13 必ず罰は受けてもらうわ
ぞろぞろと教員室に行っては目立つ。なのでここは年長のダンテ、冷静に事態を把握できるエンディール、そして先生に受けがいいらしい私の三人で行くことになった。ハニー・ビーとピーターは工房の片づけをしながら待機。
工房が荒らされていたことを知っているブライト先生がいてくれれば一番よかったけれど、先生たちはみんなばたばたしていて教員室を出たり入ったりしている。ブライト先生も見当たらなかった。
じゃあだれに相談するかと私たちは顔を見合わせて――
「おや、本日大活躍だったみなさん。どうしました?」
ハングマン先生に話しかけられたのだった。
彼は結界の修復に向かったひとりだ。ロープの状態についても知っているはずだから話をするには都合がいい。
ダンテは「先生、大事なお話があります」と先生に向きなおって言った。
「それは今回の事件の報告書よりも大事なお話ですか?」
「はい、おそらく。もしかしたらその報告書に足すことになるかもしれません」
「……なるほど」
先生はあごに手を当て、「ならそこの生徒相談室で話しましょう」と私たちをいざなった。
相談室はソファセットとミニキッチンがあるだけの簡素な部屋だ。
私たちを代表してダンテが話をはじめ、聞いているうちにハングマン先生の顔が険しくなっていく。
「――部屋が荒らされ、あなたたちのノートが持ちさられた……」
「自分たちはこれを偶然だと思っていません。犯人が結界を壊して魔獣を逃がし、その際の混乱に乗じて自分たちの部屋を荒らしてノートを持ちさったのではないかと考えています。試験前のこの期間ならノートを持ちよって自習するのはふつうのことですし」
ハングマン先生はよくわかるというふうにうなずいた。
「そうですね。きみたちが鍵をかけずに工房をでていくのを見て思いついたとするよりもそっちのほうが説得力があります。なにせ、ロープはきれいに切断されていたのですから」
「――え、」
ロープの切断。それは私たちの推測を裏づけるものだったけれど、いざ先生の口から聞かされるとどきりとする。
今回は犠牲者なしで済んだ。でも一歩間違えばだれかが命を落としてしまったかもしれないのだ。
冗談で済まされることじゃ、ない。
「アカデミー側はこのことを重く見ています。けがをした生徒がいなかったからそれでいいでは済まされない。犯人を見つけて相応の対応をしなければまた同じことが起きるかもしれませんしね。
ぜひ共同戦線といきましょう。あ、もちろん内密にですよ?」
「内密にと言いますが、範囲は」とエンディールが聞く。
「教員には話を通しておきます。生徒にはけして口外しないでください。ロープが故意に切られたことも、我々がその犯人を捜していることもです」
私たちはうなずく。――もっとも、先生たちが犯人を捜しているというほうは偶然的を射ていた噂として広まってしまうのだけど。
ハングマン先生はふうと溜め息をつく。
「しかし、やってくれましたね。たしかにアカデミーでもっとも優秀なきみたちのノートを入手すれば前期試験は格段に楽になる。ですがここまでするとは」
犯人は私たちの知識がほしかっただけでなく、私たちの邪魔もしたかったのかもしれない。
はっきり言ってホームルームクラスでの私の居心地は悪い。ブライト先生は私を目にかけてくれているけれど、それが余計に周囲の反感を買っているのは否めないし。
ひとあたりのいいダンテはともかく、気が強いハニー・ビーやそっけないエンディールが周りとうまくやれているか確信はなかった。
でもそんなことわざわざ口にだすことじゃない(ピーターがいたら言っていたかもしれないけど)。
ほかに報告はないことを悟り、「では、なにかわかったら教えてください。ただきみたちは来週からの試験のほうを優先してくださいね」とハングマン先生は言ってソファから立ちあがった。
私たちも工房にもどり、口喧嘩をしながら掃除をしていたふたりに先生との話を報告。
「なんだよそれ」「なによそれ」とふたりは口をそろえた。
「ほんとにわざとロープを切ったっていうの?――ふざけてるよ。そりゃ錬金術師にとってレシピノートは命と同じくらい大事だけど、それで関係ないひとたちを巻きこむなんてありえない!」
「ほんとよ。ノートを見せてほしいのなら素直にそう言って頭を下げればいいんだわ。どの愚民がやったのかしら!」
ぷりぷりするふたりをダンテが「落ちつけ、まずは試験だ。これで俺たちが点数を落としたら犯人の思いどおりだからな」と抑える。
わかってるわよとハニー・ビーはほうきを振った。
「絶対に見つけだしてこんがり焼いてやるんだから。……ほんとに許せない」
「ハニー・ビー。大丈夫?」
これから私たちがすることは犯人捜しと試験対策。
まずはハングマン先生が言っていたとおり来週の試験だ。でも工房を荒らされてノートを盗まれたばかりで自習しようという気分にはさすがになれず、危険なガラスの破片だけは徹底的に片づけてから解散となった。
工房をでた私はさっさと歩いていくハニー・ビーを呼びとめる。同性だからというわけじゃないけど、彼女のことが特に心配だった。
「なに?」とハニー・ビーは澄ました顔で振りかえる。
「大丈夫よ。べつにひとりひとり脅して吐かせようなんて思っちゃいないわ」
「そうじゃないわ。あなたは大丈夫かって聞いているの」
「……ああ。工房を荒らしてノートを盗まれるっていう、しょうもないいやがらせをされて大丈夫かって話?」
ハニー・ビーはふんと鼻で笑った。
「平気よ、なにも気にしてないわ。ノートを水溜まりに落とされて中身を読めなくされたことだってあったもの。試験直前にすりかえられたこともね。こんなのいつもと同じ。慣れてるわ」
「そんな……」
「持ってるものは持たざるものに妬まれるの。言ってみれば勝者税よ。私は生まれも恵まれていれば容姿も頭脳もすぐれているでしょう? つまり勝者側なの。だからなにも持ってない敗者たちに妬まれて当然。払うべきものを払ってるだけ。気にしてないわ」
でも彼女は震えていた。荒らされた工房を目のあたりにし、ノートがないと聞いたときに。
気にしてないはずない。平気なはずない。「ハニー……」と彼女の名を呼んだとき、「そうだよ」と背後からピーターの声がした。
「こんなの頭の悪いやつらの浅知恵さ。無能ほど余計なことをするんだ。気にするだけ無駄ってやつ。——ルルリ、きみもさっさと慣れたほうがいいよ。こんなことでいちいち傷ついてたらやってられない。相手にしちゃだめだよ。切りかえていかなきゃ」
——ピーターまで……。
ふたりはばらばらに歩きさっていく。その背中は言葉とは裏腹にいまにも泣きだしそうで、私は声をかけることができなかった。
表にはだしていないけどダンテとエンディールだってショックだっただろう。みんなの居場所である工房を荒らされ、いままでの努力の結晶を盗まれたのだ。しかも自分たちが学園を守っているあいだに。
かれらはふつうの十代だ。こんな理不尽に慣れるなんて絶対にあってはいけない。
私は自分の手を握りしめる。どこのどいつだか知らないけど、と。
——みんなを傷つけた罰は受けてもらうわ。必ず。




