第41話 橋は一本しかない
一つしかないものは、壊れて初めて、一つだと分かる。
町と川の向こうを繋ぐ橋は一本だった。
幅は荷車が一台ようやく渡れるほど。古い。雨のたびに、板が鳴る。大砲は、とうに通れなかった。
火が出れば、川のこちらの者が、皆この一本へ向かう。詰まる。落ちれば向こうへはもう渡れない。
「もう一本、架けたい」
言うと、戸田が首を振った。
「橋は、町奉行の御管轄にございます。河岸も、川も。水戸家が勝手に橋を架けることはできませぬ」
屋敷の中なら、私が橋を架けた。庭の池に戸板の通る橋をもう一本。
町の橋は私の物ではなかった。
御三家が金を出して架ければよい、と斉昭が言った。畏れて町奉行も否とは言うまい。
そう疼いた。
だが橋一本を架けることは、川の管轄へ御三家が手を突っ込むことだった。畏れて従わせた橋は、後で必ず揉める。屋敷の池の橋とは違った。
私の威光は、橋一本で止まった。
架けられぬなら。
私は、せめて詰まり方を変えようとした。
渡る向きを、火事の時だけ一方に。橋の前の辻に、人を捌く役を。橋板の傷みを町と一緒に、月に一度見る。落ちる前に替える。
「橋を一本、増やせはせぬ」
東湖が、橋の上で、川を見ていた。
「殿でも架けられぬ橋がございましたな」
「ある」
「屋敷の中だけが、殿の国でございました。外は、ずいぶん広うございます」
私は、答えなかった。
一つしかない橋を、二つには、できなかった。
あと、一年と二か月。




