第百四話 喪失、仕置き (番外編)
こんにちは、先に告知をしておきます。今回のお話は最近のジュアン帝国のお話とは関係ありません。時系列で言うと第67~68の新章に移るまでに会った書かれていないお話です。ご了承ください。
(このお話は時間が昔にさかのぼりリューネリスでライと別れてからこれまでの話である。時系列的にはリューネリスでライと別れ、ライの情報が王都に流れ込んでくるまでの話である)
リューネリスで戦いを終えリューネリスの治安を復旧させるために奔走し、それからようやく時間が取れライ達と話し合っていた夜。
ティア達はこの夜、ライに昔話を聞かせるために集まっていた。理由はライの宝玉の影響により生じた、記憶障害を戻すため。これ以上記憶を失わないため。
エスティアからの話では症状が刻一刻、宝玉が集まるほどに変化しているらしいと聞いていて、これからも記憶がなくなる症状が続くか判らないとも言われていた。しかし、少しでも負担を軽くできるなら進んでやろうとは思っていたのだ。
それからはライの部屋に集まった仲間で主にエミルとティアが主導で話していき、エミルが攫われたが、無事助け出せたというところまで話したときだった。
そこまで話すと突如ライが今回の集まりを終わろうと言い出したのだ。確かに、月が昇り時間も早い者は就寝する時間ではある。しかし、ティアは不思議に感じる。別におかしい事はないのだ。昔話の区切りも良い、だから言い出しても不自然ではない。
だけどティアにはライの表情がなんだか……そう、なんだか決意とも、何かを覚悟しているような表情にも見えた。笑顔を浮かべているのに。
ライの提案を受けた一同は最初了承し部屋の外に出ることになった。そして、最後にエミルが部屋から出て扉を閉め、歩き出し解散するはずだった。
「……ティア、少し聞きたいことがあるのだが」
「何?エミル」
「なんか、こう、ライの最後の笑みは不自然ではなかったか?」
どうやらティアが感じていた違和感をエミルも感じていたようだ。
「あら、もしかしてエミル様も感じておられたのですか?」
「も、ということはユレイヌ、主も感じたのだな?」
「はい、それに皆様の表情を見るに全員が感じていたようですね」
周りを見ると、フィルやリエルも賛同していた。
ティア自身もやはりと疑惑が確信に変わる。
廊下に出た少女達一同は動こうとはしない。なぜだか判らないが嫌な胸騒ぎがしていたのかもしれない。
すると、突如先ほど出た部屋からなにやら話し声が聞こえてくる。最初はエスティアとライがとも思うが声質が違う。というかなぜ話し声が聞こえる?と感じているとなんと扉が少し開いているではないか!
驚いていると真っ直ぐにリエルが扉に近づいてく。扉を少しだけ開けたのはリエルなのだろう。最初から盗み聞きをするつもりだったのかもしれない。
それからティア達はライと誰かの(おそらくランであろう)話し合いを聞いていたが、徐々にランの声が大きくなり言い争いになっていた。内容はライが強大な宝玉の力を持つゆえにティアたちに恐怖を抱かれるのを恐れていたこと。その話を聴いた瞬間顔面蒼白になっていた。今まで強力な魔法で数々の敵を倒してきて、当たり前と感じ、頼ってきたこと。その結果、ライに不安を抱かせ負担をかけて悩ませていたことを。
でも同時に伝えたいこともあった。ライを決して裏切ったりはしない、絶対に離れないとも。
それを一番最初に言った人物は
「ライ……お主というものはそんなことで悩んでいたのか」
エミルだ。その後ライに全員で付いていくと訴えるが……あの言葉と表情は忘れられることはないだろう。
悲しそうな、寂しげな表情を浮かべ
「ごめん」
と言われた。
直後ランとリエルが動こうとはしたが、ティアにはとっさのことで動くことはできなかった。突如周りを何かに囲まれてしまう。土帝の力だとすぐにわかり閉じ込められた私達は、ライに魔法を解くように訴えかけた。けど、それは聞き入れられなくて、途中ラッシュも来てくれたけど間に合わなくて。
数刻後私達は土の牢獄に閉じ込められた。ライが最後に徐々に強度が下がっていくから朝には出られると言っており、言葉通り外に出られました。
それからは、自分でもあまり何をしたのか覚えていない。ただ、エミルの指示にしたがってライを探したんだと思う。全員が顔を青くしつつ、ライが最後に残した戻ってくるという言葉を希望に。
でも
結局戻ってこなかった。ランだけがライがどこに言ったのかは知っており、場所はリューネリス軍残党が駐屯している場所。そこに向かい入ってきた連絡はすでに戦いは終わり、嵐のような惨状だけが残っていたというだけ。
その話を聴いた私達はそれでも必死に探した。でも結局見つけられなかった。もっと探したかったけどエミルの王都帰還の件もあり捜索は断念。ティア達は王都へ戻ることになってしまう。リューネリスでも捜索はしてくれると言い、エミルもジギル国王様に頼んで捜索隊を編成してくれるらしい。
そんなことがあり、一月、二月が過ぎるが、一考に見つかったという話はなかった。
最初もリューネリスや王都の兵士達は国家転覆の危機を救った功労者であるライを探すことに協力的だった。でも月日が経つにつれて諦めという感情が浮かび、捜査は縮小されていく。戦争があり疲弊したというのに捜索してくれていたが、兵士達にも捜索以外の仕事があるのだ。人一人よりも国力が重要なのは明白。
そんな中、ティアは諦めていない。賊が出たら、自ら志願して戦いに行き周辺を調査したり、向かった先で捜索、商人や民家にも特徴を伝えたりしてほとんど休むことなく動いていた。
だけど一説ではもうライは死んだという話も出ていたし、兵士達も顔を暗くし、ライとほとんど一緒にいたのを知っているからか兵士達は気を使ってライのことは面と向かって話すことはない。良識ある兵はだ。
でも馬鹿な人種もいてライは死んだ、だからもう忘れて俺達の女になれという奴もいた、気遣いながらも下心丸見えな兵士もいた。そして、この間ついにティアは我慢ならずに兵士を病院送りにしてしまったのだ。
「あんな目立ちたがり屋の軍師は馬鹿なんだよ。前線に好んででるなんてよ」
その一言を言われ、激情を抑えることはできなかった。ライはできるだけ前に出ることにより兵士の損害を減らそうとも考えていたはず。そして、あの夜一人で残党に向かって言ったのも損害を出さないためだ。なのに侮辱にも等しいことを言われれば我慢ならない。
しかし、兵士を殴り病院送りにしたティアは世間体もあり謹慎処分を受ける。普通ならばもっと重い刑にもなる可能性はあったが、非が兵士にあったのとエミルが働きかけてくれたからだった。
もっと重い刑罰を受けていたとしてもティアは後悔していなかっただろう。でも、今は別の問題で後悔し始めていた。
「……」
ティアは現在自分の部屋にあるベッドに横になりぼんやりとしていた。
「……」
謹慎なんだから部屋でこのようにしても間違いではないが、もし知り合いがティアを見たら驚くだろう。この前まで必死に、何かに憑かれたように動いていたのに、今ではもう抜け殻のように虚空を見つめるだけなのだから。そして、そんなティアが考えていることといえば
(……ライ、どこにいるの?)
ライのことだった。ずっと、あの幼馴染のことを考えていた。そしてライを一人で行くようにしてしまったのは自分が弱かったからなのだと。自分が足かせになっていたのだと。
「……っ!」
そう思ってしまうと、まだ目から涙が出てきてしまう。自分が悔しい、信頼されていなかったことも悲しい、ライがいないことが寂しい、ライを悩ます原因になっていたことが悲しい。
あの夜から流さなかったはずの涙が今になって止め処なく流れる。何度拭いても流れてしまう。
コンコン
そんな時、扉がノックされた。しかし、ティアは何も言わない。何も答えない。
コンコン
でも扉を叩く音は続く。その後ずっと鳴らされても答えなかったためか音は無くなった。変わりに
グイッ、パシンッ!
いつの間にかに入ってきたのか、ベッドから体を引き起こされた途端頬に熱くヒリヒリした感触があり、頬を叩かれたのだろうと理解する。いきなりのことに混乱しているティア。一体誰がと思い顔を上げるとそこには
「……」
リエルがいた。
「リエル?」
理不尽な攻撃をしてきたのはなんとリエルだったのだ。でもなぜという疑問が浮かぶ。
「ティアは何をしてる……っ!どうして、どうして返事くれない!」
疑問の次は驚きが勝ることになる。あのいつも無口なリエルが声を出し、ティアに感情をぶつけているのだ。しかも、手を肩に痛いくらい食い込ませながら。
「ライが、見つからなくて、悲しいのはわかる!私もそう!でも、私は、私は!ティアもいなくなっちゃ……っ!」
「ちょ、ちょっと!ティア、どうしたの!?私ここにいるよ?」
「でも、返事くれな、かった。ずっと扉、叩いてた、のに。ティアが、おもい、思いつめ」
ここでティアは察する。もしかしたらリエルは自分が思いつめて自殺をするとでも考えていたのかもしれない。周りではライが死んだかもしれないと言われてもいるのだ。リエルも不安であり、そんな所でティアが兵士を殴ったという話が出てしまった。それで、心配したリエルは来てくれたがいくら扉を叩いても返事をしてくれないから、自殺してしまったと思ったのだろう。肩に食い込む爪と、震える腕、倒れこむように体重をかけてくるリエルにティアはゆっくりと笑い抱きしめる。
するとリエルはビクリと体を震わせた。それからティアは言う。
「うん、ごめんね。私も柄にも無く落ち込んでたみたい。でも自殺なんてしないよ?」
リエルはティアの言葉に顔を上げて問いかける。
「……本当?」
「うん!それに死んだりしたらライを探せなくなっちゃうしね」
ずっと覗き込んでくるリエルにティアはにこりと少しだけ笑みを浮かべるとリエルは
「(コク)」
一度だけ頷いた。
「よし、ならリエル」
「?」
「これから時間はある?」
「(コク)」
「そっか、ならさ悪いんだけど話し相手になってくれない?聞いていると思うけど謹慎処分になっちゃってさ暇なんだよね」
明るく言うティアにリエルは頷いた。そして、もってきたのであろう自前のお菓子を出してくれる。ティアもお茶を用意して、それから二人だけのガールズトークに花が咲いた。
ほとんどが、ティアが話す側でリエルが聞く側、時々リエルも話をしてくれた。二人で話していると一人で考えているときよりあまり落ち込まないのはなぜだろうか、しかも話している内に、元気が出てくるとさえ思える。
話の内容は他愛の無い話から、ライの悪口、ライを見つけたらどうやって懲らしめてやろうかなども話した。リエルも楽しそうにしているのが判る。
(……私より年下のリエルでさえ不安がってるんだ。自分がしっかりしないといけないよね!ライ?こんな美少女二人に心配させてる、ううん。他にも女の子に心配させてるんだから見つけたら覚悟しててね?)
内心そんなことを考えつつ、ティアはその日一日リエルと盛り上がるのであった。
同日の夜、王城にあるエミルの元に、一人の来訪者がいた。
「して、ティアはどんな感じだったのだ?」
来訪者であるランは報告する。
「様子を見た限りですと、大丈夫かと。リエル様と一緒に笑顔で話されていましたので」
報告を聞いてエミルは安堵を覚え笑顔を浮かべつつランにお願いをする。
「そうか、それは良かった。だが、まだ少し心配だ。悪いが馬鹿な真似をしないように見張っててくれぬか」
「わかりました」
そういってランは報告を終えると影の中に消えていく。
影の中に消えていくのを見届け息を吐き出し椅子に深く腰掛けると傍に控えていたユレイヌがエミルに話しかける。
「エミル様、貴方様は大丈夫なのですか?」
ユレイヌとしては、ティアも心配であったが同じかそれ以上にライに依存していたエミルを知っているため、こちらも心配だったのだ。
「大丈夫とは、もしや私が自殺をするとでも?」
「そうは思っていませんが……落ち込んでいるのではないかと」
「まさか私が落ち込んでいるはずが」
「本当ですか?この前国王様に何回呼ばれても気づかず、食事のときは飲み物を落とし、本を逆に読んだり、ボタンをつけ間違えたりとしていましたが?」
「うっ、……ゴホンッ!べ、べつに人間失敗など色々あるであろう?逆に失敗しない人間などいないのだ」
「そうでしょうが、エミル様。ここには私以外誰もいません。気を楽になさってもいいのですよ?」
「……」
「エミル様?」
話しかけるユレイヌに根負けしたのか、エミルはため息をついてから話し始めた。
「……ああ、そうじゃ。確かにユレイヌの言うとおり落ち込んでいるのであろう。じゃが、そちも心ここにあらずという時があるぞ?」
「そうですね、ライ様には少なからず惹かれておりましたので。ですが、気持ちの整理はつけました」
「整理……だと?ユレイヌもしやライが死んだと思っているのか?」
「そうではありません。落ち込んでいるよりは、将来のことを考えようと」
「将来のことか」
「はい、ライ様を見つけたらどうやって懲らしめてやろうかと」
ユレイヌの言葉を聴いてびっくりしてしまうが、次の瞬間エミルは笑ってしまった。
「はは、ははは!そうか!懲らしめてやるか!」
「はい」
「それで具体的には?」
「それはまだ考えてません。ですから、提案なのですがこれからエミル様も一緒に考えませんか?」
「それはいい!ふふふっ!ライ、覚悟しておれ!お主が見つかったら主として仕置きをしてやるからな!」
楽しそうに話す姿を見てユレイヌは笑みを浮かべエミルを見守るのだった。
それからライが発見されたのは三ヵ月後、奇しくもティアとエミル、離れた場所で話したにも関らず、結論としてはライを見つけたらどういうお仕置きをするかという方針が決まり、そのことを楽しそうに話す少女達であった。
ちなみに、この時ライはレーシアと話しているときにくしゃみをしたとか、しなかったとか。
こんばんわ、時間がありましたので書きたくなり書いてみました。
以前から読みたいキャラクターはという話で、ある方から意見を頂き、そういえば新章に移るときのティアたちのことを描写していなかったと思い出し、今回書いて見ました。
個人的には、フィルやランも出したかったのですが……この時すでにフィルは国盾の砦へと帰還、ライ捜索の手がかりを探しているころなので描写はできませんでした。また後日気分や意見がありましたら書きますので。
では短いですが今日はこの辺で、本編で次回お会いしましょう。
(時間があれば明日更新したいですが、徹夜作業になりますので、日曜になるかもしれません。ご了承ください。)




