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第92話:魔境着任、最初の一手


絶壁を越え、深い霧を抜けた先に広がっていたのは、かつて村があったことを辛うじて物語る腐り果てた廃屋の群れと、腰の高さまで伸びた有害な雑草が覆い尽くす完全な荒れ地でした。


「……ひどい。これじゃ、生活の基盤どころか、寝る場所もありませんよ……」 リナが絶望感に肩を落とし、胃のあたりを押さえてうめきます。


しかし、ディエスは馬車から降り立つなり、深呼吸をして胸筋を大きく膨らませました。


「ガハハ! 最高のキャンバスじゃねぇか。ハンス、リナ、エルザ。人を集め、国を造るには何が必要だと思う?」


「法と秩序、そして流通経路の確保ですね」とハンスが即答し、「……安全な、寝床」とエルザが呟きます。


「ブブーッ! 筋肉的回答はこうだ。『肉』だよ!」


ディエスはそう叫ぶなり、荒れ地の中央へと歩み出しました。


「腹が減っては開拓はできねぇ。まずはここを、魔獣の肉をこれでもかと焼き上げる**『マッスル・ミートホール(巨大食堂)』**の予定地にする!」


「ちょ、ディエス様!? 整地もしてないのに何を――」 リナの制止も聞かず、ディエスは腰を深く落とし、右拳を天高く掲げました。


「どけよ雑草ども。筋肉の通り道だッ!! エア・ソリッド:全域粉砕!!」


ドォォォォォンッ!!


ディエスが地面に向けて放った超圧縮空気の衝撃波が、地表を文字通り「削り取り」ました。


厄介な雑草も、朽ち果てた廃屋の残骸も、巨大な魔獣の骨も、すべてが円形に吹き飛ばされ、そこには見事なまでに平らな「更地」が出現しました。


「……はぁ。測量の手間が省けましたね」 ハンスは動じることなく、懐から一枚の羊皮紙を取り出しました。 「ではディエス様、ここを中心に区画を切ります。私が設計した『魔境都市バルカス』の図面です。ミートホールの隣には、当然……」


「ガハハ! 分かってるじゃねぇか、巨大ジムだな!」


「違います」ハンスが真顔で答えます


「……胃が、痛いです……」 リナが本格的に座り込む横で、エルザが鼻をヒクつかせ、北の森を見据えました。


「……ディエス様。……ホールの場所は、できた。……でも、肝心の『肉』が、まだ足りない」


ディエスの目がギラリと光りました。


「そうだな。人を呼び込むための『最初の特大ステーキ』が必要だ。……おい、森の奥でこっちを覗いてるデカい気配……。お前が、俺たちの開拓記念バーベキューのメインディッシュだ!」


森の木々をなぎ倒し、地響きと共に現れたのは、この地のヌシである巨大な魔獣の影でした。

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