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第百十一話 もう一人の軍師、策謀を巡らせる

お楽しみください

 ジュアン帝国侵攻軍、本隊雪崩前。


 ここでは現在ジュアン帝国軍の軍師であるイプスと、総司令官であるガドイが馬や馬車を通れるように地面に乾いた砂と木材を置いてその上に板を乗せ道を作っていた。


 時間は明朝、普段ならば休んでいる時間だろうがこの戦いは時間との勝負。国境付近で手を拱いていてはだめなのだ。だからこそ、ガドイ達はとある作戦のために不眠不休で作業をしていた。


 「イプスよ。お主に言われた通り地面に板を並べることで何とか通れるようにはなってきた。このことを献策した功績があるので意味ないことをするとは思えないのだが……あえて聞くが何を考えているのだ?」


 「何をというと?」


 「昨日の夜に命令を出した件だ。後方で材木を運搬するだけではなく夜に紛れて木材を入手しろなどと。攻城兵器である破城鎚(はじょうつい)が必要ではあるまいし、何よりも峡谷の下ではなく上の方で集めるなどと」


 「ああ、そのことですか。そこはご心配なく、もちろん考えはありますので。この作戦が成功すればおそらく私たちは翌日にはフェレスの国境砦まで進軍することができるはず。まあその前に不眠不休だったので一日、少なくとも半日休みを入れなければなりませんがね」


 ガドイは渋るように顔をゆがませながら聞く。


 「……その作戦は私にも教えてもらえないのか?」


 「申し訳ないですがここでいうことは。昨日指示を無視して突出した部隊三千が壊滅したことをガドイ将軍もお聞きになったでしょう?」


 「確かに聞いた、半数以上の死傷者がでたとな」


 「生き残った者たちにその時の状況を聞いたのですが、その中に味方の軍にもかかわらずどこからかわからず攻撃を受けたという。間違いなく魔法でしょう。姿を見えなくするのか、変装、何かに潜むと可能性はある。今もこの瞬間に近くにいるかもしれない。ならすべてを明かすわけにはいかないのです」


 「魔法か……それならばしょうがないか。だが、その話で思い出したがフェレス王国では魔法が使えるものを集めた部隊が存在するようだな」

 

 「はい、今までは自分の生存率を上げるため、他者との優劣を決めるためと個人で運用するものが当然と考えられてました。理由はそれぞれの魔法が宿った武具や宝石類の威力、魔法種類、用途が均一ではなかったから。だがそれを実現した者が現れた。それこそが今回の敵である、ライ・ジュリアールです」


 「ふむ、情報では敵は土、水の魔法を使うらしいと聞いている」


 「いえ、その情報は古いようですね。私が入手した情報では敵は土、水、火、風を操ると聞いております」


 「なんと、ではこの戦い厳しい戦いになるか」


 「普通に戦えばそうでしょう、ですがそれを回避しつつ敵に大損害を与えるための作戦はいくつか用意しています」


 「その一つが今回の準備というものか」


 「はい、必ずやこの作戦は成功するでしょう。仮に敵が気が付いて対策をしてきたとしても止められるもんじゃない。しかもすでに準備は整い始めている。それを見てからでは数で劣るフェレス王国は防ぐことはできないでしょう」


 「ならあとの問題は馬や馬車を通すだけということか」


 「それもおそらく昼辺りにはすべて終了するでしょうね。ただ、一応安全策として五千の兵で雪崩の先を渡り確実に安全だと判断したとき、すべてを渡らせましょう」


 「全部ではないのか。作戦がうまくいくと言っている割には慎重なのだな」


 「ええ、確かに策は普通なら成功するでしょうし、自信はあるんですが。相手はあの英雄ライ・ジュリアール。何をしてくるかわからない。なら安全策をとれるだけ取った方がいい」


 「ふむ、そういうものか」


 「そういうものですね。……ちなみに、今後の憂いを絶つ策も命令しております」


 「ほう、憂いを断つとな」


 「敵にはフェレス王国の王女エミル、英雄のライ・ジュリアールがいる。もしこのどちらかでも死ぬことがあったら、国に動揺が走る。すれば、軍に動揺が走り潰走する可能性もある。それだけではなく西にいるドリアド軍が動揺したフェレス王国軍を破り、フェレス王国は窮地になるでしょうね」


 「成功すると思うか?」


 「エミル王女のそばにはさすがに手練れがいるでしょうし、失敗する確率が高いでしょうね。ですが、軍師は何かしらの身を守る手段があったとしても護身用のはず。なら強力な攻撃をすれば倒せる可能性はある」


 「そして強力な攻撃手段がお主にはあると」


 「お任せください。一度しか使えないでしょうが……ある魔法を使えば」


 「なら期待しようか。だがとりあえずは準備を整えることとだな」


 「そこの指揮はお願いいたします」


 「任されよう」


 そういってガドイは近くにいた伝令を数名を走らせて状況を密にするようにする。それに対してイプスは背を向けて後方のとある場所に向かっていった。


 後方では忙しく作業をする兵士の姿があったが、そんな中一か所だけ雰囲気が違う場所がった。そこには頑丈そうな馬車があり、数名の鎧を装備した兵士が警備をしている。


 警備している兵士はイプスの姿を見ると一度だけ敬礼をしてから何も言わずに視線を外した。中に入ることを許可されたのだ。


 「……」


 イプスは無言で馬車の入り口を開け中に入ると、中にいたのは氷の巫女であり妹のマリーであった。


 「お兄様!今日はどうされたんですか?」


 「ああ、実はまたお前の力を借りることになりそうなんだ」


 ここで、イプスはガドイ将軍に見せなかった表情を出してしまう。それは、苦い表情だ。本当は妹であるマリーに無理をさせたくない。が、敵は強力な知と武力を持っている。生半可な策では負ける確率が高い。それはマリーの危険も高まることも同義。ならば勝たなければならない。しかし、するとマリーに負担をかけてしまう。


 この二つの矛盾に心を痛めていたのだ。


 「お兄様。私は大丈夫です。お兄様が思っているより魔法の力を行使するのに負担は少ないですから。最初のころは確かに苦労はしましたけど、今らな素直に操られてくれますし」


 「マリー……」


 「今回の戦いはジュアン帝国にとっても重要な戦いと聞いてます。ですから私も一生懸命頑張ります。……ってのは建前で本音はお兄様の力になりたいと思っています。ですから指示をしてください」


 「……」


 イプスは気遣う妹の心に感謝しながらこれから頼むことの内容を話そうと決意し、説明を始めた。


 「わかった、マリー。なら頼るよ。今回の作戦はマリーの魔法が鍵を握るんだ。やってほしいことは三つ。内容は」


 それからイプスはマリーに説明をしていく。説明をしている間、マリーは頷いては静かに聞いてくれ、すべてを聞き終えると笑顔でうなづいた。


 「わかりました。今の内容でしたらやってみせます。けどお兄様も大胆なことを考えますね?」


 「それほどのことを考え付かないと相手に勝てない軍師がいるからね」


 「お噂のライ・ジュリアール軍師ですね?」


 「ああ、リューネリスという町の軍と決戦を挑んだ戦いは虚と実をうまく使い分けた指揮をしていた。相手の弱点を突き、嘘で困惑させ、確実に有利に持っていく。一部では部下たちが強力な魔法を使用したから勝ったんだろうという人もいるらしいが、魔法の使い方も効率よく運用したからこそ勝利したんだと思う」


 「では、それを今回はお兄様も例にのっとるというわけですね」


 「だな、二番煎じと言われればそうだがいい例ならば積極的に取り入れなければならない。何かを理由に考えもせずに否定するものは、その先に進む権利はないからな。と言っても、それでようやく同じ土俵に立ったぐらい。後はどうやって部隊を運用するか」


 「大丈夫です。お兄様の作戦は成功します。お話を聞いて、自分でもそのような方法を使うなど考えもしませんでしたから」


 「そういってもらえるとありがたいよ」


 そういうと、二人はお互いに笑みを浮かべる。でもその時間は数瞬という短い時間であり、マリーはしばらくすると顔を真剣なものとして、力強い声でイプスに話す。


 「ではお兄様。さっそく指示である一つ目をします。ですから、お兄様は前線での指揮に戻ってください。またあとでお会いしましょう」


 妹に言われてイプスもまた顔を真剣なものにしつつ、頷く。


 「ああ、頼むよ」


 「承知しました」


 了承を聞いてイプスは立ち上がり馬車を出ていく。すると、少しだけ空気の気温が下がったような気がする。おそらくマリーが魔法を使い始めたのだろう。少しだけ周りが霧がかかったように視界を不鮮明にし始めていたからだ。


 今は明朝だ。明朝というのは太陽がでることにより温度差によって霧が出やすい。なので、霧が出たとしても相手は不自然には思わないだろう。もちろん、これは本命を隠すための作戦なのだが。


 「……あなたは気づくんでしょうかね。英雄のライ軍師?」


 イプスはいるであろう南の空に視線を向けた。


 実は先ほど、マリーに一つだけ訂正をさせてもらうところがある。マリーは先ほどジュアン帝国にとって重要な戦いであると言っていた。そのことで力を貸すと。でも、自分には重要な戦いというのもそうだが、もう一つどうしてもやってみたいことがある。


 それは自分の知略がどの程度通じるのか。おそらくフェレス王国一の知恵者に。最初の状況は約一万対四万の戦いだったのに対し、こちらの損害は約七千、相手は約二千。損害はこちらが多い。しかし、絶対数では相手の損耗率の方が多い。勝敗で言えば五分。状況で言えばこちらの有利。これからの作戦も自信がある。


 しかしなぜだろう。どうして


 「どうして、このまますんなりと勝てると思えないんでしょうかね。普通の相手にならば勝てると確信を得られるのに、どうしても何かあると思えてしまうんですよね。これは思い過ごしなんだろうか」


 誰に語りかけるわけでもなく独り言をいったが、当然誰も返事を返してくれることはない。


 イプスは自嘲気味に笑いつつ、首を振る。


 「戦争は生き物、刻一刻と戦況は変わっていく。その時にならないとわからないことが多い。ならば今できることは少しでも、負ける確率を少なくすることですね」


 そういって、イプスは再び歩き出す。向かう場所は雪崩の前で指揮を執っているであろうガドイ将軍の元へだ。何か不測の事態があれば一番最初に情報が飛び込んでくるのは、ガドイ将軍の元、そして何か指示を出すならば、また将軍の近くにいた方がはやくに修正がきく。


 ここに、二人の軍師の策がぶつかり合い、雌雄を分つ。


 フェレス王国軍、(国盾の砦)の兵力 約八千。

 ジュアン帝国軍、       兵力 約三万。


 約三倍の兵力差。しかし、フェレス王国軍は超常の力を持つ宝玉をいくつも持つ。

 対してジュアン帝国は宝玉一つと兵力を持つ。


 内容を見れば、フェレス王国不利。でもその不利と有利、優勢と劣性にするは二人の軍師の采配によって変化する。


 将来、この戦いが戦場の常識を変えた、戦場に変化をもたらす戦いとなる。


 二人の軍師を有する戦いは今始まろうとしていた。

こんばんわ、いえ、今は朝の五時なのでおはようございますです。朝十時に予約投稿なので、こんにちはかな?とにかく!まず最初に更新遅くなって申し訳ない!

ですがなんとか書き終えることができました。!。。。おそらく何人かの方が思っているかもしれません。いつ二つの軍が戦うんだよ!と。

はい、自分も思っております。ですがお待たせしました。二つの軍師、恐らくライに匹敵する軍師を登場させライバル同士が条件は違えども戦えばどうなるかを描写したかったため、二つの場面を書いてから戦いに移行したかったのであります。

なんだかこれでは言い訳をしているような気がしていますが、決してそのようなことは!……そのようなことは……ごめんなさい。

ではここで次回は二つの軍がついに正面衝突します!伏線を張りつつ大まかにしか描写しなかった二人の軍師の策略とは?お楽しみに!

ではまた次回にお会いしましょう。

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