第六話 久夜一族
その昔、久夜一族という優れた退魔の一族があった。その飛びぬけた能力は、都でも知らない者はなかった。
その力には秘密があった。
久夜一族は退魔の力を追い求めるあまり、その身に怪異の核を取り込むという術を行っていた。
そう、由一が編み出した穢術が、怪異の核を用い、武具にその怪異の持っている能力を封じる技なら、それを己の身体に施術するのが、久夜一族のしてきたものだった。
それは赤子の頃から行われた。
怪異の核に負けて死んでしまう者も少なくはなかった。当然、生きている者は、それを克服してきた者ばかりだ。
その能力を高める為、一族の間で交わり子を成してきた。そして生まれてきたその子らにも、穢術を施す。その子らが交わり子を成す。
これを何代にも渡って続け、超人的な能力を得て来た一族だった。
だが、その代償もまた、彼らの身体に現れていた。
いつしか久夜の者は、破魔の水鏡に姿を映すと、異形の姿として映るようになっていたのである。
そのため、久夜の者は独り立ちする際に、「鏡返し」の技が施された破魔の水鏡を持つようになった。
この鏡を身に着けていれば、他者が破魔の水鏡を用いて、久夜の者の真の姿を映し見ることができなくなるからである。
醍醐天皇の頃、都に鬼が出て、公家衆を震え上がらせた。
その鬼を見事退治したのが久夜であった。これを契機に久夜は、京で一番の退魔師と謳われる様になる。
そして、ついに久夜家の娘が宮中に召し上げられ、天皇の寵愛を受ける事となった。
娘は懐妊し、無事に出産した。
だが、生まれてきた子供は、異形のものの姿かたちをしていた。
この時、初めて判明した。
久夜の血を持たぬ男が久夜の女に子を産ませると、異形のものが生まれるのだということが。
一方で、久夜の男が久夜の血を引かぬ女に子を産ませても、このようなことは一度も起こらなかった。
その産まれた異形は、正しく狼の様な大きな口を持った真っ赤な鬼だった。
生まれるや否や、周囲にいた者に襲い掛かり、次々と喉笛を噛み切って行く。
瞬く間に、出産の手伝いをしていた三人の女房を殺してしまった。
隣の間に控えていた久夜の者が、女房達の悲鳴を聞くや否や出産の間に飛び込むと、その小さな悪鬼の首をはねた。
その首は宙を飛び、鬼の母である久夜の娘の首に食らい付き、食いちぎると息絶えた。
この事件をきっかけに、朝廷は久夜家を断絶させ、その名を退魔の家系から消した。
久夜の者達はその後、散り散りになり、時代の表舞台から姿を消した。
だが、久夜の者達は名を変えながら、ひっそりと生きていた。
そして、その血を絶やす事なく、一族で交わりながら他の家々に入り込んでいった。
元々能力が高く狡猾な一族の者達は、奉公人として狙った家に入り込みながら、徐々にその家の者になって行く。
気が付けば、元々の者達は、久夜の者達に駆逐されてしまい、その家ごと乗っ取られてしまうのだった。
その一つが、景雅の深見家であった。
今では深見家本来の血筋は絶え、久夜の血筋の者達のみとなってしまった。
そして、深見を手に入れた者達の次の狙いが、退魔師の名家である神代家だった。
そんな頃だった。
浜守清磨という破魔鍛冶師が、久夜の力に似た能力を持つ破魔武器を作っているらしい――そんな噂が、各地で暗躍する一族の者たちの耳に入らないはずがなかった。
その噂は、各地に潜伏する久夜一族の主だった者たちの耳にも届いた。
やがて一族の者たちは、このことについて密かに話し合うこととなった。
先ずは事実を確認するべく、浜守家と懇意の神代家に潜っている景雅に、その役目が任されたのだった。
そして、実際に清磨の鬼寄せの槍を手に取った景雅は、その秘められた能力は恐らく本物であると確信した。
景雅の報告を受けた久夜一族の主だった者たちは、しばし言葉を失った。
それは、これまで一族が幾代にもわたって積み重ねてきたものを、根底から覆しかねないものだった。
怪異の核を己が身に取り込むことで、退魔師としての力を高める――それこそが、久夜一族が長きにわたり続けてきた術であり、一族を一族たらしめている力でもあった。
それを、武具に施すことで再現する。
もし、それが誰にでも扱えるものならば。
『鬼寄せ』は、久夜一族の存在そのものを脅かす。
やがて、一族の主だった者たちの間で、一つの結論が出された。
浜守清磨を抹殺する。
そして、世に存在する鬼寄せの武器を、一つ残らず消し去る。
それが、久夜一族の力と存在意義を守るために必要なことだった。




