第十九話 妨害
久夜の者達は、清磨達が落ちたであろう海岸で、二人の姿も持ち物も一切見つけられずにいた 。
彼らはこの事から、清磨達が生存していると考えた。
景雅は神代家の娘から情報を聞き出す為、神代に向かった。
浜津周辺の捜索は、景雅の兄、景時とその仲間達が引き続き行っていた。
景時は探っていく中で、汐海に最近、医者の世話になっている者がいるらしいとの噂を入手した。
その病人か怪我人の素性を探るべく、数名の仲間を商人や旅人に仕立てて探らせた。
確かに汐海の網元の汐海家には、頻繁に医者が出入りしているのを確認する事が出来た。
だが、それ以上を調べようとすると、なぜか邪魔が入る。
汐海家の様子を外から覗うと、特別警戒している様子も無く、我ら久夜の業をもってすれば、屋敷への侵入なぞ、簡単な事に思えた。
景時は直ぐに、屋敷へ侵入し隠密聴取するよう仲間に指示をした。
探りを入れていた仲間達も、侵入は容易いと踏んでいた。
指示を受けたその深夜、早速侵入にとりかかった。
だが、屋敷の周りの塀を越えようかとした時、黒い影が現れた。
あたかも闇が、そこに凝り固まって四つ足の生き物を形作ったようなもの。
その中に、二つの赤い光の点が見えた。
燃え盛る双眼がそこにあった。
それが、睨むようにこちらを見てる。
侵入にとりかかった二人は、それに気が付き様子を窺った。
すると、その闇の塊が五つに分かれたかと思うと、突然、久夜の二人に襲い掛かってきた。
飛び掛かられた二人は、後方に跳ね退いたが、一つの闇に包まれた。
恐ろしい程の臭気が二人を襲う。
硫黄に似た臭気が、賊達の鼻と目を焦した。
「痛っ!」
一人が声を漏らした。
二人は涙が止まらなくなり、引き返す他は無かった。
その後も再三にわたり試みるも、闇の塊が悉く邪魔をして、侵入を果たせずにいた。
闇の塊は、異臭の他、侵入しようとする者に幻影を見せたり、幻聴を聞かせたり、突然、身体の自由を奪ったりと、多種多様な妨害をしてきた。
その闇の塊に刀を突き立ててみたが、まるで手応えはなかった。
景時は浜守の者が、術を使ったのかと考えたが、どうもそうではない様だった。
では、何者が何故に妨害してくるのか?
全く見当がつかない。
そうこうしているうちに、清磨と高鉄らしき者達が荷を積んだ馬に跨り、汐海家の屋敷を出て行ったと、見張りの者から報告が入った。
見張りの者達は、二人をそのまま追跡した。
汐海から浜守への道のりは限られていたので、挟み撃ちをする事となった。
汐海側から二名、浜守側から二名が進み、山道の森が深くなる辺りで両側から討つ手筈だった。
しかし、ここでも闇の塊が、久夜の邪魔をした。
追跡していた久夜の者二名は、清磨達に悟られない距離を保ちながら馬で走っていた。
山道に差し掛かった頃、昼間だというのに辺りが急に暗闇に包まれた。
ここまで散々邪魔をされていたので、二人は今度はこう来たのかと思っていた。
けれど、夜目が利く久夜の者にとって、夜の闇がどんなに暗かろうが平気だった。
二人は構わず馬を走らせた。
しかし、この闇は違った。
何も見えなくなったのである。
前方はおろか、手綱を握る己が手も見えなかったのである。
すると、馬が嘶きながら竿立ちになり、急停止した。
そして、今来た道を戻り始めてしまった。
賊達は降りて歩き出そうとしたが、一寸先も見えない。
結局、どうにもならなかった。
挟み撃ちを行う二名も同じ様な事態に見舞われ、山中を彷徨う羽目になった。
結局、久夜の作戦は全て失敗に終わり、二人が何処の誰なのかも知りえぬまま撤退した。
その頃景雅は、神代家周辺の捜索を行っていた。
神代の屋敷に、浜守の人間が来る事は無かった。
琴音には何度か浜守や深見の事についてそれとなく訊いてはみたが、深見家に何かがあった様だとか、父の言が度々浜守に行っている様だとか、その程度の情報しか得られなかった。
そして、浜津の事件から年が明け、さらに数か月が経った頃 、神代家は完全に平常に戻っていた。
景雅は、浜津の事も深見家の事も、これ以上神代には調べる手立てが無く、手詰まりになったのだと結論付けるしか無かった。
そう考えていた頃、兄景時の使者から戻るように連絡があり、景雅は神代を後にした。
景時と合流した景雅が最初に聞かされた話が、闇の犬の話だった。
闇の犬に妨害され、浜守の様子も分からないでいるという。
一体どういう事なのか?
その闇の犬は何なのか?
兎に角、浜守家の屋敷を調べようとすると、その闇の犬が現れ、あの手この手で妨害してくる。
祓ってみたが、一瞬消えてもまた直ぐに現れる。
恐らく、術者がいるのではないかと、景時は見当をつけていた。
浜守に術者が居るとは考えにくいし、噂でも聞いた事が無かった。
それに、この犬が現れたのは、数か月前からの事だった。
誰が、何の目的でこの闇の犬を我らに放っているのか分からないが、一つ確かなのは、我らの邪魔をしているという事。
これだけは間違いようが無かった。




