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浜守物語ー破魔の系譜ー清磨編  作者: 末席にゃんこ


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第十二話 千歳

清磨と高鉄が汐海家に運び込まれた頃には、空が白々とし始めていた。

潮は、昔から世話になっている医者を急ぎ呼んだ。

意識のない二人を診た医者は、すぐに死んでも何ら不思議がないと話した。

傷の止血は何とか上手く行ったが、体力の消耗が激しく、ここ一日二日が山だろうという事だった。

浜守家には、すぐに知らせの者を向かわせた。

二人は同じ部屋に寝かされていた。

清磨の枕元には、清磨の刀が置かれていた。

一通りの処置を終えた頃には、昼を過ぎていた。

医者は、連れて来た手伝いの者一人を残し一旦帰宅した。

看病は、なみ、さき、千歳、医者の手伝いの者の四人が交代でする事にした。

夜間は手伝いの者、日中は汐海家の者が見る。

何かあったら、すぐ医者に知らせる事になった。

「なみさん、昼の支度が出来てますよ」

手伝いに来ていた漁夫の女房の一人が、声をかけた。

「道(みち)さん、食事と休める部屋の用意が出来ています。どうぞあちらに」

なみは医者の手伝いの方にそう声をかけ、千歳に目配せで案内をするよう伝えた。

千歳は内心その場を離れたくなかったが、そんな素振りは見せず、道を連れて部屋を出た。

「じゃあ、私が残っているから、お母さんも食べてきてよ」

さきがそう言って、高鉄の傍に座った。

「じゃあ、そうするね。ありがとう」

そう言うと、なみも昼をとりに行った。

結局、その日のうちに二人の意識が戻る事はなかった。

翌朝、医者が二人を診るも、危険な状態は変わっていないとの事だった。

しかし、その日の昼過ぎ、高鉄が目を覚ました。

高鉄は目を覚ますなり、清磨の名前を口にした。

「清磨…清磨は…」

その時看病していたなみは、高鉄に掛けられていた布団の上にそっと手を添えて、顔を覗き込んだ。

「隣に寝てますよ。大丈夫です。安心してください」

高鉄は清磨を見た。

「おお…そうか…」

そう言って、高鉄は再び眠った。

医者が訪れ、高鉄を診た。まだ微熱はあったが、高鉄が峠は越えたようだと話した。

一方、清磨の方は、深刻な状況にあった。

依然として、高熱が続いていた。

そして、意識が戻る気配もなかった。

傷の血止めは済んでいたが、腹と右太腿の傷が腐り始めていた。

恐らく刺した刀の刃に、何かが塗られていたのではないか。

そうとしか思えない状態にあった。

客間で医者は、自分にはもう救う手立てがない事を、潮となみに話した。

それを偶然、三人が話している部屋の前を通りかかった千歳が聞いてしまった。

その足で、看病の交代の為、清磨の寝かされている部屋へ入って行った。

「さきちゃん、換わるよ」

千歳はそう言って、何事もなかったようにさきと換わった。

さきが出て行き、足音がしなくなった途端、千歳は清磨の傍らに膝をつき、じっとその顔を見つめた。

ぼとぼとと、大粒の涙が千歳の大きく愛らしい瞳から零れ落ち、清磨の頬を打った。

千歳は無意識に、清磨の枕元に置かれていた刀を胸に抱き、只々涙を流すしかなかった。

助かって欲しい。目を覚ましてほしい。

そして初めて自分がこんなに清磨の事を思っている事に気がついた。

まだ清磨とは、一度も言葉を交わした事がなかった。

悔しかった。

自分に清磨を救う事が出来ないのが、何とも情けなくやるせなかった。

そして、悲しかった。どうしようもなく、悲しかった。

だから、清磨の顔を見つめながら、只々涙を流すしかなかった。

いつしか胸に抱いた清磨の刀が、清磨自身に思えて来て、強く抱きしめていた。

誰でもいい。どんな神でもいい。とにかく清磨を助けて欲しい。そう切に願った。

そうしていると、清磨の刀から、ぼんやりと微かに影が現れた。

それは初め、とても微かな霧のようだった。

そして次第に紫の色を帯び始めた。

次にそれは、歪な楕円の形をとりながら濃さを増した。

まるでウミウシを思わせる姿をした紫色の霧の塊が数個現れ、清磨に取りついた。

清磨の身体を這いまわった。

そして、傷の場所に来ると動きを止め、収縮し始めた。

まるで何かを吸っているような動き。

綺麗な薄紫色をしていたそれは、どす黒く赤茶がかった色に変わっていった。

そして、いつしか大きく膨らんだそれは、泡のように弾けて消えた。

そうすると、まるで蝋細工のように青白かった清磨の頬に、赤みがさした。

千歳はそれを見て、願いが通じたと思った。



























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