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第74話:霧に消える光と、死の王(リッチ)


旧墓地の奥深く、不自然なほど濃い霧がディエスたちの視界を完全に遮断しました。


「リナ! エルザ! 離れるなよ、この霧は筋肉の感覚を狂わせやがる!」


ディエスが叫びますが、返ってきたのはリナの短い悲鳴と、エルザの武器が空を切る音だけでした。


数瞬後、二人の気配はねっとりとした霧の向こう側へと吸い込まれ、ディエスは一人、静寂と死臭が漂う墓所の中心に取り残されました。


「ガハハ……。一人ぼっちか。広背筋が寂しがってやがるぜ」


強がって拳を握りしめたその時、背後の霧が凍りつくような冷気に変わりました。


ゆっくりと浮上するように現れたのは、ボロ布を纏った骸骨の巨躯。


手に持った杖からはどす黒い魔力が溢れ出し、周囲のレイスたちが畏怖するように道を開けます。


「……生者の温もり。筋肉という名の、贅沢な供物よ……」


「レイスどもの親玉か! 出てきやがったな、リッチ野郎!」


ディエスは腰の瓶を掴みましたが、指先に触れたのは空のガラスの感触だけでした。先ほどまでの乱戦で、虎の子の聖水は底をついていたのです。


「ちっ……聖水は切れちまったか。だが、俺にはこの拳がある!」


ディエスは岩石のような剛腕を振り抜き、リッチの顔面目掛けて渾身のストレートを叩き込みました。


しかし、拳は虚しくリッチの頭蓋を通り抜け、背後の霧をかき回しただけに終わります。


「物理無効……。この地において、肉体など無意味なのだ」 


リッチが杖を振るうと、ディエスの足元から無数の青白い手が伸び、その強靭な足を掴んで地面へと引き摺り込みました。


「ぬぉぉ……!? 足が、凍りつきやがる!」


物理耐性100%の敵。聖水という唯一の対抗手段を失い、さらに魔力を扱える仲間たちとも分断された最悪の状況。


リッチの放つ呪いの波動がディエスの肉体を蝕み、自慢の筋肉からじわじわと体温と活力を奪っていきます。


「ガ、ガハハ……! さすがに、掴めねぇ相手に……囲まれるのは……堪えるぜ……」


膝をつき、肩を震わせるディエス。リッチが嘲笑するように、冷徹な死の手をディエスの心臓へと伸ばしました。


リナもエルザもいない。物理も通じない。


ディエス・バルカス、人生最大の絶体絶命。筋肉の灯火が、今まさに消えようとしていました。

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