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【完結】冴えない妹に転生したので~この家にはおねえさまだけで充分でしょう?だから無能な私は出ていきますね~  作者: 時宮珈琲店
3章 さよなら、私を冷遇したみなさま

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36 こんなところにいても仕方ないわ



 私たちは一階の広間へ移動した。

 エメラさまとコリンソンさんは二階に残った。おかあさまを見張るため。


 長テーブルについた私たちは話をまとめることにした。一部は私が頭の中で補完したけれど。


 私のマナがないのは転生者だからじゃなくておかあさまの呪いのせいだった。

 本来なら弱って死ぬはずが、あまりにも幼いうちにかけられたために抗体のようなものができてしまった。私は死ぬことなく、マナがゼロのまま成長する。


 それをおかしいと思ったのがエメラさま。

 彼は私に呪いを弾く指輪を渡し、弾かれた呪いはおねえさまへ向かってしまった。おねえさまはマナがなくなってしまい衰弱する。


「だからこのことを表沙汰にしたくなかったんだな」とダンテが納得したように言った。


 おねえさまの病を治したい、でも下手に大事になれば自分が娘を呪ったことも明らかになってしまうと悩み、おかあさまは秘密裏にすることをえらんだのだろう。自分の保身のために。


 おかあさまはおねえさまが倒れた原因を自分の呪いにあると気づいていただろうか。自分の行動が一番大事な娘を死においやろうとしていたことに。


 もし気づいてやめていたとしても——私とちがっておねえさまは突然マナを失った。体は適応できず、弱る一方だったはずだ。


 ——もしエリクサーが間に合わなかったら。そう思うとぞっとする。


 エメラさまから指輪を受けとった時点で私のマナは治りつつあったのかもしれない。


 でも測る機会はなかったし、ルネ山の高地に行ったのも単独ではなかったからわからなかった。

 もしひとりで行ったら魔獣に襲われていたかも――。あらためてオニキスに感謝する。


 その裏で(この世界はおねえさまがヒロインの小説の中なので、そういう意味では『表』だけれど)おねえさまと第一王子クレールさまの恋はシナリオ通り着実に進んでいた。


 クレールさまは多情な父親への反抗心から愛人は持たないと決め、妻にする女性は自分で選びたいと考えている。そこに現れたのがおねえさま。


 おねえさまに一瞬で恋に落ちたクレールさまは彼女との結婚を望むけれど、男爵令嬢では第一王子と結婚なんて到底無理だ。


 なので親しいシンフィールド公爵家に事情を説明し、おねえさまを養女として迎えてもらうよう頼んだ。


 ちなみにここまでの間に起きるあざと系ヒロインや突然生えてきた病弱幼なじみとのライバルイベントも見所のひとつなのだけれど、それはおいといて……


 とにかく、ここまでは原作通り。

 シンフィールド家の養女となるのはおねえさまだけ。ルルリは……本編に書かれていなかったけど、おそらく屋敷に残って適当な男を婿にしたのだろう。


 まさか——。

 この家をでられるどころか、公爵家の養女になってしまうなんて。


「これからどうするの?」とハニー・ビーが聞いてくる。私とおねえさまは顔を見合わせた。


「私はしばらく友人のところに泊まるわ」とおねえさま。「シンフィールド家との話がまとまるまで。ルルリちゃんも近いうちに顔合わせしてほしいんだけど、いい?」


「……ええ」

「大丈夫よ。私もまだシンフィールド公爵さまとは手紙でしかやりとりしたことがないけれど、すごく誠実な方だから」


 私は落ちつかなかったけれど、とりあえずうなずいた。

 やがて通りから馬車の音が聞こえてくる。


「……おとうさまかしら」


 馬車は屋敷の前で止まり、サリーが出迎えにでた。

 やがて泡を食ったようにおとうさまが広間に飛びこんでくる。


「お、おい。あれは王家の馬車じゃないのか? なんでうちに——」


 と言いかけて、おとうさまは広間にいるのが私とおねえさまだけではないことに気がついたらしい。変な顔をしている。


 おとうさまはおかあさまの呪いのことを知っていたのだろうか。

 おとうさまは無神経だからきっと感づいてすらいなかっただろう。そうだとしても——


 おとうさまはずっと私のことを無価値な人間として扱ってきた。そのことを許せるわけじゃない。


 私が口を開く前におねえさまが立ちあがる。そしてまだぽかんとしているおとうさまに言いはなった。


「ほんとうはわかっていたのではありませんか?」

「な、なにをだ? モモラ」

「ルルリちゃんのほうがあなたよりも優れていることです」


 ごくりとおとうさまの喉が鳴った。


「だからあなたはルルリちゃんにはなにもさせなかった。満足な教育を受けさせず、ひたすら否定しつづけた。自分の子供が——それも、女が自分より優秀な頭脳を持っていることを認めたくなかったから。

 そうなのでしょう? おとうさま」

「いきなりなにを言ってるんだ、モモラ。父親に向かって」

「今日があなたに父として呼びかける最後の日になるから申しあげているのです。

 ——あなたは最低です。父としても、妻の所業を見過ごしつづけた夫としても。二度と私たちに関わらないでください」


 おとうさまからしたら突然の宣告だ。

「は……?」と唖然としているおとうさまに「わかったらさっさと二階に行ってやったらどうだ」とオニキスが言う。


「あんたの妻は犯罪者として聴取中だ」

「なっ……!?」


 おとうさまはあわてて廊下に飛びだす。階段を駆けあがっている途中でべたんと転ぶ音がした。


 さて、とおねえさまが両手を組みあわせて伸びをする。


「こんなところにいても仕方ないわ。みなさんはもうアカデミーに帰るの?」

「こんなところにいても仕方ないですからね」とダンテが応える。そうねとおねえさまは笑った。


「なら、ルルリちゃんを借りてもいい? 明日の授業には間に合うようにするから」


 三人はなぜかオニキスを見る。


「……そこでなんで俺を見るんだ」

「いいえ?」「べつに」「気にすんな」


「…………」


 オニキスははぁと溜め息をつく。


「ちゃんと帰ってくるならいい。……です。ルルリのこと、よろしくお願いします」


 モモラおねえさまはふわりと笑う。


「ええ、もちろん。ちゃんとあなたたちのところに帰しますからね」

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