どこまでもいき」
「おっと、途中までにしとけよヴェトリア。今は戦時なんだ。他のライバルがいない状態で有利になるのは公平ではないぞっと。あと一人は、ジェイクだ。ほら、この前の交流戦で集団戦をしたとき弓を扱った若いのがいただろう?っと、ジェイク!少しこっちに来てくれ!」
ダンデがジェイクと呼ばれた弓使いを呼ぶと、ジェイクはすぐにやってきた。
「こいつのことだ」
「ああ、確かに知ってます。あの時はリエルたちにやられてしまったけど、弓の技量はすごいと思います。普通の戦いならば隊長クラスにいくほどでしょうね」
ライが評価をしていると、評価されたジェイクは苦笑した。
「ライ軍師、私は一応千人規模の隊長をしていたこともあるんですよ?」
「え?なら、なぜ傭兵に?」
「私は一度、貴方に直接ではないが戦ったことがあるんです。場所はエンリデンヌ郊外、私は以前エンリデンヌという町を占領するために弓兵千人を率いておりました。ですがその時、やはりエンリデンヌを攻める理由が分からず、前線壊滅時に私は命令しました。全員逃げろと。そうしたら、私は敵前逃亡扱い。それから放浪の身になったんですよ。幸い結婚をしていませんでしたからね」
「それは……」
「いえ、別に責めてはいないんです。逆に、感謝もしてるんですよ?私も常々感じていましたから。フェレス王国の貴族、上層部が腐敗していると。数人はすばらしい人がいるのも知っていますが。それでもね。だから、その時の、私に別の生き方を教えてくださった貴方に恩返ししたいくらいです」
「でも死地なのは変わらない」
「確かにそうですね。けど良く考えてくださいよ?私が攻めたエンリデンヌや今回のことも、他に聞いた戦いも有利な戦いはあったんですか?どれも死地に近い状況だったはずです。今回はそれが、国内から国外に変わっただけですよ」
そこまで言われて、ライは先ほどエミルとのやり取りを思い出した。死地ではあるが、死ぬつもりではないから安心しろといっていたことを。
自分で先ほど言っていたことを忘れているとは何をしているんだろうか。
「あはは、そうですね。なら今回もさっさと帰ってもらって祝杯でも挙げましょうか。っと、こういうことを言うのは縁起がわるいですか?」
「いえいえ、別にいいではないですか。みんな!この戦いに勝てばライ軍師が傭兵団皆におごってくれるそうだぞ!」
「「「「「おおおお!」」」」」
「え、いや、ちょっと!ジャックさん!」
ジャックはニヤッと笑いつつ。
「全員に奢らないといけないので、死ぬなんて許しませんからね?後エンリデンヌのときのことをこれで貸し借りなしということで」
「……はぁ、ああ。わかったよ。元々こんな戦い終わったら宴会でもしないといけないとは思ってたから。約束する!奢ってやるよ!」
「「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」」
傭兵団に向けて言うと、一際大きな歓声となった。
それは軍に大きな効果をもたらしていた。それは、これからの作戦を聞いているものたちにとって、ライ達は死ぬ確率が高い役目。なのに、あのように笑えるのだから、大丈夫ではないかと希望が持てたのだ。そして、あのものたちを死なせるものかという気持ちも根付いた。幹部であるリエル、ティアだけではなく、兵士達にまでだ。
ここまでして、ライは戦場に異変を感じ始めた。空には太陽が昇り、雲は一つもない晴天。
というのに、辺りは雪降る夜のような肌寒さを感じさせてきた。
「ついに動いたみたいだ。全員!防御姿勢を!相手の攻撃は防いだとしても後からどうなるわからない油断しないように!あとは指示通りにやってくれ!」
ライが大声を上げている間にも肌寒さは増していき、ピキリッピキリッという音がどこからともなく聞こえてくる。
と同時に辺りの視界が少しだけ霧がでたように悪くなり始める。それから、崖の上からなにやら大きな歓声を上げるのが聞こえた。それは徐々に大きくなってきていた。
相手が策を仕掛けてきたのだ。
「よし!なら俺らも応対するぞ!後方弓兵部隊は掃射を開始!前線部隊は槍衾を展開!絶対にこの戦いに勝つぞ!」
「「「「おう!」」」」」」
両軍の戦いはついに火蓋がきって落とされた。
こんばんわ、ついに始まりました戦争が。しかも小競り合いではなく、リューネリスをめぐる戦い以来の万と万の戦いです。しかも、その差は三万という。一体どういうことになるんでしょうか!次は戦いを本格化させますお楽しみに!ではまた次回お会いいたしましょう!




