第73話:旧墓地の亡霊と、見えない策謀
アレクシス隊のジョエルを物理的に「耕した」騒動から数日。
ディエス中隊に下された次なる任務は、王都外れの**「旧墓地」に発生した亡霊、『レイス』**の調査と掃討だった。
「……またハンス准尉が不在の時に、こんな不気味な依頼を……」
リナが震える手で依頼書を読み上げる。
実は、参謀であるハンスは任務直前に「軍本部での緊急予算会議」に呼び出されていた。
あまりに急な呼び出し。まるでディエスから「知略」を奪い、孤立させるかのような軍内部の不自然な動きを、リナは敏感に察知していた。
「今回掃討するのは下級霊レイス。本来は新兵の魔法訓練用に使われるほど脆弱な存在です。魔法の一撃で霧散するほど魔防が低い反面、**『物理攻撃を一切受け付けない』**という極端な耐性を持っています」
「ガハハ! 幽霊退治か! 物理が効かねぇってことは、新しい筋肉の使い道が見つかるかもしれねぇな!」
「笑い事じゃないですよぉ! 相手は幽霊、死んだ人の魂ですよ!? 剣も拳も素通りする相手に、どうやって勝つんですか!」
「……リナ、うるさい。……ディエス様の背中、隠れるのにちょうどいい」
エルザが淡々とディエスの分厚い背中の影に潜り込む横で、リナは王都を出る前からガタガタと膝を震わせていた。
本来は新兵でも対応可能な内容とのことで故人での対応が命じられている。恐らくディエスの体質を知っての嫌がらせだよ
旧墓地へ向かう道中、辺りは不自然な霧に包まれ、空気は氷のように冷え切っていく。
「ひぃっ! い、今、木陰で何かが笑いました! 絶対笑いましたって!」
「風の音だろ。リナ、そんなに震えてちゃいいスクワットができねぇぞ。ほら、おまえの素敵な胸を張れ!」
「無理です! 筋肉で幽霊が払えるなら、この世に聖職者なんていりませんよぉ!」
リナがディエスの太い腕にしがみついて泣き言を言っていると、前方から「ヒタヒタ」と濡れた足音が近づいてきた。
霧の向こうから現れたのは、半透明の青白いローブを纏ったレイスたちの群れ。
「……出た。……斬れない、気配。……厄介」
エルザが短剣を構えるが、レイスたちは彼女を無視し、最も生命力に溢れた「巨大な肉の神殿」――すなわちディエスへと、ゆらりと狙いを定めた。
「ガハハ! 来たか、半透明の野郎ども! 挨拶代わりだ、俺のパンチを受けてみろ!」
ディエスが岩石のような拳を繰り出し、空気を引き裂く轟音が墓地に響き渡る。
しかし、その拳は一切の手応えもなくレイスの体を通り抜け、背後の巨大な石碑を粉々に粉砕しただけだった。
「あはは……! だから言ったじゃないですか! 物理は効かないんですよぉぉ!」
「ぬぉ!? 本当に手応えがねぇな。だが、当たらないなら当たるまで振るのみだ!」
ディエスが楽しそうに拳を連打し、凄まじい風圧を発生させる中、レイスたちの動きに変化が現れた。
彼らは物理を無効化するがゆえに、ディエスの「物理特化」の肉体は、本来なら格好の餌食、あるいは無害な置物のはず。
しかし、この「物理無効」という世界の理に対し、ディエスの筋肉はまだ何の答えも出していなかった。
そして、ハンスを遠ざけた軍上層部の「影」は、この墓地でディエスが敗北することを確信し、冷たく笑っていた。




