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失踪者の銀行  作者: キロヒカ.オツマ―


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第十四部 宮村篤志の真実

三崎恒之への聴取を終えた高城は、事務所に戻ると、この調査の出発点――宮村篤志のケースへと、あらためて意識を戻した。


これまでの調査は、いつしか二十六年前の事件へと大きく傾いていた。だが、依頼人である宮村由紀が待っているのは、兄の行方だった。高城は、自分がこの依頼を、まだ何一つ解決していないことを、あらためて自覚した。


宮村篤志は、なぜ消えたのか。


彼は、三崎紗季と同じ「非同意の預け入れ」の系譜に連なる人間なのか。それとも、まったく別の理由で、自らの意志で銀行に自分を委ねたのか。


高城は、これまで避けてきた一つの作業に取りかかった。宮村篤志本人の、勤務先での足取りを、もう一度、徹底的に洗い直すことだった。



宮村篤志が勤めていたのは、都内にある中堅の建設コンサルタント会社だった。高城は、由紀の紹介で、篤志のかつての同僚に接触した。


「宮村さんは、辞める少し前、妙に思い詰めた様子でした」


その同僚は、そう証言した。


「何か、心当たりは」


「詳しくは知りません。ただ、宮村さんは、当時、ある大型の再開発プロジェクトの資料整理を任されていました。古い案件のアーカイブを、デジタル化する仕事だったはずです」


高城の手が、止まった。


「その再開発プロジェクトの、名前は」


同僚が口にした名前は、高城が二十六年前から追い続けてきた、あの再開発計画と、同じ地域を指すものだった。時期は違う。だが、場所は同じだった。


「その資料の中に、何かがあったんですね」


「わかりません。ただ、宮村さんは、ある日を境に、様子がおかしくなりました。急に休みがちになって、そして、辞表を出した」



高城は、その建設コンサルタント会社に眠る、古いアーカイブ資料へのアクセスを、由紀を通じて依頼した。会社側は当初渋ったが、由紀が「兄の失踪に関わる可能性がある」と粘り強く交渉した結果、限定的な閲覧が許可された。


高城は、篤志が担当していたという資料の束を、一枚ずつ確認していった。


そして、ある一枚の書類に、目が留まった。


それは、二十六年前の、あの再開発計画に関する、用地買収の記録だった。存在しないはずの地権者の名前――かつて三崎恒之が語った、あの不正の痕跡そのものが、色褪せた紙の上に、まだ残されていた。


篤志は、資料をデジタル化する過程で、この書類を目にしてしまったのだ。


高城は、さらに資料を読み進めた。書類には、当時の関係者の名前が、いくつか記されていた。地元の有力者、建設会社の役員、そして――一人の政治家の名前。


その政治家は、二十六年を経た今も、地元で確固たる地位を保ち続けている人物だった。当時は若手だったが、今では、県政に大きな影響力を持つ重鎮となっている。



高城は、篤志が失踪する直前の行動を、さらに詳しく調べた。由紀の証言によれば、篤志は失踪の一週間前、「ある人に会いに行く」と言い残して、数日間、家を空けていたという。


高城は、篤志の携帯電話の通話記録――初期化される前の、わずかに残っていた履歴の断片を、専門家の協力を得て復元した。そこに残されていたのは、一つの番号だった。


その番号を辿ると、意外な人物にたどり着いた。


寺内。


高城が調査の初期に接触した、あの「生活再建コンサルタント」を名乗る男だった。


高城は、再び寺内の事務所を訪ねた。今度は、これまでの調査で得た情報のすべてを手にした状態で。


「宮村篤志は、あんたに何を相談したんだ」


寺内は、最初は言葉を濁そうとしたが、高城が三崎紗季の記録カードのコピーを机に置いた瞬間、その表情が明らかに変わった。


「――あんた、そこまで辿り着いてたのか」


「答えてくれ」


寺内は、長い沈黙の後、ようやく口を開いた。


「宮村は、古い書類を見つけたと言っていた。ある政治家の不正の証拠だと。そして、それを公表しようとしていた」


「それで」


「俺は、警告した。公表すれば、命が危ないと。だが、宮村は聞かなかった。正義感の強い男だったからな」


「それで、銀行を紹介したのか」


寺内は、頷いた。


「宮村自身が、頼んできたんだ。『家族を巻き込みたくない。半年だけ身を隠して、その間に、安全な形で証拠を公表する方法を探したい』とな」



高城は、この証言に、ある種の希望を見出した。


宮村篤志のケースは、三崎紗季とは違い、本人の意志による預け入れだった。彼は、逃げたのではなく、闘うために、一時的に身を隠すことを選んだのだ。


「今、宮村はどこにいる」


「わからない。俺は紹介しただけだ。だが――」寺内は、声を落とした。「一つ、気になっていることがある」


「何だ」


「宮村が消えてから、もう五ヶ月近く経っている。半年の契約期限が迫っているせいか、最近になって、銀行内部で『C-007の再評価』という言葉を、耳にした」


高城の心臓が、大きく跳ねた。


C-007。無期限。保留。


それは、坂本から受け取ったあのリストに記されていた、複数の「保留」番号の一つだった。


「まさか――宮村の番号が」


寺内は、それには答えず、ただ、重い沈黙で応えた。


もし宮村篤志が、当初の「半年」という契約から外れ、「無期限・保留」の扱いへと移されようとしているのだとすれば、それは、彼が持つ証拠――政治家の不正の証拠――の重大性を、銀行の運営側が、あらためて危険視し始めたことを意味する。


つまり、宮村は今、単に身を隠しているだけの状態ではない。


「消される側」へと、切り替えられようとしている。


高城は、寺内の事務所を飛び出した。


雨が、また降り始めていた。


三崎紗季を見つけたときとは、まったく違う種類の焦りが、高城の胸を締めつけていた。あのときは、すでに起きてしまった過去を、確認するだけの旅だった。


だが今回は――まだ、間に合うかもしれない。


高城は、工場跡地で会った、あの女に、もう一度接触する方法を探し始めた。


宮村篤志を、「保留」から救い出すために。


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