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第26話 紐が首を絞める

 最初の試作品を被った小姓は、立ち上がる前に首を絞めた。


「苦しゅうございます」


「ほどけ」


「後ろで結びましたので」


 女中が紐を引いた。


 座布団が回った。


 小姓の顔が隠れた。


「見えませぬ」


「動くな」


「動けませぬ」


 別の者が助けようと近づき、垂れた紐を踏んだ。


 二人が倒れた。


 その後ろにいた東湖が避けた。


 避けた先に別の座布団があった。


 東湖も転んだ。


 三人が畳の上へ重なった。


「紐が長い」


 私が言うと、縫物方の女は平然としていた。


「短ければ結べませぬ」


「前で結べ」


「顎へ当たります」


「耳の下は」


「左右で迷います」


「迷わぬ形にしろ」


「それを考えるための試作品にございます」


 反論だった。


 私は怒らなかった。


 問題を出す職人は信用できる。


 もっとも、怒りたがった者は、いた。


 こんな紐遊びに幾日かける、と腹の底が苛立った。主が「被れ」と命じれば、家中は被る。試作も、転倒も要らぬ。斉昭は、結果を今すぐ欲しがる。


 今すぐ被らせた頭巾は、今すぐ首を絞める。


 私は、斉昭の早さを使わなかった。


 この道具だけは、遅く作る。


 二つ目は、幅広い布を顎の下で結ぶ形になった。


 歩けた。


 両手も空いた。


 座ると、布を尻の下へ巻き込んだ。


 立ち上がる時に踏み、前へ倒れた。


「しまえるようにしろ」


 三つ目は、布を座布団の縫い目へ折り込んだ。


 座りやすくなった。


 板を鳴らした。


 誰も布を引き出せなかった。


「どこだ」


「縫い目の中にございます」


「暗ければ分からない」


「印を付けます」


「見える印ではなく、触って分かる印だ」


 四つ目には、前側だけ太い縫い目が付いた。


 手探りで前後が分かる。


 布の端には輪を付けた。


 指を入れて引けば、一度で出る。


 今度は使えた。


 大人には。


 子供役の小姓が被ると、座布団が肩まで落ちた。


 前が見えない。


「小さい物を作る」


「いくつに分けます」


「大人と子供」


「子供にも大きい者と小さい者が」


「二つでよい」


「中ほどの者は」


「近い方を使え」


 地震の最中に、寸法を測る者はいない。


 完全に合う物より、すぐ使える物の方がよい。


 綿の量も揃えた。


 薄ければ守れない。


 厚ければ重い。音も聞こえにくい。


 どの程度で足りるか、誰も知らなかった。


 試すしかない。


 大工に、人の頭ほどの木型を作らせた。


 その上へ座布団を被せる。


 小さな瓦片を落とす。


 音がした。


 木型に傷はなかった。


 次は大きな破片。


 これも耐えた。


 最後に、割れていない瓦の一部を落とした。


 重い音がした。


 座布団がへこんだ。


 木型には、浅い割れが入った。


 誰も話さなかった。


「綿を増やしますか」


「重くなる」


「二枚重ねでは」


「普段から二枚持たせるのか」


 柔らかい物だけでは、重い瓦を止められない。


 私は割れた木型を見た。


 屋根材を軽くする時も同じだった。


 一つを良くすると、別の問題が出る。


 安全は、一つ増やすたびに別の安全を要求する。


「鉢を持ってこい」


 東湖が聞き返した。


「植木鉢を」


「頭に被る方だ」


 武具蔵から兜が運ばれた。


 重かった。


 飾りが多かった。


 前立は梁へ引っかかりそうだった。


「飾りを外せ」


 武具方が青ざめた。


「伝来の品にございます」


 伝来の品。


 その一言に、腹の底が、また反応した。


 徳川の兜である。父祖が戦場で被り、家へ伝えた具足である。飾りを外せとは、家の誇りを毟れということだ——斉昭の身体は、庭石を退けた時よりも、強く惜しんだ。


 山下は、惜しまなかった。


 兜は、頭を守る道具である。守れる形が残るなら、飾りは飾りだ。


「それを壊せとは言っていない。飾りのない鉢を作れ」


「鉄で」


「鉄、革、竹、木。使える物を試す」


「兜を籠屋へ作らせるのでございますか」


「瓦から頭を守れれば、名は何でもよい」


 武具方は納得しなかった。


 だが、作らせた。


 数日後、鉄、革、木、竹の鉢が届いた。


 鉄は重かった。


 木は割れた。


 革はへこんだ。


 竹は、しなった。


 完全には止めない。


 力を受けて、少し変わる。


 私は竹の鉢を見た。


 建物も、固めすぎれば別の場所が壊れる。


 塀も、壊れないことより、どちらへ倒れるかが大事だった。


 頭を守る物も同じかもしれない。


「座布団と合わせる」


 東湖が竹鉢を持ち上げた。


「ついに座布団へ具足を付けるのでございますな」


「座布団では足りない」


「されど、座れるうちは座布団と」


「改良された」


 東湖は何も言わなかった。


 試作品は、まだ座布団だった。


 少なくとも、その日までは。


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ついに座布団具足爆誕?の問でフイタ
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