第一話 ことのはじまり
平安中期に現れた天才鍛冶師にして天才剣士、浜守清磨の生涯を描いた物語。
破魔武具を代々鍛えて来た浜守一族の主、『浜守由一』の次男として生まれる。
清磨の兄は生まれて間も無く亡くなっていたし、他に兄弟も出来ず、実質一人っ子として育てられた。
清磨の母、『さや』は清磨を溺愛し、由一も煩い事の言わぬ父であったので、清磨は自分の思うまま成長していった。
清磨五歳の頃、一人浜辺で遊んでいた時、怪異『ウミボウズ』に出会う。
ウミボウズもまた幼い怪異だった。
二人は直ぐに打ち解け、仲良くなり、それから毎日のように遊んだ。
不思議な事に、このウミボウズは清磨以外の人間には見えていなかった。
これは、ウミボウズが意図して清磨以外の人間に、姿を見せなかったのだと思われる。
ある日の深夜。
その日、父由一は、一族の長であり、由一の父の『高鉄』の鍛冶場で職人の主としてその場を仕切っていた。
高鉄は早くから由一の破魔鍛冶としての才能を見抜き、由一二十五歳の時に、それまで自分が主として鍛冶職人達を仕切っていたのを退き、その立場を譲ってしまった。
これに一族の職人達は、驚きはしたが、反対する者は一人も居なかったという。
まあ、一族の長の座までは譲らなかったが、職人としては、由一の業は既に高鉄を超えていたのだろう。
由一の鍛える破魔武具には、由一にしか出来ぬ業が宿っていた。
それが、穢術をその武具に付加するというものであった。
浜守一族には、武具に破魔の力を宿す事が出来る者が現れる。
その者は、代々一族の長となる。
高鉄もそうであった。
高鉄の鍛えた武具には、破魔の気が宿った。
しかし、由一の鍛える武具には、破魔の気以外に穢術を仕込む事が出来た。
穢術は怪異由来。
怪異が稀に落とすその『核』を使い、その怪異の力を武具に宿す。
正に由一が編み出した業だった。
その夜も、その技を振るっていた。
穢術を刀に込める段階であった。
最も心身共に極限の状態に至る行程だった。
その晩封じようとしていた怪異は、業火の能力を持つ怪異だった。
この核はなかなか手に入れる事が出来ない貴重な物であった。
由一は普段よりも、この一振りを打つ事に力が入っていた。
その意気込みが、逆に由一を早くに疲弊させていた。
怪異の核を封じるには、尋常ではない精神力がいる作業だった。
そして、工程の一番の山が過ぎたと思った時、それは起こってしまう。
封じた筈の怪異の炎がはじけ飛び、清磨とさやが休んでいる屋敷に火を点けた。
怪異由来の強烈な業火は、瞬く間に屋敷を包んで行く。
炎に包まれ、逃げ場の無くなった屋敷内では、さやが清磨を炎の熱から守る様に抱いてうずくまっていた。
さやの麻の小袖に炎が迫って来た時、炎の動きが止まった。
幼い清磨には判った。
友であるウミボウズが、自分の身を水の壁に変え覆っている事を。
しかし、炎は益々勢いを増し、ウミボウズの壁がその炎に焼き尽くされるのではと思われた時、ウミボウズの体の中にどんどんと炎が取り込まれ始めた。
そして、清磨には轟々と唸る炎の音の合間から、小さいがはっきりと、
「サヨナラ。キヨマ」
と、ウミボウズの声が聞こえた。
薄水色の透明な球体は、業火を吸収しながらどんどん膨らんでいった。
全ての炎がその中に取り込まれたと思った瞬間、膨張し屋敷程の大きさになっていた玉が急激に縮んだ。
縮みきったそれは、清磨の拳ほどの大きさの、炎を閉じ込めた水晶の様な結晶になり、二人の傍に落ちた。
辺りから炎は消え去っていた。
二人は救われた。
ウミボウズが、自分の命と引き換えに、その身に怪異の業火を閉じ込めて。
清磨はそれを拾い上げ、そっと懐にしまい、静かに涙を流した。




