第88話:再起、そして逆襲の誓い
王都の喧騒から離れた、マルコの所有する薄暗い倉庫。
鼻を突く薬草の香りと、埃っぽい空気の中で、ディエスは意識を取り戻しました。
「……ガッ、はぁっ、はぁ……!」
跳ね起きようとした瞬間、全身を焼くような激痛が走り、ディエスは再びベッドに沈みました。
しかし、その胸元を走っていたはずの致命的な傷跡は、盛り上がるような新生の筋肉によって塞がりつつあります。
「おわぁっ! 起きた! 本当に起きやがったよ、この怪物!!」
傍らで空のポーション瓶の山に埋もれていたマルコが、椅子から転げ落ちました。
「……マルコ、か。ガハハ……情けねぇな。商人に命を救われるなんてよ……」
「笑い事じゃないよ! おかげで俺は破産寸前だ! あの『極光ハイ・ポーション』、一本で金貨十枚は下らないんだぞ! それを九十八本も……お前の体、飲み過ぎて光ってたんだからな!」
マルコは涙目で帳簿を叩きながらも、どこか安堵したように息を吐きました。
「……悪ぃな、マルコ。その貸しは、俺の筋肉で必ず返してやる。……それより、リナたちは?」
「ハンスって事務官の人が、うまく立ち回ってるよ。お前が行方不明の間、軍令部には『極秘の特訓に出た』って報告してる。あいつ、相当キレるぜ。お前の仲間、みんなお前が死んでるなんて一ミリも疑ってないんだ」
ディエスは、包帯越しに自分の拳を握り締めました。 力が、以前よりも深く、熱く、底から湧き上がってくるのを感じます。
「死の淵を見たおかげか……? 筋肉が、アレクシスの光を『記憶』してやがる」
アレクシスとの戦いで思い知った、圧倒的な「理」の差。
しかし、絶望はありませんでした。むしろ、かつてない高揚感がディエスの内側で脈動していました。
「『エターナル・キングダム』のシナリオじゃ、アレクシスは絶対無敵の王様だ。だがな、マルコ……。死ぬはずだった俺がこうして生きてる。注文ミスのお前のポーションが、俺の命を繋いだ。……これ以上の『幸運』はねぇだろ?」
ディエスは痛みを堪え、ギシリとベッドを鳴らして立ち上がりました。
「ガハハ! 決めたぜ。あいつが世界の『秩序』だってんなら、俺はその秩序をねじ伏せる『野生』になってやる。……次に会うときは、あの綺麗な顔に、筋肉の『不条理』を刻んでやるぜ!!」
窓の外、王都の空には冷たい月が輝いていました。
一度は散りかけた鋼鉄の獣が、友の幸運に支えられ、さらなる強さを求めて静かに牙を研ぎ始めました。




