第百二話 ルティの密会
お楽しみください。
ライ達がジュアン帝国先遣部隊をオデガ山脈で撃退、氷壁の砦と交流試合をしていた時、フェレス王国エミル一行は戦火から離れた場所、東のアスティール王国に近い都市、ルティに到着していた。
理由は国盾の砦の元代表者であり、現在は幹部であるキャサリンとエスティアの証言からアスティール王国からの使者が訪れている可能性があるということで、エミル、ユレイヌ、キャサリンと数名の護衛を引き連れて訪れていた。
本来ならば使者というものは王都を目指し王に謁見してから国政について駆け引き、あるいは要望を伝えるのであろう。だが、不思議なことにアスティールからの使者はフェレス王国王都にではなく、国盾の砦の構成員に接触しキャサリンの元に情報が来たのだ。曰く代表者に会いたいと。
現在の国盾の砦代表者はキャサリンではなく、フェレス王国王女エミルだ。アスティールの使者という可能性も低く暗殺のことも疑った。
しかし
「アスティール王国王女イビア様から遣われた第一聖騎士です。この度そちらの代表者にイビア様のお言葉と、お伝えしたいことがございます」
と言われキャサリンは何度も伝令が伝えた言葉が一言一句間違っていないかを確認した。そして、間違いがないとわかりルティに向かうことにしたのだ。もし重大な要件があり来たとか、援軍、同盟などだけしか伝えてこなければ絶対に疑っていただろう。暗殺者としては重要人物を殺せればいい。なら相手が食いつきそうな話題を最初に持ってくるのが最も効率が高く、謁見の確率が上がる。
でもこの使者は何も言わず、しかも自分が只者ではないと宣言までしている。ならば会う価値はあるだろう。
そんなことがあり、エミルたちはルティに訪れ使者を探していた。
出発前にエスティアとライにこのことを話した際、相手は強大な力を持っていること、人数は少数、誰かを待っているようにゆっくりと来ていることを言っていた。後、おそらくその人物に敵意はないだろうと。敵意があれば軍勢を率いてくるなり、ドリアド、ジュアンに続いて挙兵してくるだろうから、このタイミングで来るということは何かしらの交渉にきているだろうとも。
「キャサリンとやら、これから我はどうすればよい?」
到着した後、宿をとり一息ついた後にエミルはキャサリンに話しかける。
「この後、接触された伝令に代表者が到着したと説明するからそれまでは自由時間。長旅で疲れただろうしゆっくりしてもらって構わないわ。幸い侍女もいるんだし紅茶でも飲んでいたら?」
「じゃが、ほかの兵士たちも到着して間もないというのに休んではおらぬであろう?私だけが休んでいるというのも気が引ける」
「そのことは考えなくていいわ。確かに疲労が蓄積しているのは間違いないけど、あなたにはこの後使者と会うという重要な仕事があるのだもの。それに比べたら大したことないわよ」
笑いながら言ってくるキャサリンにエミルは苦笑した。キャサリンも疲れているだろうに弱音を吐かない。昔自分の先生だったのだ、キャサリンが優秀なのは知っている。もし本当に危ないことや面倒なことになれば自分にも教えてくれるだろうと信じ、今は体を休めることにした。
「エミル様、紅茶ができましたのでどうぞ。キャサリン様もいかがでしょうか?」
「それは有難いわね。貰おうかしら」
キャサリンはそういうと椅子に座り差し出された紅茶を飲む。エミルも一口紅茶を飲むとそこでキャサリンがエミルに質問してくる。
「そういえばライ君たちはどうなってるか連絡はないの?」
「ああ、遠風の書でフィルから連絡はあった。どうやらあちらでは傭兵部隊が先遣隊できたようだが、ライが雪崩を起こして道を塞いだようなのだ。それにより、先遣部隊は壊滅、また雪崩で道を塞がれたことで今後ジュアン帝国の商人との交易に問題が出るだろうが、自分から危険に飛び込む物好きもいないであろう。ライが言うには、その欠点よりも私のお父様と約束した一か月防ぐという目的を達成できるかもしれないと言っておった」
「さすがライ君って所かしら。雪崩を起こすとは聞いていたけど、どうやってかは話を聞いていなかったし。でも上手くいって良かったわね」
「だな。後ジュアン帝国で組織している氷壁の砦という傭兵団と内通したとあった。ただ……何か事情があって交流戦をするとか」
「ふぅん」
キャサリンはまたライが原因ではないのかと考えていた。理由としてはフィルが事情を記載しなかったこと、おそらく自分の中でも戸惑いや感情が働いてあえて書かなかったと。そして、キャサリンの考えは半分正解していたのであった。
コンコン
扉を叩かれる。叩かれた回数は五回。これは自分が関係者であるということを知らせるための合図である。
キャサリンは扉に近づき開けるとそこには長身の女性がいた。栗色の髪を長く伸ばしており、腰はくびれ、女性として抜群の体を維持している。その中でももっとも惹きつけられるのはなんといっても胸であろう。胸が大きいのだ。キャサリン自身小さいとは思っておらず大きいと思っていたのに、自分より大きいことに羨ましさも感じてしまう。だが大きいといっても形は崩れていないように見えるから恨めしい。男受けがとてもいいだろうと感想を持った。
「どちら様?」
そんなことを考えつつも訪問者へと問いかける。
「いきなりの訪問を失礼します。豊穣の代表者がこちらにいるとお聞きして水都の僕が訪問させていただきました」
こちらの問いに関して、キャサリンは少しだけ感心する。おそらくこの人物がアスティールからの使者なのだろう。返答で豊穣の代表者、自分が水都の僕と答えたのは万が一違う部屋、無関係だった場合に備えて言った言葉であろう。フェレス王国は豊かな土地柄、豊穣の国とも言われいてる。対してアスティールは水の都。水都の僕とはアスティールに所属する兵士という意味である。人物名を口に出さなかったのも好感を持てる。
「ようこそ、まずは中に入られてください。あ、その前にあなたは一人ですか?」
「はい、今回一人で来させていただきました」
「そうですか、ではどうぞ」
キャサリンが扉の前から退くと、相手は中に入ってくる。
部屋の中に入った女性は部屋の中を見て、奥にあるテーブルにエミルとユレイヌがいることに気が付き、挨拶をする……と思われたが実際には違った。
「……」
入ってきた人物に挨拶をしようとエミルは思っていたのに、驚いたような顔をされると戸惑ってしまうだろう。よって部屋の中に何とも言えない空気が流れる。
でもそれはすぐに払拭されることになった。入ってきた女性の言葉のせいだ。
「まさか……女装癖があるとは思われませんでした」
エミルを見た途端にそう言われて今度はエミルが面食らうことになる。しかしそれは数瞬の出来事
「な、な、な」
「あ、いや。申し訳ございませぬ。人が性格を違うように、趣味も違うもの。そういう趣味があることも今日初めて見ましたが、傑出したものは何かしらの秘密はあられる。ここで見たことは他言しないゆえどうか安心されたし」
「~~~~~!」
エミルは顔を真っ赤にして反論しようとした。この無礼者がと。でも実際には言わない。先ほども言っていたではないか、アスティールの使者と会うのは自分の仕事。ならば自分の仕事をいきなり放り出すことなどできるはずもない。
「……まずあなたのお名前をお聞かせ願いませんかアスティールの使者様?」
エミルが寸でのところで葛藤しているのを見てユレイヌが質問する。本来ならば使者にメイドが聞くなど言語道断ではあるが、どうやらこの使者は頑固ではないようで不機嫌になることもなく、質問を返す。
「そうですね。申し訳ありませぬ。私の名前はサチ・パグモク。アスティール第一師団所属の騎士であり、アスティール王女イビア様の騎士としてお仕えさせていただいております」
「なるほど、ではサチ様少しお聞きしたいことがあります。先ほどキャサリン様が応対したときは不自然なところはありませんでしが、どうして私たちを見て驚かれたのですか?」
問われたサチは少しだけ言いにくそうに理由を話した。
「いや……実はこのルティという町でイビア様から代表者と出会うことができるという宣託をいただきました。そして、その相手はライ・ジュリアールという男性で英雄であると」
サチの話を聞いて、後ろからキャサリンが話しかけた。
「サチさんと呼ばせてもらうけど、あなたの目の前にいるのはライ・ジュリアールではないわよ?」
「へ?な、なら私は謀れたというのですか!
「騙していないわ」
「嘘です!代表者と会えるように言ったのに!」
ここで、ようやく冷静になっていたエミルにも全体が見えてきた。
「……サチとやら。もしや、貴女はライの姿を見たことがないのではないのか?」
「確かに見ていないが情報では国盾の砦という組織にはライ・ジュリアールが所属していると報告が」
「確かにライは所属しておる。だが、代表者は私だ表向きは。もしやサチ殿はライが英雄だから組織の代表者と思い込んでいたのではないか?」
「そ、それは……でも、イビア様は惹かれあうと……。ならば代表者であるあなたは一体何者なのだ?英雄を差し置いて代表者となっているあなたは」
「私の名前はエミルという。フェレス王国第一王女をしているものだ」
名前を聞いた瞬間サチは固まった。まさかの王族とは思いもよらなかったらしい。しかもその王女を女装呼ばわりしたのだ。使者として失格であろう。
様子を見ていたキャサリンがため息をつきつつ状況をまとめる。
「どうやら行き違いがあったようね。サチさんの要望で代表者を連れてきたけど本当はライ君と会いたかったと。代表者をライ君と判断してしまったから」
「うっ……」
「まあ、今はサチさんもわかっている通りフェレス王国はドリアドとジュアンから侵略されて私たち国盾の砦も動いてる。もちろんライ君にも動いてもらってる。だからすぐに呼び出すことはできない」
「うむ、逆にいえば戦では我は役立たずだからこそ動けたというのもあるんだがな。サチとやら、そちらはライと会いたかったのであろうが、呼び出すことはできぬ。だが、私はこの国の王女でありライの主でもある。それでは不足であろうか」
エミルに問われてサチはしばらく考え、そして結論を出した。
「……いいえ。ことは一刻を争う事態になっているとイビア様も仰られておりました。ならば最善の選択をするべきでしょう。ですが、これだけお願いしたい。イビア様に連絡を取った後になるであろうがもし、許可が出たのならば私をライ・ジュリアール殿と合わせてほしいのです」
「うむ、お主が持っている強大な魔法というものをライも気にしておったからな。構わないだろう」
強大な魔法と言われサチは何度目かになる驚きを覚えるが、その時はなんとか感情を表情に出さずに済む。
「では詳しい話をしようではないか」
「はい」
そして、ルティでキャサリン、エミル、ユレイヌ、サチとの会談が始まった。
「お互い時間が無い身、単刀直入に聞くがアスティールの内容はなんなのであろうか」
「イビア様から仰せられた内容は、フェレス王国所属のライ・ジュリアール軍師を助力したいということ、次にライ殿にイビア様に会っていただくことこの二点です」
「ふむ?フェレス王国ではなく、ライ個人の助力のために兵を動かすと?」
「はい。ジュアン帝国が侵攻してくる可能性があるのであまり多くを動員することはできないでしょうが、そう仰せでした」
「わからぬな。兵を動員するということは民や兵士を多く死なせるということと同義、それほどのことをするほどライに価値があると申すか?」
「あるとイビア様は思っておられるのでしょう」
「しかも、動員する条件としてアスティールの要求は願いでもなくライとの謁見のみという」
「詳しくは判りませんが……軍師は必ず会うだろうと仰せでした」
「それも噂の占いか?」
「そうです」
アスティールのイビア王女は占いをするとは聞いていた。しかもその的中率はとても高くいくつもの命を救い、大飢饉を予言したときは備蓄を急ぎ、大飢饉を回避したという話も聞いたこともある。
「イビア様は占いでこうとも言っておりました。「もし、フェレス王国が窮地に立たされているならば貴方はライ・ジュリアール軍師の共をし、助けなさい」と、必ず力になることができるとも」
「お主は納得できるのか?こういうのもなんだが、私たちの国では占いは参考程度という認識しかない。大飢饉を介したという話もあることから、占いの的中率は当たるのだろうがだとしても一人の人間として、納得はいっているのか?」
「……確かに、そうですね。私アスティールではイビア様がいるから占いの信憑性も上がり、何度も頼ってきました。……ですが、私は決して命令だけで動いているだけではなく納得しております。個人的にライ軍師に会いたいとも」
ここでエミルの頬がピクリと反応する。なんだか嫌な予感がしたのだ。いや、いやな予感なのかわからないが、第六感、女の勘の何かしらが反応した。
「個人的にもと言っておったが」
「ライ軍師は民たちを第一に考えるとか。決して自益を考えるのではなく、民と兵士たちのことを案じ義を持って行動する。そのお話を聞いて騎士としてもとても尊敬しているのです。しかも、一度は真だと思われていたにも関わらず再び賊から救うために旅していたとか。そのような高潔な方に一目でもお会いしたいというのは当然というものです」
サチのライを語る姿を見て、今度こそエミルは笑みを引きつらせる。まだ言葉通りライとは会っていないのであろう。でも、エミルにはどう見てもライに特別な感情を持っているようにみえた。そして先ほどの予感は、正しいのかもしれない。だが、かといってあくまで特別なのは英雄に憧れるという類のものではまだある。王女というものをやっていればこのような視線を受けることは当然あり、目の前のサチも同じものだとは分かる。
問題なのは会ったら憧れから好意に代わることだ。正直、あのライという幼馴染は出会った女をことごとく好意を寄せさせる。もちろん命を助けられたり、救われたりと好意を抱かせるぐらいのことをしているのは確か。
「なので、私はぜひとも使者としても、個人としても「ライ軍師とお話がしたいのです!」
だからと言って、戦時下の友好国になりうる大国の使者を無下に扱うことはできない。自分の感情で多くの兵士や民を死なせてしまうことはできないのだ。
「……わかった。フェレス王国としてもアスティールの助力を受けたい。が、いくつか条件がある」
「条件ですか?」
ここで先ほどまで感情を出していたサチが表情を引き締め、目を細める。やはり、一角の人物なのだろうとサチは思う。
「そうだ、一つはライに対して助力するとは言っていたがフェレス王国には助力しないということだな?」
「恐らくそうなのではないかと」
「それをイビア王女に国盾の砦に助力するということを私のお父様、ジギル国王に使者を送ってほしいと。仮にライに助力を許可した場合国盾の砦は助かるが、世論はこう思うだろう。フェレス王国をアスティールに売り国家転覆を狙っているのではないかと」
「それは」
「私がいたとしても、国家反逆を疑われる。一年前にも兄が反逆をしたのだ。王族が反逆をしないという信憑性がない。だから国の第三機関となった国盾の砦を助力するにしても国王に正式な使者が報告した後ならば、まだこちらが反逆するという意思が無いことを主張できる」
「なるほど、わかりました。イビア様にお尋ねしてみます。条件はそれだけでしょうか?」
「まだある。そちらの要望はライとイビア王女が面会するとある。だがこの時、同時に数名貴国に訪問できるようにしてもらいたいのだ」
「……こちらのことが信用できないと?」
「そうではない。じゃがいきなり一人で行けと言われてもライが警戒するであろう?しかも先ほど言ったようにフェレス王国国内からもアスティールと内通し国家転覆を狙っていると思われる可能性がある。しかし、正式な要請で、例えば王女が友好を深めるために訪問するついでにライが訪れたほうが自然ではないか?」
「確かに……わかりました。それも確認しておきます」
「うむ、ほかには今のところ要求はないな」
「わかりました。では、今日はここまでということで。さっそく自分の宿に戻り報告をさせていただきます」
「わかった。よろしく頼む」
そういってサチは一度頭を下げると扉を開けて出て行ってしまった。
その翌日に、サチは再び訪れることになる。恐らく遠風の書を使って確認はとれたのだろう。
そして肝心な返答は
「すべて了解したとのことです」
であった。こうして、ルティでの密会は終わり国盾の砦はアスティール王国の助力を得られることになる。強力な仲間ができたのだ。
それからさらに二日後エミル達はサチを連れてライ達がいるところに向かうのであった。これは、ライ達はちょうど女子会?をした翌日あたりの話であった。
こんばんわ、意外にも文字数が多くなり更新が遅くなりました。
今から徹夜なので後書きは短くいたします。
さて、今回のお話は最近出てこなくなっていたエミルがどこに行っていたかを描いたものでした。それはサチに会いに行ってたのですね。ライとの絡みが無いとエミルに怒られそうですが……どうしても活躍の場を与えないといけなかったのですエミル自身に。なぜかは伏せときます!
色々と書きたいことがありますが、次のことでお聞きしたいことがあるので質問を書きます。
次のお話、本編を進めるか、それともレーシア、フィル、ラン、リエル、ティアの誰かのお話を書こうと思っています。誰か読みたいお話はありますか?
ありましたら意見お願いします。
ではここで、また次回お会いしましょう。




