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第87話:最強の敗北、そして運命の積荷


「……これ以上の戯言は不要だ。塵は塵らしく、法則ルールに従って消えるがいい」


アレクシスの瞳に、底冷えするような光が宿りました。彼


が空中に描いたのは、複雑怪奇な多重魔法陣。それは、回避も防御も許さない「確定した破滅」の予兆でした。


聖域サンクチュアリ・極光刑」


放たれたのは、眩いばかりの純白の奔流。


それは光の速さでディエスの懐へと潜り込み、鋼鉄と称えられた大胸筋を、その奥の心臓ごと貫かんと荒れ狂いました。


「ガ、ハッ……!? ご、ふぉっ……!」


自慢の筋肉が、内側から細胞の一つ一つを焼き切られるような激痛。


ディエスの巨体が、紙屑のように夜の闇へと吹き飛ばされ、石畳を何十メートルも転がりました。


「……ふん。想像以上に弱いな。バカを排除するのも、骨が折れる」


アレクシスは、血の海に沈み、ぴくりとも動かなくなったディエスを一瞥しました。 


心音は限りなく弱く、魔力反応も消失している。


彼は興味を失ったかのように踵を返し、冷徹な足音を響かせながら闇の中へ消えていきました。


意識が遠のき、世界が急速に冷たくなっていくのを感じるディエス。 (……クソ……あの、野郎……。まだ……あいつの顔……一発も……)


死の縁で、ディエスの指先が虚しく地面を掻いた、その時です。


「――おーい! 頼むよおい、今日は厄日か!? なんでこんな夜更けに道の真ん中に『山』が落ちてるんだよ!」


ガラガラと耳障りな馬車の音と共に、場違いに陽気な、しかし焦りに満ちた声が響きました。


馬車から降りてきたのは、派手な商人の服を纏い、腹の出た小太りの男。


学園時代、ディエスが気まぐれでいじめられているところを助けた数少ない友人の商人マルコでした。


「どけよ、邪魔だなぁ……って、ひぇぇぇっ!? 死体!? いや、待て、このサイズ……この岩石みたいな質感……まさかディエスか!? おい、しっかりしろ! ディエス!!」


マルコは慌てて馬車の荷台へ駆け戻りました。


「最悪だ! 今日は注文ミスで、王都の騎士団病院に卸すはずだった『最高級ハイ・ポーション』が百本も不良在庫になってやがるんだぞ! 返品不可! 破棄するなら俺の破産確定……ええい、損害賠償なんて知るか! 全部飲ませてやるッ!!」


マルコは、一本で家が建つと言われる高価な薬瓶を、泣きべそをかきながら次々と開封しました。


「起きろ! 筋肉ダルマ! お前、俺に『将来大商人になったら、特製プロテインを共同開発してやる』って約束しただろうが! まだ一銭も稼がせてもらってねぇんだぞ! 投資回収させろッ!!」


ジャバジャバと、惜しげもなく浴びせられ、口に流し込まれる青白い神秘の薬液。


アレクシスの計算外。それは、ディエスがかつて育んだ「不器用な友情」と、商人の「致命的な発注ミス」という、二つの幸運が重なった奇跡でした。


薬液を浴びたディエスの筋肉が、バチバチと火花を散らすような音を立てて再生を始めます。

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