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第71話:嵐の後のプロテインと、謎の「オネエさん」


砂煙が収まり、粉々になった土塊が演習場に積もる中、ディエスは岩石のような上半身から立ち昇る凄まじい湯気に包まれていました。


「ふぅ……。いい刺激だった。ジョエル、あんたの魔法、また一段と密度が上がったんじゃないか?」


ディエスが爽やかに笑いかけるも、ジョエルは己の魔力が物理的に引き裂かれたショックから立ち直れず、膝をついたまま茫然自失としています。


「ジョエル」


冷たい声が響きました。アレクシスが静かに歩み寄り、膝をついたジョエルを見下ろします。


「力を制限していたとは言え、無様だな。貴様のプライドが筋肉に踏み潰される光景は、見ていて実に不快だった。私でなければ、貴様のような役立たずは即座に処分しているところだ」


アレクシスの容赦ない叱責に、ジョエルは悔しさに奥歯を噛み締めました。


「……申し訳ありません、アレクシス様」


「次はない。心しておくことだ」 


アレクシスはジョエルを一瞥すると、すぐに興味を失ったかのように踵を返しました。


その冷徹な視線は、再びディエスへと向けられます。


ディエスを「脅威」とまでは見ていないものの、「予測不能な要素」としての警戒心は、彼の心に確実に根を下ろし始めていました。


そこへ、観覧席からひらりと蝶のように飛び降りてきた影がありました。


「あらァ……。本当に凄かったじゃない、ぼうや。まさかジョエルちゃんの『地核落とし』をベンチプレスにしちゃうなんて。お姉さん、見てるだけでお肌が熱くなっちゃったわ」


細身の体をくねらせ、派手なドレスの袖で口元を隠しながら、化粧を厚塗りした青ひげの男、ミスティが妖艶な香りを漂わせながら歩み寄ってきました。


その視線は、ディエスの怒張した大胸筋をねっとりと這い回っています。


「ガハハ! おっさんも見ててくれたか! ジョエルの土圧、なかなかいい負荷だったぜ。やっぱり魔法軍にも骨のあるやつがいるな!」


ディエスが太陽のような笑顔でミスティの肩をバチンと叩こうとしましたが、ミスティは身軽な動きでそれをかわし、頬を赤らめて口元に手を当てました。 


「ちょっとぉ……。誰が『おっさん』よ。失礼ねぇ、ぼうや。いい? 次からは『オネエさん』って呼びなさい。そうしてくれたら、次はもっと『気持ちいい刺激』をあげてもいいわよ?」


「オネエさん? よくわからねぇが、よろしくな、オネエさん!」


ディエスが豪快に笑いながらハンスたちの方へ戻っていくと、背後から「ディエス様ぁーーッ!!」と、般若のような形相のリナが駆け寄ってきました。


「な、何してるんですか、この筋肉バカ! 相手はアレクシス副軍団長の側近ですよ! 変な勧誘に乗らないでください!」


「リナ、落ち着け。オネエさんは俺の筋肉を褒めてくれたんだ。いい人だぜ」


「オ、オネエさん……!? また変な人に絡まれて……!」


リナが頭を抱える横で、エルザは無言でミスティを警戒し、自らの細い腕に力を込めていました。


「……ディエス様の筋肉は、エルザが守る。……オネエさんには、渡さない」


「ふふふ、怖いお顔。いいわよ、ぼうや。また遊びましょうね」


ミスティは満足げに腰をくねらせてアレクシスの元へと戻っていきました。


その様子を、アレクシスは苦虫を噛み潰したような顔で、しかしどこか計算深い目で見つめていました。


こうして、演習という名の「筋肉のお披露目会」は、魔法軍の中に深い爪痕(と、ディエスに対する新たな関心)を残して幕を閉じたのでした。

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