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第84話:筋肉、軍旗を掲げる


「ハンス、リナ、エルザ。……今から俺が言うことは、軍の規律に対する反逆だ。嫌なら今すぐここから立ち去れ。責めはしねぇ」


深夜の演習場。月明かりに照らされたディエスの背中は、いつも以上に巨大で、どこか恐ろしげな覇気を纏っていました。


「……何を今さら。あの少年のような『使い捨ての駒』を量産する組織に、忠誠を誓う事務官などいませんよ。私のペンは、あのような外道を裁くためにあります」 ハンスが眼鏡を指で押し上げ、冷たく、しかし確かな闘志を込めて答えました。


「私も行きます……! ディエス様についていけば、いつかあの子たちみたいな悲劇を止められるって信じてますから!」 リナが魔導杖を強く握りしめます。


「……ディエス様の背中、守る。……それが、私の役割」 エルザもまた、影の中から短剣を抜き放ちました。


仲間の決意を聞き、ディエスは野獣のような笑みを浮かべました。


「ガハハ! なら決まりだ。俺たちはこれより、軍内部に潜む『腐った正義』を叩き潰すための独立遊撃部隊となる! だがな……今のままじゃ、奴らの理不尽に押し潰される」


ディエスが地面を踏みしめると、演習場の土が爆ぜました。


「これからは、ただの訓練じゃねぇ。ハンスは情報の海で、リナとエルザは魔力と技の限界で……そして俺は、この肉体で『理不尽』そのものになる。名付けて……地獄のパンプアップ・レジスタンスだ!」


翌日から、ディエス中隊の様子は一変しました。


ハンスは表向きの事務をこなしつつ、裏ではアレクシスの派閥に繋がる資金源や、孤児院の不自然な記録を徹底的に「調査」し始めました。


「リナ、エルザ! 魔法や短剣の威力に頼るな! その技を放つための『土台マッスル』が足りねぇんだよ! 腕立て伏せ一千回追加だッ!!」


「ひ、ひぃぃぃ! ディエス様、鬼ですぅー!」 「……くっ。……まだ、いける」


悲鳴を上げるリナと、限界まで食らいつくエルザ。


その中心で、ディエス自身もかつてない「負荷」を自らに課していました。


背中に巨大な岩を背負い、指一本で倒立しながら、同時に「エア・ソリッド」の精度を高める。


拳を振るうたびに、大気が悲鳴を上げ、演習場の壁には無数の弾痕のような穴が開いていきます。


(アレクシス……。お前が世界を救う『ラスボス』だってんなら、俺は世界を壊してでもお前を止める『不条理なバーバリアン(野蛮人)』になってやるぜ)


ディエスの脳裏には、本来のゲーム『エターナル・キングダム』でアレクシスが放つ絶望的な力が浮かんでいました。しかし、今のディエスの筋肉には、その絶望を上回る熱量の怒りが宿っています。


「ガハハ! 燃えてきたぜ! 次の任務が何だろうと、まとめて筋肉で解決してやる!!」


軍の闇が深まる中、小さな、しかし決して折れない「筋肉の軍旗」が、深夜の演習場に静かに掲げられたのでした。

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