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【完結】冴えない妹に転生したので~この家にはおねえさまだけで充分でしょう?だから無能な私は出ていきますね~  作者: 時宮珈琲店
1章 人生二周目を舐めないでちょうだい

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08 マナ測定



 ブロッサムが淹れてくれた紅茶は芳醇な香りがした。味は渋めですこしクセがあるけれど、飲んでいるうちにそれがたまらなくなってくる。

 こんなおいしい紅茶飲んだの初めてです、と言うと隣に座っているブロッサムは笑顔になった。


「そう? あなたなら毎日飲ませてあげるわよ。――そうだ、もう敬語はやめて。同じAクラスの仲間じゃない。私のこともハニー・ビーって呼んでいいわ、みんなそう呼ぶから」

「ハニー・ビー?」

「かわいいでしょう? 私も……あ、あなたのこと……」


 急にブロッサム――ハニー・ビーは言いよどむ。

 きっとこう言いたいのだろうと察し、「なら私のこともルルリって呼んで」と言うと彼女はきれいな青い瞳を輝かせた。


「そ、そう。そこまで言うなら仕方ないわね、特別に名前で呼んであげるから感謝しなさい!」

「……ふふ。ありがとう、ハニー・ビー」


 私には前世の記憶もあるため、そのぶんだけ精神的な年齢がプラスされていると言っていいだろう。肉体的には同年代でも彼女たちのことは年下のように感じられる。

 デレたかと思えばツンツンしだすハニー・ビーは微笑ましい子以外の何者でもなかった。


「じゃあ僕もピーターって呼んでよ。ルルリはいったいどこで錬金術を勉強したの?」

「家よ。自分でお金を稼いで、専門書を買って勉強したの」

「え……じゃあ、ほんとに独学? だれにも教わってない?」

「ええ」

「うわぁ……」


 この『うわぁ』はなんの『うわぁ』なのか。ピーターは眼鏡の向こうの目をぱちぱちさせる。


「カミラは志願者が多いから入試のレベルを高くしてるのに。……独学、かぁ……」

「いつ頃から勉強をはじめたんだ?」と彼の隣にいるダンテが尋ねてくる。


「……去年よ。一年前」

「いっ……」


 ダンテは間違えて石でも飲みこんだみたいな顔をする。ピーターも似たような顔で「うそ? たった一年?」と身を乗りだしてきた。


「え、ええ……」

「んな……アカデミーの生徒は小さいころから錬金術にふれてるか、だれかに師事してるか……遅くても二年前から塾に通って対策するのがふつうだっつうのに」


 そんなにイレギュラーなことだったのか。

 私がいた世界で言えば医学部に独学で勉強をはじめて一年で合格するようなもの?……それはたしかに異常事態かもしれない。


「とんでもない天才が入ってきたもんだな」

「……親も錬金術師ってわけじゃないんだよね?」

「ええ、ふたりとも」

「なんか自信なくすな……」とピーターはうなだれる。ふふんとなぜかハニー・ビーが胸を張った。


「そうよ。ルルリはすごいんだから!」

「なんでハニー・ビーがえらそうなんだよ」

「おいオニキス、そろそろおまえもこっちに……なにやってるんだ?」


 ダンテにつられて私もエンディールのほうを見る。

 彼は調合用のデスクのまえに座り、私が採取してきたばかりのアルケミストの花をナイフで細かく刻んでいた。


「証拠隠滅」

「――え?」

「新入生にひとりで素材採ってこさせたなんてばれたらやばいだろ」


 どきりとしたが、私が考えている意味ではなくそういう意味だったらしい。

「なら私もやるわ」とハニー・ビーが立ちあがったので私も彼女に倣った。みんなでデスクの周りに集まり、素材を混ぜやすいよう粉末状にしたりパーツごとにわけて細かくしたりしていく。


「カミラきっての天才がふたりもそろうなんて」と溶岩石を小型のツルハシで割りながらハニー・ビーが言ってくる。


「ルルリのマナ測定が楽しみだわ。座学も調合も完璧なあなただもの、きっと最高の結果がでるわね」

「……マナ測定?」と割れた溶岩石を彼女から受けとりながら私は尋ねる。


「あれ、聞いてなかったの? 魔道具とか特別なものを錬金するにはマナが必要になるでしょう? だから定期的に図って素質をチェックするのよ」





 この世界の生きとし生けるものはみなマナを持っている。

 これは精神力でもあり生命エネルギーでもある。ここでは主に魔法を使うために消費される。

 研鑽を積めば手ぶらで魔法を使うことも可能になるが、それだとマナを大量に消費してしまうし魔法の威力も安定しない。

 なので魔道具というブースターが必要になる。優れた魔道士には優れた魔道具、そして細かく調整をおこなう優れた錬金術師が必要だと言われている。

 また、魔獣は通常の武器ではなかなかダメージが通らない。ただの剣で一体倒す間に魔道具で十体仕留められると言われている。そのため魔道具の需要は高い。


 マナは天から与えられた才能のようなもので、一定以上は本人の努力で伸ばすこともできるがいつかどこかで頭打ちになる。血筋によるところも大きいそうだ。


 魔獣はこのマナをねらって人間や動物などを襲う。

 もっとも魔獣がいるのは国の外やレネ山など一部の特殊な場所のみだ。魔法だってふつうに生きていくうえでは必要ないので、大半のひとは意識せずに暮らしているのではないだろうか。


 錬金術師になりたいと思うようになるまで、自分にマナがあることを意識すらしていなかった私のように――。





 翌週、本校舎の多目的室でマナ測定がおこなわれた。


 マナを計る装置は置き時計の扉の中に丸い水晶を閉じこめたような見た目をしていて、マナが強ければ強いほど針が大きくふれるそうだ。


 この測定はホームルームクラスごとにおこなわれた。マナに男女の差はないので、出席番号順にみんな装置に手を置いていく。


「おまえいくつだった?」

「俺? 87。おまえは?」


 装置こそ神秘的だけど生徒たちはみんな和気あいあいとしていて、なんだか学校の身体測定を思いだす。似たようなものか。


 ちなみに80~100が一般的な十代の平均。これは二十代にかけて増えてゆき、三十代で停滞、四十代からすこしずつ下がっていく。マナを鍛えればこの限りではない。

 これが平均さえあれば魔道具作りは適正ありとされる。もっとも、秀でた魔道具を作れる錬金術師は倍以上のマナを持っているという話だけれど――


「次。ルルリ・アイスフィアさん」

「……はい」


 ブライト先生が私の名前を呼ぶと楽しそうに雑談していたみんなが静かになった。

 新入生総代で前代未聞のAクラス入りを果たした私のマナがどれほどのものなのか、だれもが興味を持っているらしい。


 私は席を立ち、多目的室の奥に置かれた測定装置に近づいていく。


 自分のマナについて私は()()()()をいだいていた。結果次第ではそれが現実になり、さらに白日の下にさらされてしまう。


 でもマナ測定を回避する上手な言いわけを私は思いつけなかった。入学したばかりなのにサボりは避けたいし、疑惑についてはっきりさせておきたい気持ちもあったから。


「測定装置の上に手を置いて」

「……はい」


 装置のてっぺんに私は手を置く。

 ふつうだったらすぐに針は右に振れる。でも――。


「……?」


 ブライト先生が訝しげな顔をした。「失礼」と言って装置をあらためる。

 ガラス扉を開けて水晶をクロスで拭いたり自分で手を置いたり――針は問題なく135をさして止まった

 彼はたぶん私と同じ十代だろうから平均よりずっと多い――したあとで先生はイスにもどり、「もう一度お願いします」と私に言った。


「……はい」


 私はもう一度装置に手を置く。

 でも結果は変わらない。針は、一ミリも動かない。


「…………」


 ブライト先生は押しだまり、なにがあったのかとざわつきだすクラスメイトを「静かに」といさめてから私に言った。


「調子が悪いのかもしれません。放課後、また計りましょう。いいですね?」

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