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浜守物語ー破魔の系譜ー清磨編  作者: 末席にゃんこ


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第二話 そして天才破魔鍛冶として…

清磨が十二歳になる頃、父・由一と一緒に鍛冶場へ入るようになった。下働きをしながら、少しずつ仕事を覚え始めたのである。父・由一は、その父・高鉄がそうであったように、我が子・清磨に非凡なものを感じていた。清磨は、あの火事以来、それまでよくしていた一人遊びをぴたりと止め、ふと物思いにふけることが多くなった。そして、それと同時に鍛冶仕事に強い関心を示すようになった。由一は、破魔鍛冶についての質問攻めを、清磨から毎日のように受けることになった。あまりの質問の多さに、ついには堪りかねた由一が、隠居暮らし同然でありながら、妻のさや以上に清磨を溺愛していた父・高鉄に、「もう、俺には無理だ。親父、代わってくれ」と泣きついたほどである。高鉄は快くその役を引き受けた。そして清磨の無限とも思える質問に、なんとも楽しそうに答えた。こうして清磨にとっての破魔鍛冶師としての基礎は、高鉄から教えられることになった。これは、父・由一もまた、幼い頃に高鉄から教えられたものと同じである。高鉄は家で使う刃物などを作る際にも、よく清磨を傍に置き、その作業を見せていた。清磨の輝く瞳が、自分の作業のひとかけらも見逃すまいと吸い付くように見つめている姿が、何とも愛らしく思えたからだ。それに、清磨の鍛冶に対する貪欲とも思えるほどの関心の示し方も、高鉄がそうする理由の一つだった。清磨は、布が水を吸うかのように、破魔鍛冶の何たるかを覚えていった。そして十五歳の時。清磨は初めて、一人で小刀を完成させた。しかもその小刀は、ちゃんと破魔の気を纏っていた。これには祖父・高鉄、父・由一をはじめ、一族の鍛冶職人たちが息を呑んだ。いくら素質があるとはいえ、最初から破魔の気を乗せられるものではない。だが、清磨の場合は違った。自然と、そうなっていたのである。作ると、破魔がもれなく付いてくる。そんな感じだった。これには、幼少の頃からのウミボウズとの関わりが、大きく影響していたのではないか。武具に破魔の気を込めるには、怪異を知らなければ到底無理なことなのだ。怪異と対峙し、それを理解しなければ、魔を斬れる物など作れはしない。その点、清磨は怪異と心を交わし、親友となった者である。怪異を、十分に理解していた。清磨は刀を好んで打った。清磨の打つ刀は、何とも美しかった。美しいが、華奢ではない。優美な姿に隠れた厳しさが、ちゃんとある。しかも、込められる破魔の気は清く、深い。一族の者たちは皆、清磨の作り出す作品に心を奪われるほどだった。祖父・高鉄はすっかり惚れ込み、父・由一は清磨が十八歳の頃から、自分の作品の仕上げのすべてを清磨に委ねるようになった。とにかく美しい。そして、よく切れるように仕上げる。まさに、天才のなせる業だった。そして清磨が二十二歳の時――。露(つゆ)が作られた。この刀は、通常の刀の三倍もの時間をかけて鍛えられた。その時の清磨には、鬼気迫るものがあった。しかし、そんな清磨の姿を、その後二度と見ることはなかった。それほど、この刀には特別な思いがあった。それもそのはず。かつての親友にして、命の恩人。その形見を、刀身に込めるのだから。出来上がった露(つゆ)を初めて父・由一が見た時、その美しく静かな佇まいに、しばし言葉を失った。そして由一は、清磨が自分の編み出した穢術を武具に施す業も、完全に習得していることを見て取った。穢術が込められていなければ、このような澄んだ薄水色の刀身に、結露が輝く刀など作れるはずがない。その姿は、まさに魔剣。美しく、力強く、そしてどこか妖艶な風情を漂わせている。近寄りがたい冷気すら纏っている。万人が扱える物ではない。一目見ただけで、それが分かる。だが剣士ならば、この刀を振りたいという渇望に駆られてしまいそうな、不思議な魅力があった。咄嗟に、危険な刀だと由一の第六感が告げた。恐らく、扱えるのは清磨のみ。いや――清磨でさえも怪しいかもしれぬ。一度間違えば、命を落としそうな刀である。封じられたものの正体を知らずして、そこまでこの刀の真の姿を見抜いたのは、流石に由一であった。清磨が穢術を武具に施したのは、露(つゆ)が最初で最後だった。怪異の核を使う穢術を、何故か清磨は、それ以降使おうとはしなかった。その一方で、清磨にはもう一つ、他の者には真似することのできない破魔武具の技があった。それが――「鬼寄せ」である。鬼寄せ。それは、武器に一時的に怪異を呼び込み、その能力を使って破魔を行うというものだった。従って、能力の高い怪異を呼べば、おのずとその武器も強力になる。対峙する怪異の種類に合わせ、寄せる怪異を選ぶこともできる。非常に強力で、かつ利便性の高い退魔の施術である。しかし、すべてが良いことばかりではない。強い怪異を寄せることができるということは、それだけ危険もあるということになる。未熟な者が、強力で悪意ある怪異を寄せるとどうなるか……。想像しただけで分かることだ。そのため、鬼寄せを使える退魔師は、それだけで一角の者と認められ、一目置かれた。そうした理由から、清磨の鬼寄せが施された刀は、誰もが欲しがった。だが、頼まれたからといって、必ずしも清磨が作るとは限らなかった。注文が入ると、どんな身分の者であろうと、清磨は必ず直接会い、何故その武具を求めるのか、その理由を訊いた。その時に、どんな人物なのかを見極める。そして、清磨が作りたいと思えば作る。作らないと決めたら、どんなに大金を積まれても作らなかった。清磨が生きた時代には、かの有名な陰陽師、安倍晴明がいる。晴明は、清磨が四十歳の頃には、凄腕の陰陽師として世間にその名を轟かせていた。晴明、その歳六十。ちょうど清磨とは二十歳離れていることになる。その頃には、破魔を生業としている者たちの間で、清磨の名を知らぬ者はいなかった。浜守一族は昔から、その筋の界隈では破魔の武具を作る一族として有名だった。そして、清磨にしか作れぬ鬼寄せの武具は、まさに垂涎の的であった。清磨が生涯で作成した鬼寄せの武具は、一本槍。七本大刀。一本小刀。合わせて九本。その一本の小刀は――愛妻、千歳のために打ったものだった。


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