05 新入生総代
「聞いた? 九月からの新入生」
カミラ錬金アカデミー。その裏庭にある温室にて。
「入学試験、満点だった子がいるらしいわ」ときつそうな顔をした金髪の少女が言う。
「満点? まさか」
眉を吊りあげたのは銀縁眼鏡をかけた神経質そうな少年だ。
「ああ、筆記か実技のどっちかって話?」と言われ、金髪の少女は首を横に振った。
「両方らしいわ」
「まさか!」
「どこの錬金術師に師事してるんだ? そんなやつがうちに入ってくりゃ話題にならないはずないんだが」
粗野な雰囲気の短髪の少年がふたりの話を聞きとがめる。
「それが」と少女は言った。
「だれにも師事してない。もちろん、親も錬金術師じゃないって言うのよ」
「んなわけあるか」
「そう聞いたんだもの、しょうがないでしょ!」
「なんだ、いつものハニー・ビーの早とちりか」
「ほんとだってば! 私はほんとに先生たちが話してるのを聞いたの!」
「そう怒鳴るな」と慣れた様子で短髪の少年が少女をなだめる。
「だが考えてみろよ。どこかの錬金術師に師事してなければ錬金術師の家系でもない。実際問題、そんなやつがアカデミーの試験で満点を取れると思うか?」
「それは……」
「さすがにおまえの聞き間違いだろ。片方だけでも難しいのに両方満点だなんてありえねえ。──だが、もしそれが事実だったら」
彼は隅のほうにちらりと視線をやる。
そこでは黒髪の少年が片膝を立ててイスに座り、つまらなそうに外を眺めていた。
「オニキスの記録が破られたわけだな。カミラの天才の記録が」
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「今日、カミラ錬金アカデミーに私たちは入学いたします。百年以上の歴史を持つこのアカデミーに入学できたことは私たちにとってなによりもの喜びで……」
古く荘厳な大講堂に私の声が響く。
新入生総代としてのスピーチ。内容は無難極まるもので、どうでもよさそうにしている生徒がいてもおかしくないのにみんな集中して聞いているのが伝わってくる。壁際に並んでいる先生たちもなにか小声でささやきあいながら聞いていた。
「国家錬金術師となり、人々のために尽くしたいという気持ちは先輩方と同じです。実技クラスによっては肩を並べて授業を受ける日もあるでしょう。なにとぞご指導よろしくお願いいたします。そして最後になりましたが、私たちのために入学式を催していただきありがとうございました」
スピーチ台の上で私は頭を下げる。
先生たちはよくできましたというふうに拍手をしてくれたけれど、生徒たちの拍手は戸惑っているような疑っているようなそんな響きを持っていた。
自分の席へともどる私の耳に、だれかがささやいた言葉が入ってくる。
『新入生総代にしては地味じゃない?』──と。
私が入学試験で満点を取ったという話は式が終わる頃にはもう広がっていた。在校生だけでなく、新入生にまで。
「アカデミーにいくら払ったの? 総代さん」
「試験問題をどこで買ったんだ。俺にも教えてくれよ」
ホームルーム教室に帰る中、同じ新入生たちにちくちくと嫌味を言われても私は平気だった。
『持たざる者ほど他人を妬む』とハングマン先生に言われていたから。
『だれかになにか言われても気にしないこと。その子たちはみんなきみの足を引っ張りたいだけだからね』
だから相手にしないようにしていたのだけれど──
私のホームルームクラスは1-1。生徒数は私をふくめて二十二人で、女子よりも男子のほうが多い。担任はブライトという厳めしい顔をした女性の先生だ。
今日は授業はなく、テキストの配布や学園内の施設についての説明で終わる。
「明日からは九時までに着席していてくださいね。それと──」とブライト先生が教室内を見回した。
「このあと、各実技クラスで集まって顔合わせをします。Fクラスは本校舎一階のサロン、Eクラスは二階のサロンへ集まってください。Dクラスは……」
新入生はほとんどがFかEに振りわけられるとハングマン先生は言っていた。だからそのふたつと私のクラス以外は説明の必要はないはずだけれど、ブライト先生は全クラスの集合場所について説明していく。
これは満点合格した私への気遣いだろう。
だって。FとEとAクラスの説明だけしたら、私が一年目から最高クラスに行くのか丸わかりになってしまうから。
「Aクラスは裏庭の温室へ集まってください。なにか質問は?──ありませんね。では、解散」
ブライト先生はちょっとぽっちゃりした、どこにでもいそうな主婦然とした女性だ。その彼女の号令で生徒たちがばらばらに立ちあがる。
「二階のサロンってどこ?」「え? さっきちらっと見かけたじゃん」と入学前からの知り合いらしい女子たちがそんな会話をしていた。
──裏庭、かあ……
どこから行くのが一番目立たないだろう。そんなことを思いながら私も立ちあがろうとしたとき、
がんっ、と机の脚を蹴られた。
「…………」
蹴ったのは隣の席の少年だ。金髪で蛇に似た目をしている。
周囲の注目が集まる中、「で、総代さんはどこのクラスだったの?」と尋ねてきた。
答えたくはない。でも、無言でいたりうそをついたりすれば私の立場はもっと悪くなるだろう。
「……Aクラスよ。それが?」
「Aクラス!」
大袈裟に少年がくりかえし、生徒たちが驚いたようにざわめく。「上位10%にも満たないっていう……」「ほんとに? 新入生が入れるの?」と女子たちがささやいた。
「へえ。そりゃすごい。さすが総代さんだ。Aクラスはじまりなんて前代未聞じゃないか? メッキが剥げないといいな!」
「どういう意味?」
「べつに? 俺はただ、何度も不正が上手くいくとは限らないって言いたいだけだよ」
「不正なんて──」
相手にしちゃいけない。わかってはいるけれど、面と向かって言われると腹が立った。私の一年間の努力なんてなにも知らないくせに。
つい言いかえそうとしたとき「エルガー、どうかしたの?」とブライト先生がやってきた。
「いいえ、なにも」とエルガーと呼ばれた金髪の少年は返す。
「それにしてもがっかりだ。こんな地味な女が新入生総代? 満点合格? つまらないジョークだよな。なあみんな?」
エルガーは周囲を見回し、クラスメイトたちもくすくすと笑った。「やめなさい!」とブライト先生が叱り、みんなあわてて表情を引きしめたけれど。
「エドガー。あなたもはやく集合場所に行きなさい」
「わかってますよ」
おどけたような仕草でエドガーは立ちあがる。
そして肩を揺らしながら教室をでていこうとして、入ってこようとしただれかとまともにぶつかった。
「いてっ!?」
「……ああ、悪い。見えなかった」
扉のところにいたのは黒髪の少年だった。気だるそうな黒い瞳をしている。
一年次でも卒年次でもない中間年次であることを示す青色のネクタイをつけており、着崩した紺色のカーディガンが彼の眠そうな雰囲気に不思議とマッチしていた。
彼は「ルルリ・アイスフィアってだれ?」とエドガーを見下ろして聞く。
「え……」
「だれって聞いてんの」
先輩に聞かれ、緊張した顔でエドガーは私を振りかえった。
彼の視線を追った先輩は「おまえか」と私に言う。せっかくモデルみたいにかっこいいのに、まったく愛想のない声で。
「迎えにきた。行くぞ、集合場所」
「え──」
「Aクラスの」




