↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/48

第36話 道の広さを測る


 道は、人が通れて初めて道である。


 町の道は、人が、ようやく一人、通れる幅だった。


 川から戻った翌日、私は町の路地を、間竿で測らせた。


 屋敷の門を出て、坂を下り、川へ向かう道。広い所で二間。狭い所で、半間に満たない。両側から軒が差し出し、天水桶が置かれ、洗濯物が頭の上で揺れていた。


 二人すれ違えば、肩が触れる。


 火が出れば、ここを、何十人が、後ろから押されながら抜ける。荷を背負い、子を抱き、煙の中を。


 その絵が、見えた。


 すぐに広げろ、と斉昭の手が言った。


 御三家の威光がある。両側の家へ、軒を引け、塀を下げよ、と一声かければ、町は従う。畏れて、従う。道は、明日にでも、広がる。


 そう疼いた。


 山下は、その手を、押さえた。


 一声で広げた道は、一声がやめば、元へ戻る。畏れで退かせた軒は、畏れが薄れれば、また張り出す。何より、退かせた家の暮らしを、私は知らない。


 町は、水戸家の物ではない。


 私に、広げる権は、ない。


 測る権なら、ある。


 私は、ただ、測った。どこが何尺で、どこで人が詰まり、どの軒が道へ何尺、差し出しているか。帳面へ、町の道幅を、初めて書き入れた。


 測っている私を、町人が遠巻きに見ていた。


 大名が、なぜ、こんな細い路地の幅を、自ら測っているのか。


 一人の老人が、近づいてきた。長く、ここで暮らしているという。


「お武家様。火事のことで、ございますかね」


「そうだ」


「うちの軒は、道へ、出すぎておりましょうか」


「半尺、出ている」


 老人は、しばらく自分の軒を見上げた。


 それから、物干しの竿を、一本、家の中へ引いた。


「これで、半尺」


 道は、半尺だけ、広くなった。


 町じゅうで、半尺。


 それでも、命じたのではなかった。一人が、自分で、引いた。


*


 後世、記録にこう残ります。


 大名が、自ら間竿を手に、町人の路地の幅を測った例は、当時、ひどく奇異なものと見られました。


 道の広さに、なぜ殿様がこだわるのか。その意味が町に分かるのは、ずっと後のことであります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。