31 『宝玉』のありか(2)
※26/07/11
26話~31話まで:一部のシーンをカットしました(話の流れに変更はありません)
幸い、私が叫んでも洞窟は崩れなかった。
「下がれ」とオニキスは骸骨から距離を取り、私を背中にかくまうと剣をかまえる。かたかたと骸骨の顎の骨が音を立てて鳴った。
『警戒せずとも害をなす気はない』
骸骨はどうやら笑っているらしかった。『私は案内人のようなものだ』と彼は言う。
「案内人?」
『ここを訪れたものに、この先になにがあるかを教えるためにいる』
この先。鉄の扉の先のことだ。
「なにがあるんだ?」と剣を下ろさずにオニキスが尋ねた。
骸骨は端的に答える。
『きみたちが求めているものだよ』
「――『宝玉』のこと?」
私の言葉に骸骨はうなずくそぶりを見せる。
『きみたちは運がよかった。今年はちょうど前回から百年目だ』
「前回……?」
『『宝玉』が採取されてから』
百年に一度しか採れないもの、ということか。
それなら隠しておけなければならないのもわかる。権利者は『宝玉』を独り占めしたがるだろうし、これをめぐって争いが起きることも容易に想像がつく。
私の思考を読んだように骸骨が『それだけではないよ、お嬢さん』と言った。
『『宝玉』を封じていたのはその希少さからだけではない。それの成り立ちによるところが大きい』
「どういうことですか?」
『『宝玉』はマナの結晶だ。そして、それは魔獣が生命体を喰らうことで作られる』
私は息を呑んだ。
骸骨の言っていることは――つまり。
「『宝玉』は、人々の命を犠牲にして作られている?」
『そう言い換えることもできる。魔獣にそんな意識はなく、『宝玉』が生まれるのはかれらが生命活動をおこなうことによる副産物のようなものだが、このことがおおやけになったらきみの言うとおりになるだろう』
魔獣は生命体を喰らう。自分たちが生きるため。
その余剰エネルギー――マナはひとつのところへと集まる。それが、レネ山の地底だった。
集まったマナは結晶化して……どんな病も治す薬の材料となる。
このことがおおやけになったら。
『宝玉』を作るため、人々を魔獣の餌にする人間がでてくるということだ。
『そんなことをさせてはならない。だから、『宝玉』の発見者は洞窟の入り口をふさいだ。今回の門番は呪術もちもいたようだな』
「ああ、なんかそんなものもあったな。今回っていうのは?」
『この山はアカデミーの私有地となった。それはとりもなおさず『宝玉』を守護するためだ。アカデミーの創設者はこの秘密を知っていたからな』
秘密を知った以上、放置はできない。
だが個人が山を買いあげようとすれば理由を問われる。そして四六時中山を見張っていたらなにか貴重なものがあるのだと感づかれ、逆効果になってしまう。
ならばいっそ錬金術師の卵たちのための庭として買いとり、自分は学園長となって山を見守っていればいい。
カミラにアカデミーができたのはそんな思惑からだったという。
「――そして、歴代の学園長にその秘密が受けつがれていった。そういうことか」とオニキスが言う。骸骨は笑った。
『察しがいいな。こんなところまでくるのだから当然か』
「でも……そこまでして守らなくちゃいけない秘密なのに、どうしてハーミット学園長はヒントを残すようなことを?」
『門番も様々だ。愚直に秘密を守るもの。研究のために『宝玉』を採取するもの。いっそ洞窟を埋めたてるべきか悩むもの。ヒントを残す人間もいるだろう』
私たちは学園長が本に書きこみをした理由を、ほんとうに『宝玉』が必要な生徒が気づくようにだと考えていた。
でも実はそんなことなくて。
長い歴史の中で、ふいにゲームをしてみたくなっただけなのかもしれない。
「……で? 『宝玉』はふつうに採取していいのか?」
剣を構えるのに飽きたようにオニキスが問う。
『ああ、どうぞご随意に』と骸骨は言う。
『きみたちが秘密をおおやけにするかどうかは私の関与するところではない。それを気にするのは門番だからな』
「わかった」
それだけ聞けば充分というふうにオニキスは扉に手をかける。
だが鍵がかかっていた。「おい」と彼は骸骨をにらむ。
骸骨はかたかたと笑った。
『当然だろう。――なに、たいした鍵じゃない。そこで鍵となる言葉を言えば開く』
「教えろ」
『そうしたら意味がないだろう? まあ、ヒントならやろう。今回の門番もそういった戯れが好きなようだからな』
――ヒントは、『風の錬金術師』だ。
骸骨はそれだけ言うと黙ってしまう。
「ほかには?」とオニキスが尋ねたがもう答える気はないようだった。また元のような物体にもどってしまったらしい。
ここまできて暗号なんて意地が悪い。いや、この先に『宝玉』があるのに鍵もかけていなかったら不用心すぎるけど。
ランプの光が揺らめく中で私は考えこむ。
そうだ、出版社から問い合わせの返事が来ていたっけ。作者は権利を手放していて、いまは出版社が管理している。子孫とは連絡が取れない。作者は双子だった……
双子。
そこではっと閃くものがあった。もし、この扉の解錠コードを決めた人間もそのことを踏まえて設定したとしたら。
謎を解く鍵は、そこにある。




