第30話 太い柱は揺れる
太くすれば、強い。
太い柱は、よく揺れる。
大砲の試射を思い出していた。撃てば、砲が後ろへ跳ねる。重い鉄が、台を蹴って退く。あれを見てから、ひとつ離れない考えがあった。
重い物は、揺れに乗って、よけい大きく動く。
ならば、建物の真ん中に、ひときわ太く重い柱を立てれば、揺れを引き受けてくれぬか。
「殿の御座所の中央に、大黒柱を一本、増やす」
大工は、その太さを聞いて黙った。
「それは、屋根を支える柱ではございませぬな」
「揺れを引き受ける柱だ」
据えてみた。
二日で、床が鳴き始めた。
太い柱は、根方で床板を押し下げ、梁との取り合いを割り、雨の後には自重で少し傾いだ。重さは、揺れる前に、まず床を痛めた。
失敗だった。
もっと太く、もっと重く。そう命じたかったのは、私ではない。斉昭の手が、そう動こうとした。力で勝てぬものはない、というあの本能が、柱の太さへ手を伸ばした。御三家の屋敷の真ん中に、誰も倒せぬ一本を立てたい。
山下は、その手を止めた。
重さは、力ではない。揺れにとっては、餌だ。
「外せ」
「もう据えましてございます」
「割れた床を記録しろ。柱の太さ、傾いだ向き、割れた板の数。隠すな」
反射炉の技師が、その割れた床を見にきた。砲の反動を扱う男だった。
「殿。揺れを、殺すことはできませぬ」
「分かっている」
「弱めることなら、できましょう。砲の跳ねを、革と板の擦れで食う工夫がございます。固く受けず、少し滑らせ、擦れで熱に変える」
固く受けず、滑らせる。
私は、頭巾のことを思い出した。落ちる瓦を止めず、横へ滑らせた。塀のことも思い出した。倒れるなら、人のいない方へ。
太い柱は、揺れを固く受けようとして、自分が割れた。
受けるのではない。逃がすのだ。
その日は、何も完成しなかった。床が一枚、割れただけだった。
だが、割れた床の前で、私と技師は、同じ方を見ていた。
東湖が、割れ板を一枚、持ち帰った。
「これも、いずれ屋敷の隅へ並ぶのでございましょう」
「並べるな。失敗だ」
「失敗こそ、後の者の役に立ちますれば」
私は何も言わなかった。
太い柱は、外させた。
代わりに、滑らせて逃がす工夫を、小さな模型から試すことにした。




