光の先
交わり合う視線を離さぬまま、藤田はしっかりした意思をもって瀬尾と向き合う。もう完全に過去の恐れと決別した表情は、清々しいものだ。
それに向き合う瀬尾は、未だ答えを探しあぐねていた。藤田の経歴や今の生活を想うと、自分の存在は似つかわしくない。まして付き合うなど、もっての他だ。
それでも目の前の男が、何者にも代えがたいほど愛しいと言う想いも同じくらい強い。側にいる未来を思い描いては黒く塗りつぶしていた。
思い切り抱き締めてしまえたらどんなに楽か、そんなことばかりよぎる。
そんな瀬尾の想いを知ってか知らずか、藤田はそっと彼の手を取った。
困惑の眼差しを向ける瀬尾に構わず、静かに口を開く。
「嫌われたらどうしようって、ずっとそんなこと考えてたんだ。あの頃」
思い出をなぞるように、一文字一文字噛みしめて紡がれる言葉に瀬尾は聞き入る。
握られた手にやんわりと握り返したのは、無意識での事だった。
「男どうしで好きだなんて、君は嫌がると思ったから。それでも伝えてみようと思ったのは、どうしようもなく愛しかったからなんだ」
結局臆病風に吹かれてしまったけれど―肩をすくめて微笑む藤田の言葉は、握りあった手の体温と共にじんわりと心に染み込むように伝わっていく。
それでもあと一歩、線を越えられない瀬尾へ再度藤田は呼びかけた。
「君も、そうだろう?自惚れて見えるかもしれない、けれど君と俺は同じ気持ちでいるって、そう信じてる。二人でいて、ままならないこともたくさんあるかもしれない。でも―――二人でいられるなら、それでいいと心から、思うよ」
瀬尾は笑いかける藤田の後ろに、光がさしているような錯覚を覚えた。その光を掴むように、ずっと想い続けた人を力一杯抱き締める。控えめだが、しっかりと抱き返してくる腕に充足感と安堵を感じた。
愛し合い、二人で生きていくことに未だ不安はある。それでも、一人臆病なまま生きていくより、臆病どうし二人身を寄せあっていく方がきっといい―今はそんな風に思えた。
「お前以上に臆病者の、こんな男で本当にいいなら…ずっと側にいて欲しい」
瀬尾の胸に顔を埋めて、至福を感じながら藤田は何度もうなずく。
顔を上げ視線を絡めた後、確かめあうように軽く口づけあう。顔から火が出そうなほど恥ずかしかったが、そんな思いすら大切に思えた。
しらみ始めた空の下、止まっていた時は刻み始める。愛することに臆病だった二人は共にいる未来へ、ゆっくりと歩き出した。




