12 Aクラスの実力
「――すごい……」
戦闘は一方的だった。
まずエンディールが自分めがけて飛びかかってきた魔獣を切りつけ、一閃。倒された魔獣は黒い霧となって消えていく。
仲間があっさりやられたのを見てほかの魔獣がひるんだ隙に「食らいなさいな!」とハニー・ビーが炎の球をワンドから放出する。そしてピーターが「ばかだろ!? もっとよくねらって打たないと山火事になるじゃないか!」とあわててワンドを振ってハニー・ビーが火をつけた辺りに雨を降らす。
「ふたりともなにをやってんだ……」と炎と雨でパニックになって襲いかかってきた魔獣の爪をダンテが剣で受けとめ、腹を蹴り飛ばし、頭に剣を突きたてる。
その間にもエンディールは次々と魔獣たちを剣と氷魔法で仕留めてゆき――。
「どうもどうも、やってますね」
「最後にロープをチェックしたのは俺だぞ……。減給……停職……いや、ひょっとしたらクビに……」
あっけに取られてかれらが戦うところを見ていたら後ろからふたりの男性の声がした。
片方はハングマン先生。もう片方は私が取っていない授業担当の先生らしくあまり見覚えがない。黒縁眼鏡になでつけた金髪、くたびれたスーツ姿と髪色さえ除けば日本のサラリーマンみたいだ。ハングマン先生と一緒にきたということは彼がタトー先生か。
タトー先生は黒いワンドを持っているけれどハングマン先生は手ぶらだ。ポケットに入るサイズの魔道具なのだろうか。
ハングマン先生は「だれもけがはしていませんか?」と私に問いかけ、私がうなずくと「それはよかった」と微笑んだ。
「エサの生徒はまだきていませんか。魔獣を分散させたくないのですが……」
「エサ……?」
「おっと失言です。いまのは聞かなかったことに。では、ここはきみたちに任せて我々は境界の修復に行きます」
「――あ、先生! いまは」
「次から次へとうっとうしいっ! まとめて焼肉にしてあげるわ!」
エンディールたちは強いけれど、魔獣は際限なく山から下りてくる。それにしびれを切らしたハニー・ビーがワンドを高く振りあげ、ピーターたちの制止も聞かずに思いっきり振りおろした。
バレーボールくらいあるサイズの火球が飛んでいく。登山道に向けて歩いていたハングマン先生とタトー先生ふたりのほうに。
「――えっ? せんせ、なん、えっ、あっ」
ハニー・ビーが血相を変えたときにはもう遅かった。火球はハングマン先生の顔面にぶつか――
――る、寸前でかき消えた。見えないブラックホールに飲まれたかのように。
ハニー・ビーはぽかんとする。
「えっ……」
「……ブロッサムさん。あなたの炎魔法はすばらしい。ですが冷静さを欠いていては自分も周りも傷つけるだけです。焦らなくていい、ゆっくりやりましょう」
「は、はいっ」
「特別手当つきますかねー、これ」
「そのまえに俺のクビを心配してくれ……!」
子供が生まれたばかりなんだぞとかこの場に合わないことを言いながらタトー先生とハングマン先生は山を上っていく。かれらを襲う魔獣は一瞬で葬られていた。
途端に楽になった戦闘の合間、エンディールがぼそりとつぶやく。
「……あのひとたちだけでなんとかなったんじゃないのか」
+++
事態は三時間ほどで収束した。
私たちのところにやってきたマナの高い生徒につられて集まってきた魔獣をエンディールたちは一体一体確実に仕留めていき、やがてその数がすくなくなっていく。
――先生たちが境界を修復したんだ。
魔獣をすべて倒しきるころに先生ふたりが帰ってきた。生徒たちは「やったんですね!」「お疲れさまでした!」と駆けよったけれど、なぜかふたりは浮かない顔をしていた。
その理由について、じきにある噂が流れるようになる。
【ロープは偶然切れたのではなく何者かに故意に切られた。先生たちはその犯人を捜している】
そして事件の余波はもうひとつあった。
魔獣たちを片づけ、誇らしい気分のAクラスのみんなと私が工房に帰ると――そこはひどいありさまだった。
「なに、これ……」
棚の書物はすべて床にぶちまけられ、デスクの天秤や作りかけの薬もすべて床になぎはらわれている。作りおきしていた薬も瓶が割れて中身が零れている。テーブルはひっくりかえり、ソファは横倒しに。カーテンはなぜか隙間なく閉められていたけれどそれがかえって不気味だ。
魔獣が、と思ったけれどかれらは生物を食らう。無機物を荒らすようなことはしない。
それにかれらはすべてエンディールたちが食いとめたはずだ。一体たりとも建物内に侵入はしていないはず。
これをやったのは人間。
じゃあ、いったいだれが。
呆然としていても仕方がない。私たちは――教員室に行く途中で出会ったからという理由だけど――ブライト先生に事態を報告してから部屋の片づけをはじめた。エンディールが聞いていたけど、ほかに同じ被害に遭った部屋はなかったようだ。
片づけの途中、ハニー・ビーが泣きそうになっていたので私は彼女の背中をさすった。ハニー・ビーは私に抱きついてきてすすり泣く。
ここは彼女たちの大切な居場所だ。なのに荒らすなんて……。
普段は鍵をかけているけれど、あの非常事態だ。だれもそんなことに思いいたらなかった。
そこで私の頭に疑念がよぎる。
――これは、偶然?
――魔獣騒ぎでだれもいないときに部屋に入られたのは、ほんとうに偶然……?
その疑惑は「あれ?」というピーターのつぶやきによって確信に変わった。
彼は首をかしげると、もとにもどしたテーブルの下を覗きこむ。
「なにをやってるんだ」とダンテが気づいて問いかけた。
「いやさぁ……。ここにあったはずのノート、見つからないんだよね」
「え?」
「僕のだけじゃない。ルルリのも、ダンテのも。オニキスとハニー・ビーはどう?」
私たちはノートの捜索にあたったけれど一冊たりとも見つからなかった。ここに置いてあったものは、授業用ノートも錬金のレシピをまとめたノートもすべて持ちさられていた。
「やだ……なんで……」
私は青ざめているハニー・ビーの肩を抱きながら思考する。
――部屋を荒らした人間とノートを持ちさった人間は間違いなく同一人物だろう。問題は。
犯人が魔獣を解き放つことまでしたかどうか、だ。
ふとエンディールと視線があう。自分も同じ考えだということをしめすようにうなずいてみせたので、私はみんなに言った。
「先生たちと協力して犯人を突きとめましょう。
今回の魔獣騒ぎは偶然じゃない。おそらく、犯人はノートを盗むために結界を壊したと思われます」




