第33話 金物の二号と三号
強い金物は、美しくない。
黒く、ごつく、釘の頭が並ぶ。柱の見付けを汚し、梁の影を乱す。隠れた所ならともかく、人の目に立つ所では、屋敷が荒れて見える。
初号が梁を割ってから、形を改めた。
二号は、端を薄くした。鉄が木へ移る所で、急に硬くならぬよう、先を細く逃がす。三号は、釘穴を散らし、一点へ力が集まらぬようにした。木目に沿って、割れの来る向きを避けた。
硬く抱くのではない。
しなって、力を分けて受ける。
屋敷の主だった継手へ、試しに入れた。揺れの来やすい角、人の集まる広間、出口の上の梁。全部へ同じ金物は入れない。継手ごとに、形を変えた。
小さな揺れが、一度あった。
金物を入れた継手は、軋まなかった。
入れていない隣の継手が、低く鳴いた。
それだけのことだった。
それだけのことが、嬉しかった。
「これは、美しくありませぬ」
庭方が、二号を指して言った。飾り金物を扱う男でもあった。釘隠しに花や葵をあしらう、あの細工の方が、彼の本領だった。
花の釘隠しを、と斉昭が望んだ。同じ鉄を屋敷へ打つなら、葵を彫り、金を着せ、見上げて美しいものにせよ。隠れて働く黒鉄など、御三家の屋敷にふさわしくない。身体は、見える美を、欲した。
山下は、見えない働きを、選んだ。
「飾りの金物は、見せるために打つ」
私は言った。
「これは、隠れて働くために打つ。揺れた時、誰も見ていない所で、継手を抱いている。普段、誰の目にも入らぬのが、こいつの役目だ」
「役目を、誰も知らぬまま」
「知らぬまま助かるなら、それでよい」
庭方は、しばらく二号を眺めていた。
それから、妙なことを言った。
「では、せめて。継手の見える所だけ、花の釘隠しを被せては。中の黒鉄は隠れ、外は花になりまする。御殿の格も、立ちましょう」
花の下で、黒鉄が働く。
美しいものを殺さず、強くする。
私は、それを聞いて、少し黙った。屋根のときも、襖の絵を残した。すべてを露わにする必要も、すべてを隠す必要もなかった。
「やってみろ」
花の釘隠しの裏で、二号が継手を抱いた。
見上げれば、葵だった。
その奥のことは、誰も知らなかった。




