第十一話 悪夢
千歳は、ここ数日間、同じ夢に悩まされていた。
今朝もその夢を見て、布団の上に起き上がったのだった。
夢はこうだった。
浜守清磨が一つ目退治を終え、賑やかな宴が開かれている場面から始まる。
宴では、皆笑顔だった。
千歳の目には、清磨ばかりが映っていた。
その優しさの滲み出た横顔。
美味しそうに料理を頬張る姿。
兄の豊丸に絡まれながら、苦笑いをしている顔。
清磨のあの時の宴での姿が、克明に浮かんでくる。
それを千歳は幸せな気分で眺めている。
温かく感じる何かが、胸に込み上げてくる。
すると突然辺りが暗くなり、そこに血まみれの清磨が、海岸に倒れている姿で浮かび上がる。
その清磨は見る見るうちに朽ち果て、骨だけになってしまうのだ。
そこで、叫び声を上げながら飛び起きる事になる。
決まって、全身に汗をかき、肩で息をしていた。
悪夢だった。
嫌な胸騒ぎがして、気持ちが落ち着かない。
この事を誰にも話せず、五日が経った。
そして、六日目の晩。
いつもは夢から目を覚ますと朝だった。
だが、その日は深夜に夢を見て、いつも以上に大きな叫び声を上げて目を覚ました。
その声で、隣の部屋で休んでいた姉のさきが目を覚まし、千歳の部屋にやってきた。
千歳は切迫した胸騒ぎに突き動かされ、外出しようと身支度をしているところだった。
「どうした!ちとちゃん!こんな夜中にどこ行く気かい!」
さきが、千歳の部屋に入るなり大きな声で言った。
「行かないと!行かないと!早くしないと、あの人死んじゃう!」
千歳は真っ青な顔をして、うわ言の様にそう言いながら、部屋を急いで出ようとする。
さきは千歳の腕を掴むと、千歳に言った。
「待ちな!ちとちゃん、私が一緒に行くから」
そうこうしていると、豊丸も来た。
「どうした?こんな夜中にどこ行くつもりだ?」
豊丸がそう言い、さきと二人で千歳を落ち着かせ、夢の話を聞いた。
ここ数日間の夢の話と今夜の事を聞き、二人もこれはただ事ではないと感じた。
三人は千歳が夢で見た海岸へ、行ってみる事にした。
三人が出る頃には、潮となみも寝室から出て来て、事情を聞いた。
潮はなみに、近くの漁夫達も起こす様に言うと、自分も支度を始めた。
実は、潮も豊丸もさきも、ここ数日の間、説明のつかない不安を感じていたのだった。
その不安を言葉にしてしまうと、現実になってしまいそうで、皆言い出せずにいた。
その晩は新月という事もあり、外が特に暗かった。
千歳が夢で見た海岸は、周りを崖に囲まれた場所で、徒歩で行くには厳しい所だった。
そこは潮が巻き、漂流物がよく溜まる箇所でもあった。
三人は豊丸の漕ぐ小舟で向かった。
小舟は、いつになく速かった。
三人の胸騒ぎは、消えることがなかった。
千歳は激しい動悸で、息が詰まりそうだった。
出来る事なら、夢の中の清磨が倒れている海岸へ飛んで行きたかった。
夢に現れた海岸が、岩の影から見えて来た。
近付いて行くと、巨大で歪で殆ど壊れている繭の様な白い塊の中に、人らしき姿が確認できた。
それが岸に漂着し、波でゆらゆらしている。
三人とも、それが探していたものだと直感した。
小舟が近付くにつれて、それが大量の蜘蛛の糸の様なもので幾重にも巻かれた、二人の男だと分かった。
二人は仰向けになっていた。
顔や身体に所々糸が絡んでいる。
一人は清磨だ。
もう一人は片腕の無い初老の男、高鉄だった。
豊丸が船を岸に乗り上げた。
先に千歳とさきが、船を飛び降り走った。
続いて、豊丸も後を追う。
三人は、清磨と高鉄に駆け寄った。
千歳は、自分でも気付かぬうちに、目から涙を溢れさせていた。
千歳とさきは、二人の呼吸と脈を確認した。
生きていた。
二人とも意識はなく、体中に深い傷を負っていた。
三人が着いて間も無く、潮が数人の漁夫と共に、潮の船でやってきた。
そして、清磨と高鉄は助けられた。




