18 「一緒に王都に行く気はあるか」
ルルリちゃん、お手紙ありがとう。
あなたの努力を盗んだひとがいたなんて許せないわ。でも自分たちで見つけちゃうなんてすごい! 冒険小説の主人公みたいね。
ほんとうのこと言うとね、あなたがアカデミーでうまくやれるか心配だったの。
だってあなたはずっと私の後ろに隠れていたから。……いいえ、隠れさせられていたから。
でもそんな心配はぜんぜんいらなかったのね。
あなたがどんどん素敵になっていくこと、私も姉として嬉しく思います。そのことをたくさんのひとたちが知ってくれることも。
私のほうはこのまえの仮面舞踏会でクレールさまにお声をかけていただきました。信じられる? あの第一王子よ!
もちろんお互いに仮面はしていたし、素性がわかっても知らんぷりするのがマナー。でもルルリちゃんにだけはこっそり教えちゃいます。
男爵家の娘が王子さまと直接話せることなんてまずないもの、心臓がばくばくして口から飛びだしそうだったわ!
ルルリちゃんがいない家はさびしいけれど、そんな感じで私も楽しくすごしています。
だから絶対に帰ってきちゃだめよ。いい? これはおねえさまからの命令です。
なにがあっても、絶対に、この家には
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「ルルリ、一緒に王都に行く気はあるか」
月日は経って、十月。
ようやくアカデミーでの生活に慣れてきたころ、私はオニキスからそう尋ねられた。
「……へっ?」
外は冷たい風が吹いているけれど温室のなかはあったかい。温度調節器は今日も問題なく作動しているようだ。
授業が終わってまっすぐここにきたらまだオニキスしかいなかった。すると、ちょうどよかったと言わんばかりに挨拶もなしでいきなり彼がそう聞いてきたのだった。
「王都――」
王都ハルヴァールはノルフィス家によって治められている都市で、王家が掲げる『錬金術の発展はアルケリア王国から』のモットー通り、錬金術のスペシャリストが集う場でもある。
アカデミーの母体、ロゼ錬金アカデミーがあるのもここだ。"はじまりの錬金術師"と呼ばれるロゼ・フーリッシュの名を冠するロゼアカデミーには精鋭のみが集められていて、各校の推薦を受けなければ受験する資格さえない。
錬金術師の卵にとって憧れの地。そこに行こうと誘われるのはわかるけれど、
「……い、一緒に?」
彼の定位置である、ガラスの壁際に置かれたイスに片膝を立てて座ったオニキスはうなずく。
「俺とおまえで行きたい」
「それって――」
……で、デートの誘い?
王都に行くには魔道列車で半日かかる。ちょっとその辺に遊びにいくのとはわけがちがう。
そこにふたりで行きたいって誘われるってことは、
……まずい。断らなきゃ。王都には行きたいけど、でもふたりきりっていうのは困る。
だって私は恋愛フラグをすべて折って錬金術師の修行に励むことにしている。それっぽく言うなら、折った旗を素材にしてアカデミーでの生活を錬金しているのだ。
困る。デートなんて困る!
でも同じクラスのオニキスの誘いを断ったらこのあと気まずい。上手に断らなくちゃ、と頭をフル回転させていると「手紙の返事がきた」と彼が言った。
「……手紙?」
「おまえのマナのこと。王都にいる知り合いに手紙で聞いて、その返事がこのまえきた」
エメラというその知り合いは王都で図書館の館長をしているらしい。
博識な彼ならなにか知っているかもしれないとオニキスは彼に手紙を書いた。返事には『心当たりはある。でも僕はタダ働きはきらいだ。教えるかわりに、実際にその子を見てみたいから連れてきてくれ』と書かれていたという。
「だからついてきてくれると助かる」
「最初からそう言ってよ……!」
デートに誘われたのかと思った。恥ずかしい。
でも相談したときは『なにかのついでに探しておいてやる』くらいのことしか言ってなかったのに、知りあいに手紙をだしてくれてたんだ。……やっぱりいいひと。
「……なににやけてる」
「いえ、なんでも」
私は気を取りなおして、
「でも、行くって言っても日帰りで帰ってこられる距離じゃないわよね?」
「だから再来週の連休を使っていく」
再来週の月曜はカミラアカデミーの創立記念日で祝日になっている。土曜の午後と日曜はもとから休みなので、二日半の自由時間があるということだ。
それさえあれば充分帰ってこられるだろう。
「おまえのマナがないことは秘密だ。だからふたりだけで行こうと考えてるけど、もしおまえが不安なら――」
「不安なんて」
オニキスは十代とは思えないほど大人びている。
たぶん王都に一泊してから帰ってくることになるだろうけど、部屋は当然べつだろうし、不安に思うようなことはなにひとつとしてないはずだ。……デートの誘いかと勘違いした私が言うのもあれだけど。
「オニキスとなら大丈夫よ」と私が言うと、「ならチケットと宿の手配を進めておく」と彼はうなずく。
そこで気づいた。
「私、その……あまり持ちあわせが」
「そんなこと心配しなくていい。俺が払う」
「でも!」
「奢るわけじゃない。立て替えるだけだ。おまえが一人前の錬金術師になって金を稼げるようになったら返してくれればいい」
一人前どころか私は後期の試験をパスできるかもわからないのに。
オニキスの言葉に唇を噛みしめる。
「それよりこっちのほうが重大だ。王都に行くなんてハニー・ビーたちに感づかれたらうるさいから内密に――」
「……私がなぁに?」
突然後ろから聞こえてきた声に私たちは飛びあがらんばかりに驚いた。振りかえると両手に腰をあてたハニー・ビーが頬をふくらませている。
「私が入ってきたことにも気づかずになんの話? 王都がどうとか聞こえたけど?」
「え、ええと、これは――」
「…………」
どうにかごまかして、とオニキスを見ると彼は頭をかかえている。
いやもうちょっとがんばって! あきらめないで!
「でかけるの?……私ぬきで?」
「ちがうわよハニー・ビー、そういうわけじゃ――」
「じゃあ私も王都につれてって! つれてってくれないともうふたりとは口きかないからね!」
小学生じゃないんだから……。
彼女をなだめているうちにピーターとダンテもやってきて、「なんの騒ぎ?」「王都がどうかしたのか?」とふたりも興味をしめす。
私のマナがないことは隠しておかなくてはいけない。かれらには話していい気もするけれど――まだどうなるかわからないし、余計な心配はかけたくない。
でも、それを隠しておくためには私とオニキスがふたりででかける理由を考えなくちゃいけないわけで……
私も白旗を挙げた。
「……サプライズで三人には話そうと思ってたのよ」
「なんだ、そういうことならいいわ!」
「王都か。行くのは久しぶりだなぁ」
とたんに機嫌を直して目をきらきらさせるハニー・ビーと、どうやらごまかされてくれたらしいピーター。
ダンテだけは気遣うように私とオニキスにだけ聞こえる声でささやいてきた。
「……大丈夫か? ふたりで行く計画だったんじゃないのか?」
オニキスは小さく溜め息をつく。
「いいよべつにここで話した俺も悪かったし適当に飯でも食って帰るから」
「行く前から投げやりにならないで……!」




