↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浜守物語ー破魔の系譜ー清磨編  作者: 末席にゃんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/24

第二十話 ある村の言い伝え(一)

その昔、ある村に怪異が現れた。

それは毛が無い鼠の様な姿をし、顔が巨大な鬼灯の萼(がく)の様で、身体は一軒の屋敷程もあり、薄桃色の皮膚は皺だらけで、その間から黄褐色の汁が滴り落ちていた。

ぼとぼとと地面に零れ落ちる汁は、辺りに甘い芳香を放った。

その香りは、なぜか村の男のみを酔わせ、正気を失わせた。

放心した男達は、ふらふらとその怪異に近付いて行く。

すると怪異は、鬼灯の萼の様な顔を大きく開いた。

顔全体が巨大な口だったのだ。

その大きな口で、次々と近付く男達を飲み込んでいった。

当然、村は大騒ぎになった。

怪異は村のほぼ中央にある広場に居座り、寄ってくる男達を片っ端から平らげた。

まだ正気を保っていた男達は、鼻と口を布で覆い芳香から逃れた。

無事だった村民は、裏山へ逃げた。

人々は村を放棄する以外方法が無いのだろうかと悩んでいた時、一人の若くて美しい妖術師が現れた。

その艶やかで真っ黒な髪の毛は真っ直ぐ腰まで延び、大きく切れ長な瞳は妖艶な光を宿している。

黒い紅を引いた唇、時折ちらりと真っ赤な舌が覗く口、頬は抜けるように白かった。

巫女を思わせる白と赤の装束を身に着けていたが、何処か禍々しく感じられた。

妖術師は、身体が透けて見える、熊ほどの大きさの黒い犬を三頭連れていた。

その姿は、何処か危うく揺らめく陽炎の様であった。

「私があの化け物を捉えて差し上げましょう。その代わり、見返りは頂きますが宜しくて?」

妖術師は、村人全体を見渡しながら言った。

すると、白髪を後ろで束ねた老人が答えた。

「儂はこの村の長だ。儂らを助けてくれるなら、村にあるもの何でもくれてやるわ」

それを聞いた妖術師は、血の色をした舌で唇を舐めると、目を細め微笑んだ。

「今の言葉、忘れぬでないぞ!」

そう言うと三頭の朧な大犬と共に、飛ぶ様な早さで怪異のところへ移動した。

そして、鱈腹男達を喰って満足している怪異の前に立った。

妖術師が両手を左右に広げると、何処から出て来たのか、人の大人の胴程もある太い大縄が現れ、両側でとぐろを巻いた。

その左右の大縄の端を、二頭の朧な大犬が咥え、怪異に向かって走り出した。

そして見る間に、その大縄を二頭が交差しながら、怪異の身体に巻きつけて縛り上げた。

残った三頭目の大犬が、これまた何時出したのか妖術師の正面に現れた大縄の端を噛み、鬼灯の萼の様な顔に縄を巻き付け縛り上げ、口が開けない様にした。

ここまでの事を、妖術師はいとも容易くやってしまった。

怪異は身を捩るも、自由に動く事は出来なくなった。

これを見た村人達は歓喜し、村に戻って来た。

村の長は妖術師に駆け寄り、その抜ける様に白くか細い両手を取った。

そして、見た者すべての生気を奪いそうな美貌を見つめた。

「これはなんとお礼を言えば良いのか。本当にありがとう御座います」

そう言って、長は深々と頭を下げた。

「私との約束は覚えているわね?」

妖術師の大きく透き通った瞳が、一瞬、爬虫類の目に変わった様に見えた。

「それは勿論です。何もない村ですが、欲しいものを言って下され」

長はやつれた顔に笑顔を浮かべて答えた。

「では、この村を頂くわ」

長は口をぽかんと開け、あっけにとられた。

「村をか…」

妖術師は可愛らしく微笑むと、目を細くして長の額に自分の額を押し付けた。

長が余りの美貌を間近にし、生唾を呑んだ。

妖術師が長の顔に息を吹きかける様に言った。その息は甘い香りがし、長の脳髄を痺れさせた。

「そうよ。村を頂くのよ。あなたは今日から私の下僕ね」

そう言って、長の鼻先をちろりと舐めた。

長は顔を上気させて、その場にへたり込んでしまった。そして、すっかり魅了されてしまった。

その後、長は村人全員を集め、妖術師から渡された丸薬を全員に配った。

黒い大豆程の大きさの丸薬を大人子供の隔てなく渡し、これを呑んでおくと怪異の毒に当たらずに済むと説明し、妖術師の目の前で全員に呑ませた。

丸薬を呑んだ男達は、怪異の体液の芳香を嗅いでも平気になった。

だが、丸薬を呑んだ村人達全員が妖術師の虜となり、忠実な僕となってしまった。

この村の裏山には、昔から広い洞窟があり、その中に村の守護神を祀った小さな祠があった。

妖術師は村人達に、その祠を取り壊し奥を広げ、怪異の牢屋を作らせた。

そして怪異を牢屋に移動させる為、二頭の朧な大犬達が身体を縛り付けていた大縄を解き、顔に巻かれた大縄の端を咥えた一頭の朧な大犬が怪異を引いた。

縄を解いた二頭の朧な大犬が、怪異が蛇行しない様左右に寄り添った。

妖術師が先頭になり、横笛を吹きながら洞窟へ導いた。

怪異に目は無かったが音は聞こえる様で、その笛の音の後を追うように歩いた。

怪異を牢に入れ、顔を縛り付けていた大縄を解いた。

怪異は暴れもせず、その牢屋で大人しくしていた。

妖術師の丸薬を飲まされた村人達は、既に怪異の毒への耐性を得、忠実な下僕と成り下がっていたが、更にもう一つの大きな変化が現れた。

それは満月の夜になると、村人達は激しく発情し、誰彼構わず交わり始める様になった。

一晩中相手を変えながら交わった挙句、朝になるとその発情は治まり、翌朝まで死んだ様に眠りに就く様になった。

村ではそれまでよりも、子が産まれる様になった。

そして産まれて来た子供が男子であれば怪異に喰わせ、女子であれば丸薬を飲ませ下僕にし育てた。

怪異は産まれたばかりの男子を喰うと、どろどろとした深い青色の汁を体中の皴の間から溢れさせた。

その深い青色の体液を、妖術師は朧な大犬を使い残さず集めた。

集めたその液体を煮詰めて飴状にし、更にそれを砕いて粉末にした。

そしてそれに、まだ煮詰めていないどろどろの深い青色の汁を混ぜ、大豆程の大きさに丸めて丸薬を作った。

この丸薬は自分の為の物で、これを服用すると妖力が増し老いる事も無かった。

村人達を操る丸薬は、普段怪異が分泌している黄褐色の体液を元に作っていた。

そうして年月が過ぎてゆくと、産まれてくる男子は怪異に与えるので、必然的に村人は女が多くなり子を作ることが出来なくなってくる。

そこで今度は近隣の村々に行き、怪異が出す黄褐色の体液をばらまき、男達を酔わせ村に誘き寄せた。

当然、近隣の村から男達が居なくなってしまう。

そうなってしまった村々は衰退し、やがて滅んだ。

そんな折、一人の旅の行者が荒廃した村を訪れた。

男が一人も居ないその村に違和感を抱き、村の女に話を訊くと、ある日突然、辺りに甘い芳香が漂い始めると村中の男という男、大人も子供も夢を見ている様な顔つきになり、ふらふらと村から出て行ったという。

話をしている女の夫と息子もそうなり、幾ら声を掛けても何も返事をせず、只々夢を見ている様な顔をして歩いて行ったのだという。

必死になって止めたが止められず、そのまま後をついて行くと、ある村に着いた。

着くと熊と見間違える程の大きさの朧げな黒い犬が現れ、女に襲い掛かって来たので、怖くて必死に走って戻って来たのだという。

男達を止める為に追って行った女は大勢いたが、皆その恐ろしい大犬に追い返されたという。

話を聞いた行者は、これは怪異かもののけか、はたまた良からぬ術者の仕業ではないかと考えた。

行者は男達が向かった村の場所を聞き、立ち寄ってみる事にした。

女に黒い熊ほどの大きな犬がいると聞いていたので、先ずはその村を暫く遠くから窺った。

村の近くの少し小高くなった場所を見つけ、そこから様子を見た。

大勢の男達が村には居た。

その男達に元からいた村の女達が何かを飲ませると、今まで虚ろな顔でゆらゆらしていた男達が、正気に戻った様に見えた。

だが、不思議な事に誰一人として、故郷の村へ帰ろうとする者は居なかった。

するとそこに、遠目からでも分かるほどの妖気を纏った女が現れた。

行者はその女を見るなり、全身の体毛が逆立つのが分かった。

あの女は果たして本当に、人間なのだろうか?

行者には、人間の姿を借りた化け物にしか見えなかった。

それ程の妖気が女の全身から、赤黒い霧の様に立ち上って見えた。

すると、行者は心をざらりとしたものが撫でてゆく感触を覚えた。

反射的に、その場に身を伏せた。

感づかれたか?

這いつくばりながら、じりじりと村から離れ、ぞわぞわした感覚が無くなった所で立ち上がり、その場を後にした。




































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。