15 実技テスト、当日
そして翌日。私たち一年次は大ホールに集められる。
中間年次以降は進路により取っている授業がみんなばらばらになるので授業に応じて部屋を移動するそうだけれど、一年次はみんな一緒の時間割なのでまとめておこなうとのことだ。
ずらりとならんだ長テーブルには天秤と試験管、マッチ、アルコールランプ、すりこぎやナイフなどが一通りそろえられている。テーブルの下には木箱がふたつ。そして他人がなにをしているかわからないよう左右と前方に仕切りがあった。
使うテーブルは当日割りふられる。私は自分の出席番号が貼られたテーブルを探し、先生の指示があるまでイスに座って待つ。
試験監督はブライト先生と面識のない先生ふたりだった。
ブライト先生はマイクを通して「みなさん、聞こえますか? 聞こえたひとは仕切りより高く手を挙げて」と呼びかける。全員の手が上がったことを確認したあと、「では試験の説明をします」と言った。
「テーブルに一枚の紙がありますね。表にしてください」
言われたとおりにするとそこには『初級回復薬』や『やけど専用軟膏』など錬金術で作れるものがずらりとならんでいる。ぜんぶで十二個。
下にいくほど作成難易度は高くなっていく。最後の『クォーツ・ウォッチ(置時計タイプ)』はレシピを知っていても完璧に作るのには困難を極める。
――試験時間は三時間。まさか、これをぜんぶ作れっていうの?
生徒たちのざわめきが広がっていく。「静かに」とブライト先生は言った。
「そこにならんだお題に決まった配点はありません。たとえばの話ですが、『初級回復薬』の作成に失敗して減点されたとしても次の『やけど専用軟膏』を上手に作れば差し引きでプラスになります。そしてすべてのものを時間内に作るには熟練の錬金術師でもなければ難しいでしょう。
もちろん失敗しないことも大事ですが、自分がどのお題に向いているか取捨選択が大事です。
すべて作らなくても最高のSランクを取ることはできます。なにをどんなふうに作るべきか、作成に移る前によく考えてください。
錬金術師には見極めも必要な能力です。自分のレベルを超えたものを作ろうとしても失敗は免れませんし、場合によっては大事故に繋がる可能性もありますから。
これは自分のレベルをあなたたちがどこまで客観的に把握しているかのテストでもあります」
みんながお題リストをにらみつけてなにを作るか考えているのがわかる。不得意なものは後回しにするか、いっそ手をださないのが賢明だろう。
……エルガーも同じようにしているのかしら。
私のレシピノートにはすべてのお題について書かれている。材料も、手順も。
どこの席にいるか知らないけど、ほくそ笑むエルガーの顔が脳裏に浮かんで私は歯ぎしりした。
――いやいや、あんなやつのことを考えたって仕方ない。気持ちを乱したらあいつら兄弟を喜ばせるだけ。いまは自分の試験に集中しなきゃ。
私は息を吐きだし、上からお題をひとつひとつ見ていく。三時間という短い時間のなかでやるとしたら……
「材料と容器はすべて足元の木箱に入っています。必ず使うものもありますし、どのお題でも使わないものもあります。判断は自分でおこないなさい。また、材料一覧は箱の裏に貼ってありますので不足がないか試験時間の中で各自確認するように。
なにか質問は? ありませんか?――では、」と先生が懐中時計を確認する気配がした。「あと五秒ではじめます」
きっかり五秒後に聞こえた「はじめ」という号令を聞いて私はお題リストをテーブルに置いた。自分の得意不得意で分けた結果、作るものはもう決まった。
まず最高難易度の『クォーツ・ウォッチ』を完璧に作りあげて。
残りの時間であとのものを作っていこう。下から順に。すべて。
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エルガーはにやつきを隠せなかった。
リストには授業でやっていないものもある。ブライトのババアは陰険だからこうやって生徒の熱量を見極めるのだ。授業時間外も進んで勉強しているかどうか。
本来のエルガーのノートには抜けが多い。
錬金術師は簡単に大金を稼げると聞いた親にそそのかされて地元の錬金術師がやっていた塾に通った。そこではエルガーは優秀だったので自分でもその気になっていたものの、いざカミラアカデミーに入ると授業にはどんどんついていけなくなり、そのうち真面目に書き写す気がなくなった。
でも単位を落としたなんて聞いたら親は激怒するだろう。だから適当なクラスメイトにノートを写させてもらって試験だけはなんとかこなすつもりだった。でも――
『もっといい方法があるぜ』
兄のエドバートはそう言った。彼は古道具屋で強力なマナがこめられた魔道具のナイフを偶然見つけ、今回の計画を思いついたのだという。
『これならレネ山のロープを切ってひと騒ぎ起こせる。
カミラの天才さまと新入生総代さまに痛い目を見せてやりたいだろ? どうだ?』
兄の計画に乗ってよかった、とノートをめくりながらエルガーは思う。
ふつうのクラスメイトのノートにはここまで書かれていなかっただろう。あのいけすかない女のノートを盗んでよかった。エドバートが証拠が残らないように盗んだノートは燃やして処分しろというから、ぜんぶ書きうつすのは大変だったけど。
――あの女のおかげで俺はSランクを取れる。
そして、と試験監督の先生が近づいてきたのでにやついた口元を手で覆って隠しながらエルガーは思った。
――レシピノートをもう一度完成させる余裕なんてあいつにはなかったはずだ。あいつは不完全なノートでこのテストに挑戦しなくちゃいけない!
――どうだ? おまえにSランクが取れるか?
――俺はおまえのレシピで取ってみせるけどな!
エルガーはノートを開いてテーブルに置く。
そこには『クォーツ・ウォッチ』のレシピが書かれている。作成の際の注意点まで書きこまれていた。
まずは最高難易度のこれを見事作りあげてブライトに一泡吹かせてやる。態度が悪いと俺をばかにしてるクソババアに。
そのあとは適当に作っていく。これだけでもSランクは取れるはずだが、ババアたちを喜ばせてやるのも悪くない。
ルルリ・アイスフィアは今頃頭をかかえているだろう。そう思うと口元がゆるんでゆるんで仕方ない。
実技はノートの持ちこみ可と聞けばだれもが自分の頭で覚えるのをやめる。あの女だって同じはずだ。そのノートをなくしたいま、ひょっとしたらあいつはこのテストで最低ランクしか取れないかもしれない。
新入生総代さまがFランク。いい気味だ。
そして、とエルガーは思う。
みんな思いしるはずだ。ほんとうに新入生総代になるべき人間が、だれだったのかを。




