第45話 誰が命じるのか
災害の時、誰が命じるのかを、誰も決めていなかった。
昨日の混乱の後始末をした。
町には、三つの力があった。
名主の幸右衛門。町の暮らしを、差配する者。
町奉行。町の公の権を持つ者。
そして、水戸家。屋敷の威光を持つ者。
三つが、噛み合わなかった。
平時、町は、名主と町奉行で回っていた。水戸家は、塀の中の別の国だった。火事や地震の時だけ、その三つが同じ町で同時に動く。誰が最初の一声を出すのか。
「水戸家が執れば早うございます」
戸田が言った。
早い。だが続かない。町奉行の顔を潰し、名主の差配を奪えば、後で必ず揉める。権限なき指揮は、その場は動かせても、恨みを残す。
「全部は執らぬ」
私は言った。
「最初の一声だけ決める。火が出たら、揺れたら、誰が最初に半鐘を打つか。打ったら、皆がまずどこの道を空けるか。それだけだ」
幸右衛門と町奉行の手代と屋敷の役の者を並べた。
誰が、最初に動くか。
半鐘の打ち方を、一つに。最初に空ける道を、一本に。
それ以上は、決まらなかった。
誰がその後を命じるのか。家をどう退かせるのか。橋をどう捌くのか。何一つ、決まらなかった。
東湖が、その最小の取り決めを紙へまとめた。
「ずいぶん、小そうございますな」
「小さい」
「されど昨日はその小ささもございませんでした」
誰が命じるか。
半分だけ、決まった。
半分は、まだ誰のものでもなかった。




