第147話:毒には毒を、筋肉には「超回復」を
重力魔法によって大地に縫い止められ、毒魔法の紫煙に包まれたディエスの巨体。
周囲の石畳は瞬時に腐食して砂へと還り、ディエスの自慢の大胸筋からも、ジジ……と肉が焼けるような不吉な音が響いていました。
「……終わりだ。筋肉などという不確定な物質は、重力に従い、毒に崩れる。それがこの世界の、逃れられぬ法則だよ」
アレクシスは冷徹に見下ろしました。
英雄の仮面を脱ぎ捨て、隠していた本性――「不浄を徹底的に排除する毒」としての自分。その瞳には、友への情など微塵も残っていないように見えました。
しかし、その重圧の中心から、地鳴りのような笑い声が漏れ出したのです。
「……カッカッカ! アレクシス……お前、最高だな……!」
「……何が可笑しい。神経まで毒に侵されたか」
「逆だよ! 重力で全細胞に負荷をかけ、毒で組織を破壊する……。これ、最高の**『超回復』**の環境じゃねぇか!!」
ドクン、とディエスの心臓が、戦場の地響きをかき消すほどの音を立てて脈動しました。
「極限代謝!!」
ディエスの毛穴から、噴水のように蒸気が吹き出しました。
それは、体内に侵入した毒を「エネルギー」として強制的に燃焼させ、重力によるダメージを即座に「筋繊維の強化」へと変換する、生物学を無視した究極の生存本能。
「ぬんんんんッ!!」
ディエスがゆっくりと、その巨体を持ち上げました。数トンもの重圧がかかっているはずの背筋が、ミシミシと音を立てながら、アレクシスの重力魔法を力任せに押し返していきます。
「な……!? 馬鹿な、私の重力下で立ち上がるだと……? 毒はどうした、貴様の細胞は腐死しているはずだ!」
「腐ったそばから新しく造ってるんだよ!壊れねぇもんが強いんじゃねぇ。壊れるたびに、前よりもデカくなって繋ぎ合わさる筋肉(組織)が強いんだ。お前の作った『完璧な檻』は綺麗だが、一度ヒビが入ればおしまいだぜ」
ディエスの肌は、紫の毒を吸収して逆にどす黒い輝きを放ち、その筋密度は戦い前よりも明らかに増大していました。
毒という「不純物」を食らい、重力という「重荷」を糧にする。それはアレクシスが最も忌み嫌う、法則を超越した**「野生の進化」**でした。
「お前が『重い正義』を押し付けてくるなら、俺はそれを全部背負ってスクワットしてやるよ! さあ、第二ラウンドだ、アレクシス!!」
ディエスが重力の檻を物理的に引きちぎり、再び大地を蹴りました。
高台で観戦していたミスティが、可笑しそうに膝を叩きます。
「あらあら、アレクシス。あなたの『死の宣告』が、あの子にとってはただの『筋トレメニュー』になっちゃったわね。ふふ、不条理すぎて涙が出るわ」
アレクシスの顔が、驚愕を通り越して、屈辱に真っ赤に染まりました。
「……筋肉ダルマが……! どこまで私の計算を汚せば気が済むのだッ!!」
アレクシスは狂ったように魔力を暴走させ、さらなる重力弾を生成し始めました。 王都の「理論」と、辺境の「生存」。二人の意地は、もはや言葉を介さない純粋なエネルギーの衝突へと突入します。




