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第百十話 敵の不安な動きと攻防の下準備

お楽しみください

 昨晩の会議後、ライにとっては一悶着あったが、無事明朝を迎えることができたのであった。


 そんな中、朝日が東より上がりはじめたころに一人の伝令がとある報告を伝えにくる。


 「何かの工作をしていると?」


 「朝日ではなく、夜の内に月明かりを頼りに見たため正確な情報ではありませんが、飯炊きの煙が異常に多かったように見えたのです」


 「左右の敵兵には確かそれぞれ一万以上の兵がいたよな。その両方の場所から奇妙な煙が上がったと。


 ライの問いに兵士は頷く。


 「……他には何かあるか?何でもいい、気がついたことを教えてほしいんだ」


 「他に……ですか。そういわれましても特に、あ、いや。一つ奇妙なことがありました」


 「奇妙なこととは」


 「はい、それが実は前まで聞こえていた狼の遠吠えが聞こえなくなっていたのです」


 「狼の遠吠えって……別に毎日なるわけじゃないだろ?」


 「いいえ、私はこの辺りを見てきましたが、夜行動いたとき必ず遠吠えは聞こえました。でも昨日は聞こえることはなかったのです。参考になるかは分かりませんが」


 「いいや、ありがとう。こちらから頼んだんだから、そんなに恐縮することはないよ」


 そういいながらライは兵士を下がらせ、一人考え始める。


 (ラッシュやリエル達を策に見事はめることに成功させた、軍師が相手にいる。それならば必ず崖上の行動にも意味があるのだろう。あと、狼の遠吠え。もし、王都やリューネリスにいた兵士の話なら考えすぎかと思っていたかもしれない。でもこの辺り出身の者の話を邪険にすることは、すなわち危機に陥る可能性があると思っていい)


 「……エスティア、敵の宝玉の位置は今どのくらいなんだ?」


 【はいはい、ちょっと待ちなさい……宝玉の位置は変わっていないわ。雪崩の除去作業を急いでるのかもしれないけど、どうやら一晩で輜重隊が通れるぐらいの道を作ることはできなかったらしいわね】


 「そうじゃないと困るよ。もし今敵軍が峡谷上と峡谷の間から数万単位で攻めてこられたら、策なんてないようなものだよ」


 戦争は数なのだ。相手より多くの兵士を集め圧倒する。戦争するうちでもっとも重要視する項目だ。


 【さすがに無理よね。あなたやティア達の魔法があったとしても。それ以前に、宝玉のきけ】


 「エスティア、それは今は言っちゃダメだ。誰が聞いているかわからないから」


 【……】


 「それよりも、これからのことだ。崖上で何をやっているのかわからないと対策のしようがない」


 エスティアの無言の後、ライが考えているとき天幕の外から数人の足音が聞こえてきた。


 「ライー、もう起きてる?」


 天幕を潜り中に入ってきたのはティア、リエル、フィルの三人であった。


 「ん、どうしたんだ?こんな朝早くに」


 「いや、リエルがなんだか慌てた兵士が走っていくの見たから気になったのと、ちょっと気になったことを伝えたいといってたから来たんだよ」


 「リエルが?それで、伝えたいことって?」


 すると、リエルが一歩前に出てきてライの正面に立ち告げる。


 「今日、朝早くに剣を振ってた。そしたら、鹿が沢山南に逃げていった」


 「鹿が?」


 リエルはコクリと頷く。


 「なんだかあの鹿達は怯えていたように見えた。そこで兵士が慌ててライの天幕のほうに走っていったのが見えたから、何かあったのかなって思った」


 そんなことを真剣な目で告げるリエル。


 って、鹿が逃げた?


 「待ってリエル。その鹿って北のほうから来た?それとも東か西かそこまでは分からない?」


 「……多分北から」


 兵士が伝えに来た内容と、リエルの内容がライに一つの結論を導き出す。それはとても途方もなく常軌を逸した考えだ。通常なら考えを話せば狂ったと疑われるレベルかもしれない。


 しかし、敵にはそれを可能にできる頭脳と魔法、おそらく氷帝の宝玉がある。そして宝玉は不可能を可能にすることができるとてつもない力を秘めているのだ。


 「……やばい、ティアすぐにキャサリン先生を呼んできてくれ!後宝玉持ちも全員だ!」


 「え、あ、うん。それはいいんだけどいきなりどうしたの?」


 「このままじゃ負ける!だけど、気づいたのが明朝だったのが救いだ!後数刻遅れれば負けてた、でも 今でもぎりぎりなんだ。急いで!」


 「う、うん!わかった!」


 「フィルは後方の物資状況を把握してる?」


 「してますけど、一体何がほしいんですか?お兄ちゃん」


 「木材を大量に欲しいんだ。この際、予備の天幕に使う骨組みも使用してかまわない。足りなければ急いでフィルの兵のうち千を使って集めて欲しい!内容はこうだ」


 そういってフィルに木材の使い道を説明する。だが、説明されたフィルは首を傾げる。


 「お兄ちゃんの言うことなのだからやりますけど……私にはなぜそのようなことが必要なことかわからないです。敵のように上にいるならまだしも」


 「説明は後でする。だけどさっきもいったけど時間がないんだ。頼む」


 「……わかりました。急いで指示を出しますね」


 続いてフィルも天幕を出て行く。残ったのはリエルだ。だが、姿は現さずとももう一人いることをライは知っている。


 「ラン、君の風影隊の力も貸して欲しいんだけどいい?」


 すると、かがり火の影から声が帰ってきた。


 「仰せのままに。それでどのように動けばよろしいので?」


 「足の速い者達を編成してフィルたちの兵が運んでくる木材を、指示した場所に即座に運んで欲しいんだ。そのほうが兵士達が運ぶよりも確実に速いから。それともう一つ、これは風影隊ではなくランにお願いなんだけど、ランの愚者の影人って――――――」


 話をしたライはランに聞きたいことを聞いてみると、ランは少しだけ考えるそぶりを見せつつも頷いた。


 「確かに、そのような可能性はありますが……いや、でも言われてみればそうかもしれませんね」


 「自信はない?」


 「贅沢を言えば時間が欲しいってのが正直ですけど、今やろうとしていることは贅沢を言えるときではないことは知ってます。だから、何とかします。いえ、何とかして見せます」


 「頼む、サチと作戦時には一緒に行動してもらうから」


 「わかりました。ではまた後で」


 その声と同時に、ランの声は聞こえなくなってしまった。


 すると、今度こそ天幕内にはリエルとライ二人だけが残る。


 「ライ、私は何をすればいいの?」


 リエルは自分も力になりたいと思って積極に言ってきてくれている。それはライにもはっきりと分かる。


 だが


 「……」


 今回に限っては、相手の取り方にとっては正直残酷なことを言うかもしれないが


 「……今回リエルと水帝隊には後方に下がってもらおうかと考えてたんだ」


 「どうして?」


 「それは分かるだろ?ラッシュの土帝隊もだけど、先の戦いで被害を被った。だけど、本当はランも言ってたけど四の五の言っている場合じゃない。でも、今回は相手が悪いんだよ」


 「相手が、氷の魔法を使うから?」


 「……どこから気づいたの?」


 「雪崩の近くでラッシュたちが応戦した矢が空中で突き刺さってた。一瞬敵にはライみたいに、壁を作るのかなと思った。でも、よく見ると刺さった矢の先端が白くひび割れてた。ならあれは氷かなって」


 「うん、正解。相手はおそらく強力な氷魔法を使ってくるよ。そんなときに、リエルの水魔法は相手の攻撃を防ぐどころか……」


 「……相手に魔法を利用される」


 「そうだ。水が固まって氷となす。水は気温が低くなれば氷となるんだ。そして、その氷を相手は使ってる。なら利用されることは目に見えてるんだ」


 きっぱりとライが言い切ると、リエルはシュンと落ち込んでしまう。そこで、ライは安心さえるように、励ますように右手をリエルの頭の上におきながら撫でてやる。


 「そう落ち込むなって。別にリエルが足手まといになるって言ってるんじゃないよ。リエルには水の魔法以外にも使える魔法があるだろ?元々からあった力がさ」


 「でも、後方にさがるって」


 「もちろん下がらせる。……でも、終始最後に下がらせるつもりはないぞ?」


 「?」


 少しだけ驚きつつ、二つの眼がライに問いかけてきた。どういうこと?というように。


 だからライは自分が持っている、考えた策を伝える。


 「リエル、相手の魔法は強力な魔法だといったし、水帝隊には相性が悪い相手だよ。けど、よく考えてよ。俺が相手の力が強いから兵力を下がらせるだけ。……そんな面白くない策をとると思うか?」


 「何か面白いことがあるの?」


 「面白いかは、正直分からないかな。相手からしたらズルイというかもしれないだろうし。しかも相手は俺と同様に考えられる頭脳がいるみたいなんだ。なら、こっちの部隊構成や所属はばれてると思っていいだろう。何よりも、先の内乱で活躍した俺やリエル達のことは特に、魔法や特長とかもさ。……でもそこが、狙いなんだ」


 「狙い?」


 「相手側には俺らに色々と二つ名をつけているらしい。正直、何で女の子にこんな名前をつけるか分からないけど、ティアは赤い悪魔、リエルは銀色の死神、ラッシュは不屈の戦士ってね。そして俺は、内乱を抑えた軍師ってさ」


 けれど、


 「ここでリエルに問題。この中でもし、リエルが敵の将軍だった場合戦いたいと思う人物は誰だと思う?しかも、この二つ名の名前とリューネリス辺りまでの戦いを聞いていたとして」


 「……軍師?」


 リエルは少し考えただけで、答えた。


 そして、その答えにライは頷く。


 「その通り。ティア、リエル、ラッシュは確かに恐れられているかもしれない。戦えば恐ろしい敵だろうさ。でも、軍師と知恵比べならともかく武力や暗殺をすれば簡単に殺せると思われている。そして、殺せたときの効果は絶大だ。部隊が崩壊するほどにね。……けどさ、なら逆にそれを今回逆手に取ろうかなと思ってさ」


 「逆手にって?」


 「久しぶりに前線の空気を味わうってことかな」


 そういって、ライは笑いかけるのであった。


 

 

こんばんわ、今回は少し短いお話になりました。というのも、戦いの前に少しだけお互いの伏線、作戦、下準備の描写を入れて、戦いの作戦を華やかにできればなと考えたからです。ただ文章だけでわかりにくいかなとも思うので、余裕があったら以前最後に書いた、自作の戦争図を描くつもりなのでそのつもりでお願いします。

……本当に文字が少なくてすみません。次はもっとがんばります!

では、また次回にお会いしましょう。

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