第百七話 救援、敗走戦
お楽しみください。
その知らせは日が西に傾き、数刻で沈むほどの時刻。
「味方が敵の強襲により壊滅しました!」
ライは天幕内でそれぞれ兵站の指示やこれからジュアン帝国軍に対してどういう対策をするかに、頭を悩ましている最中だった。
「壊滅?リエルたちはどうなったんだ!」
「物見のものの報告で正確な情報は分かりません!ですが、味方がオデガ山脈から敗走を確認しております!」
その話を聞いて、すぐに指示を出す。
「分かった、まずは逃げてくる味方の収容と損害の確認を急がせるんだ!すぐにフィルに知らせて医療部隊に準備をさせる!情報確認にはランの風影隊を向かわせる!リエルたちがやられたなら、おそらく敵はそのまま追撃してくるはずだ!鐘を鳴らして警戒態勢をひかせろ!」
「了解しました!」
伝令にやってきた兵士はすぐさま後方に下がり走っていった。
「誰かいないか!」
「はっ!いかがなされましたか!」
伝令にやってきた人物とは別に、天幕の外を守る兵士が中に入ってきた」
「警戒体勢をひかせるけど、それじゃあ間に合わない。だから氷壁の砦傭兵団に手伝ってもらう、お前はすぐにダンデ団長に話して陣地北に集結するように指示を。そして他に準備ができている隊の千人隊長をここに召集するように、準備が完了していないのなら後方で陣地の防備を固めるように伝えてくれ!」
「了解であります!」
そして、見張りの兵もすぐに走っていく。すると、ちょうど陣地内に
カン! カン! カン! カン! カン! カン!
三間隔で警鐘が鳴らされる。この合図は緊急事態、即座に戦闘準備に移行させるためのものだ。
それからすぐに
「リエル達が敗走してるって本当なの!」
先日の交流試合により、最近ようやく良くなり始めたティアが慌てて天幕内に入ってきた。
「とりあえず落ち着け、今説明するから」
ライが落ち着かせようと言葉をかけると、ティアは周りにようやく気がつく。周りにはダンデと補佐官のヴェトリア、そして、エスティア、レーシア、フィル、キャサリン、二人の千人隊長がいたのだ。ティアは大人しく後ろに下がる。
それを確認してライは説明を始めた。
「一時も時間が惜しいので状況を簡潔に伝えます。ジュアン帝国が雪崩付近にいたこちらの部隊を破り、迫ってきてます。こちらの部隊は現在敗走中、敵はおそらく追撃してくる。なのですぐに応援を向けます。ここに集まってもらった人たちはすぐに兵士を纏めて出陣を、団長も準備はいいですか?」
「ああ、俺らはいつでもいける。任せてくれ!」
「私も頑張らせていただきますー」
「頼むよ、フィル兵の受け入れ体勢はもうできた?」
「できました。いつでも収容はできます、それに後方のフェレス国境部隊にもこのことは連絡しました。お兄ちゃんたちの立場的にあまり連絡はしたくないけど最悪の場合も想定しないといけないので」
「助かったよ。これで俺らがもし負けても国境付近で防ぐことはできるはず」
「はい、それと後方部隊には指示を出していたので私の弓兵部隊1千人を動員できます」
「わかった、千人隊長二人は動員数はどのくらいできそうですか?ここに来たということは現状で半分以上は集められたと判断してますが」
すると、千人隊長の二人が前に出て敬礼しつつ話す。
「私の部隊は哨戒部隊として出撃予定がありましたので騎兵千人すぐに出撃できます!」
「こちらは歩兵七百が準備を整え、残り三百はもうまもなく準備が整うかと!」
「なら、二人ともすぐに行動を開始!哨戒部隊は先陣としてすぐに出陣を、その後方に弓兵を配置、残り兵士七百は予備部隊として弓兵両側に配置してほしい、もちろん残りの三百が間に合えば出陣させるが間に合わなければ陣地の防備に回す、それからティア、レーシア」
「なに?」「はいなの!」
「二人にはこの陣地から選んだ専用部隊を用意したから、その人たちを率いて出陣してくれ」
「専用部隊?」
「ティアの名前は炎帝部隊、レーシアは風帝部隊。それぞれ名前の通り得意な魔法道具を所持した部隊になる。本当は訓練をさせてからのほうが良いけど、そうも言ってられない。二つの部隊は北西近くの陣地に待機させてる。いい?」
「任せて!」「頑張るなの!」
「キャサリン先生、自分も出ますのでいない間の指揮は任せます」
「了解よ、安心してリエルちゃん達を助けに行きなさいな。……でもリエルちゃんやラッシュ君がいてしかもあの騎士ちゃんがいて負けるなんて、少し驚きね。兵数の差が違いすぎるといっても」
「詳しい情報はランの部隊に調べてもらっているからなんともいえないけど、おそらく相手には自分と同じぐらい強い魔法を使える人物がいると思う、あと頭が切れる人物も。じゃないとここまで早くリエル達がやられるはずがない」
「それもそうね」
「エスティア、相手の位置は分かる?」
「本隊は多分雪崩の前で止まってるわね、除去作業をしてるんだと思う」
「やっぱりか、なら敵は峡谷上を占領したと考えよう。先生、自分達が出撃した後に縁風の書で連絡を取ってください。」
「それはいいけどどこに?」
「エンリデンヌです。そこにいるドール伯爵に。エンリデンヌは北域の最大都市、ここが陥落すれば敵はフェレス国内に補給地点を得ることになる。そうなると窮地に追い込まれる、だから備えてほしいと」
「了解したわ」
キャサリンが頷いたのを見てライも頷く。
「よし!ならすぐに行動に移してくれ!早く向かって敗走している味方を助け出すぞ!」
「「「「「おう!(了解!)」」」」」
全員が指示通りに開始し四半刻(三十分)後、ついに総勢約三千人の部隊が集結、騎兵千騎が出陣したとき、風影隊の一人がライに情報を持ち帰ってきた。
内容はリエルたち二千のうち半分は脱落、千も現在峡谷の上や峡谷内で逃げつつ撤退しているということ、ラッシュ、リエル、サチはまだ生きているということだった。
(三人が無事でよかった……けど状況はまずいか。約束の日まで後数日、だけど約束の日が経ったとしてすぐに来るわけでもない。しかも貴族達は国盾の砦を快く思っていない。本当は敵の進撃を防げればいいんだけど……相手にも優秀な軍師がついたようだから難しいだろうな)
『ライ、貴方わかっているわよね?』
考えていると、エスティアが頭の中で離しかけてきた。具体的に何を判っているかをエスティアは言わない。しかし、ライには判っていた。
「安心してよ。無茶はできるだけしないから」
『……』
エスティアはライの返事を聞きつつ心の中で一人問いかける。
(できるだけ無茶はしない、ね……でも貴方は無茶をしなければならないと思ってるのでしょ?)
しかし、声に出していないのだから当然エスティアに聞こえるはずもない。エスティアには見守るしかできないのであった。
オデガ山脈、峡谷入り口。
現在リエル達は敵の攻撃を防ぎながら殿を務めていた。敵は雨あられというように数千の矢を放ち襲い掛かる。そのせいで戦う前は二千ほどの兵士達がいたのに、現在はすでに千を切っている。ジュアン帝国が左右の峡谷上にいて、兵数は二万を展開している。だからすべての兵士が弓兵ではないし、飛ぶ飛距離の関係から動きからも打つなどきついことに変わりない。
だけど、それを全滅させていないのはすべて三人の宝玉による魔法のおかげだった。ラッシュの魔法で土壁を出現させ遮蔽物にしたり、岩を飛ばし前列を乱れさせた。リエルは敵が走ってくる地面に水をばら撒き足元を不安定に。敵の矢は空に薄い膜を張り一つの緩衝材としての役割を果たさせ、矢の勢いを殺していた。サチは撤退する自分達の姿をごまかすために光を曲げ、敵兵を欺いていた。
でも二万の兵士の攻撃は熾烈を極めた。
「くそっ!そろそろやべえぞ!矢は防げても接近されたら守りきる自信はねえ!」
「弱音、吐かない!ライが何とかしてくれる!」
弱音を言うラッシュにリエルが声を張り上げながら、敵が集まっている場所に水帝隊と共に水弾を飛ばしていた。後ろではサチも魔法維持をしてはいるが、それ以外のことをできていない。表情も余裕がなさそうである。
リエルもライが何とかしてくれるとは考えていたが、相手がこのまま峡谷から下に下りてきたら持ち堪えることができないだろう。リエルは一種の覚悟を決め始めているときだった。
「グェ!」
今まさに峡谷の下に数百の塊でやってこようとしていた敵兵の戦闘が崩れ落ちたのだ。周りにいた兵士達は驚いていたが、次の瞬間隣から同じような断末魔が聞こえてくる。
「な、なんだってんガァ!」「おいどグゴォ|」
味方が下に前進したので敵からの弓は放たれたくなった。でも替わりに原因不明の状況で味方が倒れていくことに動揺が走ったのだ。
「リエル様!」
すると一人の兵士が馬に乗りやってくるのが見える。しかも速度が通常馬の出せる二倍ほどの速さで。そんなことをできる一般兵はあの部隊しか考えられなかった。
「ランがやってきてくれた?」
リエルの考えは正しかった。ランは敵の勢いを削ぐために影から敵陣地で攻撃しているのだ。
しかし、ランが一人に対して敵は数百数千が追撃に来ている。本来ジュアン帝国の作戦としては峡谷上を制圧したら、入り口を出ずにその場を確保追撃命令は出ていなかった。でも、前線の兵士達はほとんど反撃を食らわずにリエル達を一方的に攻撃できたため功に欲が出た兵士達が暴走した結果であった。
ラッシュが自分達の元にやってきた兵士に走りながら聞く。
「風影隊の奴らだな!ライ達はどうしてるんだ!」
「ライ軍師はすぐそこにやってきております!なので、ラッシュ様達はこのまま敵をひき付けながらできるだけ後退してください!ただ無理はするなと!」
おそらく何かしらの作戦があるのだなと判断したラッシュは承諾し声を張り上げた。
「お前ら魔法持ちはありったけの攻撃を敵にしてやれ!その後はこの先に味方がやってきている!そこまで全力で走るぞ!サチ、お前は魔法を解除しろ!」
「は、はい」
そう言われてサチは魔法を解除した。そして正確な場所が敵に知られると同時に。
「よっしゃ!撃て!」
勢い良くラッシュの土帝隊とリエルの水帝隊の生き残りは精一杯攻撃、敵先頭に命中させると後は一目散に敵に背を向けて後方に逃げる。それを攻撃されたことに怒り追ってくる敵兵約三千。
その状態が少しの間続いたが、この追いかけてきた敵兵三千は後悔することになる。そして、後方にいて追撃に間に合わなかった者、命令をしっかりと守りそもそも追撃に加わろうとしなかった者達は安堵する。
突如ジュアン帝国の三千の兵士達の前に軍隊が現れたのだ。しかしこちらと同数かそれ以下なのか進軍をやめなかった。それがその者達の明暗を分けた。
現れた軍隊の中から声が響く。
「弓兵さん達今です!敵兵前方に矢を放ち勢いを殺してください!」
すると数百の矢が空を舞いやってきたジュアン帝国兵たちの兵士達に無慈悲にも突き刺さっていく。でもそれでもまだとまらない。この者達が普通の兵士ならば止まった、でもこのものたちは実は盗賊上がりなどが多く、今回兵力をかき集めるために動員した者達、恐怖より欲が勝っていた。
「お前ら!飛び道具もっている奴らは応戦してやれ!」
どこからかそういう声が聞こえ、兵士三千人の中から数百だが矢がフェレス軍へと降り注ぐ。
「皆、今なの!」
カン!コツコツコツ
しかし、敵の矢は敵に向かうことなく途中で落ちていく。何かの壁に当たるように。しかもそれだけではない。風が突如吹いてきてフェレス軍からの弓矢攻撃が威力を増したのだ。その結果、ジュアン帝国軍の突出した三千の兵士たちの足は止まってしまう。勢いが殺されてしまった。
「今だよ!敵の前にめがけて攻撃開始!私は視界を塞ぐ!」
すると、突如ジュアン帝国軍たちの前に火柱が建ったと思った瞬間次には、火の玉が襲い掛かり当たった、兵士は火達磨になっていた。
そして
ドドドドドドドド
止めといわんばかりに回りに地響きが起こる。
先頭にいた兵士はそれがなんなのか察することになる。
「騎兵だ!騎兵で突撃を指摘きたぞ!」
叫んだとき火柱は消え視界が良好になったとき見えたものは……約千の騎兵の突進であった。
「味方を助けるんだ!我らが突撃し押し返すぞ!」
「「「「「おう!」」」」」」
「騎兵が突撃した後、槍兵の俺らは騎兵の討ちもらした敵を叩く!俺に続け!」
「「「「了解!」」」」」
「よしお前らもでるぞ!帝国の奴らに負けるんじゃないぞ!傭兵団の意地を見せてやれ!
「「「「おおおおお!」」
騎兵千騎を率いる千人隊長、八百を左右に配置した槍兵を率いる千人隊長二人、氷壁の砦傭兵団が突撃を開始した。結果、敵の三千の兵士たちは壊滅、半数以上の犠牲をだしほとんどが怪我をしたまま峡谷に逃げ込んでいた。壊滅できなかったのは峡谷上にいるジュアン帝国の弓を警戒したからであった。
ここで峡谷入り口に夜均衡状態が作られることになるのであった。
戦略図概要
[ジュアン帝国本隊]
[。。。。。。]
[弓兵]▼ [。。。。。。] [弓兵]▼
[歩兵]▼[歩兵]▼[ ][歩兵]▼[歩兵]▼
++++++++[ ]++++++++
[歩兵]▲×
[騎兵]△
[歩兵]△[弓兵]△[歩兵]△
[炎帝]△[風帝]△
[氷壁]△
[国盾の砦本陣]
[土帝]▽×[水帝]▽×
▼: ジュアン帝国軍 部隊方向
△:国盾の砦
×:壊滅、敗走
+: 障害物 (岩や森、壁など)
。:雪崩跡
こんばんわ、先に申し訳ありませんと謝罪させていただきます。今回試験的に戦略図概要を作ってみました。ただ執筆画面と投降画面が違うことから連続で更新することになりました。申し訳ありません。
今回撤退と救援をしたのですが、最後に均衡状態が作られたと書いても、どのような状況なのか判りにくいと思ってました。ですから、自分の考えた譜面をそれぞれ工夫して見ました。いかがでしょうか?何かこうしたら良いのではなどの内容がありましたらお教えいただくと幸いです。
では今日はこの辺でお疲れ様です次のときにお会いしましょう。




